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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
序章:女王召還
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第4話:不幸と迎え

 モリヒトとユキオは、森の中を歩く。

 とりあえず、先ほどの熊もどき以降は、特に動物らしい動物には会わなかった。

 空を見上げる。

「日が暮れてきたように見える」

「見えますね」

「・・・・・・ここで一晩過ごすとか、勘弁してほしいところだが」

「そうですね」

 頷きつつ、ユキオはモリヒトを見る。

「・・・・・・大丈夫ですか?」

「・・・・・・慣れてる」

 ひどい有様だった。

 モリヒトの後をついて歩くユキオは、特にどうということもないのに、モリヒトはかなりぼろぼろになっていた。

 熊もどきをユキオが殴り飛ばした後だ。

 先を歩くモリヒトが、下草に隠れたくぼみを踏み抜いて転ぶこと五回。木の上から落ちてきた木の実が頭に直撃すること八回。下草に隠れた木の根に躓くこと数知れず。

 蜘蛛の巣を引っかけたり、鳥の巣が落ちてきたり、ヒルが落ちてきたり、蛇が落ちてきたり、ちょうど通りかかったところに枝が折れて頭を直撃することもあった。

「・・・・・・私が前を歩いたほうが・・・・・・」

「そんなことをしたところで、起こることは大して変わらん。君が通り過ぎた後に、俺の頭に何かが降ってくるだけだ」

 自嘲する。

「・・・・・・よくあることなんですか?」

「たまにな。外に出れば大概何かが降ってくる」

「・・・・・・不幸、なんですね」

「そうかもな」

 不幸、というか、自分の力ではどうにもできないことが、モリヒトにダメージを与えるように動くだけだ。

「昔からそうなんだ。もはや慣れた」

「はあ・・・・・・」

「前向きにいこう。俺が前を歩くおかげで、後ろを歩く君には、ダメージがない」

 まあ、実際にはどこにいようが、モリヒトに集中するだろうが。

「後ろ向きだと、ろくなことがない」

 吐き捨てて、さらに先に進む。

 振り向いてユキオを確認すると、こちらが通った後を確認しながらついてきている。

「・・・・・・」

 大丈夫そうだ。

「・・・・・・モリヒトさん」

「何だ?」

「ここは、どこだと思いますか?」

「さあな。俺には分からない」

 首を傾げる。

「推測するなら、日本じゃない」

 それどころか、

「異世界とかなら面白いかもな」

「・・・・・・本当に異世界だったらどうします?」

 窺うような声に、適当な声で返す。

「別にどうも」

「・・・・・・帰りたい、とか思わないんですか?」

「いや、まったく」

 即答すると、

「何でですか?」

 すごく不思議そうな顔をしている。

「特に理由がない」

「帰りたい理由が、ですか?」

「まあな」

 ふむ、と考え、

「君はどうなんだ? 何かあるのか?」

「妹がいます」

「シスコンか」

 頷くと、

「違います!」

 ものすごい大声で返された。

「ただ、ちょっと変わった子だから心配で」

「変わった、ねえ」

 どんな風にだろうか。

「・・・・・・あの子。人の心が読めるんですよ」

「へえ。・・・・・・それは大変そうだ」

 本心から返す。

「大変、ですか?」

「大変だろうな」

 いろいろと思うところを以て、そう答える。

 頭の上に降ってきた毛虫を払う。

「・・・・・・不幸な人の心情なんて、理解しない方がいい」

「モリヒトさんのことですか?」

「俺だけじゃないけどな」

 嘯いて、先へ行く。

「・・・・・・」

「モリヒトさんは、心を読まれたら、嫌だと思いますか?」

「・・・・・・ふーむ・・・・・・」

 読まれたら、か。

「・・・・・・そこらは、気遣いの問題じゃないか? 読んだ方が心の内に秘めておけば、特に問題にはならない」

「読む方の問題だと?」

「違うかい? 要は、日記を盗み読みした人間が、どうすれば日記の主のプライバシーを守れるか、ということだろう?」

「読まれる方は、どっちにしても嫌だと思いますけど?」

「読まれたことにすら気づかせなければいいのでは? おしゃべりにならなければ、それもできるだろう」

「・・・・・・なるほど」

 くす、と笑う。

「いい人ですね? モリヒトさんは」

「まさか・・・・・・」

 吐き捨てる。

「表に出さないだけで、俺は悪人だ」

「・・・・・・悪人、ですか?」

 不思議そうな顔だ。

「・・・・・・気にするな。大したことじゃない」

 手をひらひらと振って、立ち止まる。

「どうかしました?」

「・・・・・・」

 し、と唇に人差し指を当てる。

「?」

 首を傾げながら、ユキオは静かになった。

 そして、気付いたのか顔を上げた。

「・・・・・・何か聞こえますね」

「・・・・・・金属音に聞こえるんだよな。・・・・・・金属がこすれたりするときのような・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 二人で静かに待っていると、

「あ」

 草木がガサガサと揺れ、数人の人間が現れた。

 フードを目深にかぶった人間と、鎧を着た人間が複数だ。

「・・・・・・人間、だと思うが・・・・・・」

「人間でしょうね」

 その複数の一段から、フードを被った人間が進み出てきた。

 そして、

「お迎えにあがりました。我らが王よ」

「王だって。君のことじゃないか? ユキオさんや」

「あなたのことじゃないんですか? モリヒトさん」

 ふむ、と考え、

「どっちに言ったんだ?」

 聞くと、フードの人間は、ユキオを示した。

「ほら君だ」

 一歩を下がると、

「・・・・・・お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「・・・・・・ハチドウ・ユキオです」

「ユキオ様、ですね?」

 確認を取って、その人物はフードを取って、跪いた。

 二十代半ば程度の女性だ。

 紫色の髪が鮮やかである。

「私は、ライリン。今回、陛下の召還を行った巫女の長です」

「・・・・・・ということは、あなたが私をここに連れてきたの?」

「はい」

「・・・・・・ここは、どこですか?」

「異世界です」

 端的な答えに、ユキオは言葉を失っている。

「世界の名前とかある?」

「ありません。ただ、陛下が前にいた世界とは異世界である、とそれだけです」

「・・・・・・まあ、ここで話をしていてもしょうがないんじゃないか?」

 モリヒトが言うと、ライリンが立ち上がって頷いた。

「では、城へとお送りいたします」

 そのあと、ライリンの目がモリヒトに向き、

「貴方のお名前は?」

「カムロ・モリヒトだ」

「では、モリヒト様」

「はいはい」

「貴方も同行していただけますか?」

「いや、むしろこちらからお願いしたいぐらいだが」

 こんなところに取り残されても困る。

「では、こちらです。道々、この世界と、陛下のことについて、ご説明いたします」

 周囲を騎士が固める。

「・・・・・・馬車とか、いや、さすがにこんな森の中じゃ無理か」

「馬を引いてこようかとも思ったのですが、異世界人で馬に乗り慣れている方はあまり多くないですから」

 ライリンが言った。

「森の外に馬車を用意してあります。もう少しですから」

「そりゃよかった」

 モリヒトは頷き、

「で、あとどのくらい?」

「ほんの三十分ほどです。では、我々の後についてきてください」

 そうして騎士達を伴い、二人は森の外を目指すのだった。


** ++ **


「・・・・・・異世界、か・・・・・・。で、王さまってことは、王国なんだな?」

「はい、テュール異王国。ここは、その王都の北に広がる森の中です」

 馬車の中。

 二人並んで揺られながら、モリヒトとユキオはライリンから説明を受けていた。

「なお、守護者として三名。陛下の世界の方が王城に召喚されています」

「守護者?」

「皆、陛下に縁深き方々のはずです。男性一名と女性二名でした」

「と、いうことは・・・・・・」

 ライリンの言葉を聞いて、ユキオは頭の中で名簿を開いたようだ。

「・・・・・・」

 黙考に入ったユキオを置いて、

「俺は、何で召喚されたんだ?」

「いえ。モリヒト様は、乱入者、あるいは、巻き込まれです」

「・・・・・・乱入?」

「はい。本来、王と、その周囲の守護者以外は召喚されないはずなのですが、なぜかモリヒト様も一緒に召喚されてしまいまして・・・・・・」

 首を傾げた。

「・・・・・・理由が分からないのか?」

「はい。こんなことは、王国史上初めてのことです。故に、原因を研究し、二度とこのようなことが起こらないようにしないと」

 はっきりと頷いて、ライリンはモリヒトを見る。

「原因が分かるまでは、ご協力、お願いします」

「分かった」

「・・・・・・うーん」

「どうした?」

 ユキオが不意に唸り声を上げたので、聞く。

「・・・・・・いえ、何でもないです」

「そうか?」

 まあ、何でもないならいいか、と頷く。

「・・・・・・お?」

 馬車の窓から、大きな建物が見えた。

「あれか、王城ってのは・・・・・・」

 呟きを聞いたのか、ユキオも窓の外を見て、

「・・・・・・大きいですね」

「あれでも、この世界では小さい方です。隣国のオルクト魔帝国の帝城などは、あの城の数倍の大きさがありますし」

「・・・・・・マジで?」

「この世界って、すごいですね・・・・・・」

 まったくだ。


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