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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第1章:オルクト魔皇帝
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閑話:ぴこぴこと

閑話2

 腕を生やした後のこと。

 ぼんやりと目覚めたモリヒトは、ルイホウから診察を受けていた。

 その助手をしているユエルをなんとなく眺めて、ふと呼びかけた。

「なあ、ユエル」

「はい? 何でしょうか? モリヒト様」

 じ、とモリヒトはユエルの顔を見つめる。

「どうかしたんですか? モリヒト様。はい」

 横にいるルイホウが、首を傾げて聞く。

「うむ」

 なにやらもっともらしく頷いたモリヒトは、厳かな顔をして、

「・・・・・・耳、触っていい?」

「何を言っているんですか。はい」

 ルイホウから、どす、と脇腹に肘打ちが入った。

「・・・・・・」

 悶絶して蹲るモリヒトから、ユエルが耳を押さえて距離を取る。

「い、いきなり何ですか?」

「いや、だってよ・・・・・・」

 立ち直ったモリヒトは、ユエルの顔を見つつ、

「だって、なあ?」

「何が、なあ、ですか。はい」

 同意を求めるようにルイホウに向き直っても、ルイホウは呆れの半目を向けるだけだ。

「・・・・・・おいおい。分かるだろう?」

 モリヒトの目は、ユエルの顔に向かう。

 正確には、その耳だ。

 他の者達とは違う、妖精種特有の、横に長い耳。

 それが今、上下にぴこ、と動いた。

「・・・・・・あんな、ぴこぴこ動くんだぞ? 気になるだろうが!?」

 半ば叫ぶように言ったモリヒトに、

「分かります。はい」

 ルイホウは頷いた。

「先輩?!」

 ユエルは、愕然とした顔をルイホウへと向けるが、ルイホウは落ち着け、とでも言うように手の平をユエルに向け、微笑みを浮かべて一つ頷いて見せ、モリヒトへと向き直る。

「ですが、ダメですよ。はい」

「ダメか」

「ダメです。はい」

 むう、と唸り、モリヒトは腕を組む。

「しかし、妖精種ってのは、皆あんななのか?」

「耳のことを言っているなら、あの耳は妖精種の特徴ですね。はい」

 ぴこぴこと上下に動く

「・・・・・・種族の特徴なんだよな?」

 ぴこん、と跳ねた。

「触りたい・・・・・・」

「呟かないでください。はい」

 はあ、とルイホウはため息を吐く。

「でも、あれだろ? ユエルに限らず、ユエルの一族は皆こんな耳をしていて」

「いえ、それは違います。はい」

「ん?」

 種族の特徴というなら、一族的にそういうものではないのだろうか。

「妖精種はどちらかというと、混ざり髪に近い存在なんです。はい」

「そうなのか?」

 ユエルを見ると、ユエルは頷く。

「混ざり髪は、精霊との関係が深い存在ですが、妖精種は地脈、つまり真龍の影響を多く受けた存在なのです」

「じゃあ、両親は」

「両親は普通の人間です」

 ん~、と考える。

「でも、種族の特徴なんだよな?」

 ルイホウが、ぴ、と指を立てた。

「妖精種は、大きく分けて八の系譜に分けられます。はい」

 何か説明モードが始まった。

「何で八?」

「真龍の数です。はい」

 地脈の源流だる真龍は、世界中で数が八と決まっている。

「地脈の影響とは、すなわち、真龍の影響。故に、妖精種は八系譜ということになるのです。はい」

「ほうほう」

 ユエルの顔を見る。

 正確には、その耳を。

「この国や、お隣の魔帝国だと、黒の真龍の影響が強いですから、黒曜族が多いですね。はい」

「その割には、あまり見ないけど? つうか、街に出たときも、普通の人間しか見なかったぞ?」

 前にこの世界のことはある程度聞いた。

 その中には、人間以外の種族についてもあったはずだが。

「・・・・・・モリヒト様が仰られているのは、獣人などのことですね? はい。彼らは、基本的にこんな辺境には来ません。はい」

「そうなのか?」

「そうです。この大陸には、元々人間しか住んでいません。はい」

「先住民?」

「別の大陸には、獣人だけが住んでいる大陸や、半分海に沈んだ、魚人の住む大陸もあるそうです。はい」

「大陸ごとで種族が違う、と」

「つまり、別種族、というのは、わざわざ海を渡ってきた種族なのです。はい」

 もともとの絶対数がこの大陸では少ない上に、

「こんな特に見るものもない辺境では、寄り付く理由もありませんから。はい」

「この国で、獣人とかを見る可能性はかなり低いってことか」

「竜殺しの大祭が近づけば、観光客も少し増えますが。はい」

 ふうん、と頷く。

「で、話を戻すけど、妖精種って、何か他と違うのか?」

「地脈の影響を受けていますから、魔術に対する適正が高くなりやすいです。はい」

「魔術が得意?」

 モリヒトが首を傾げると、ユエルがいえ、と首を振った。

「一概にそうとも言えないのです」

「というと?」

「個人差があるのです」

「種族差ではなく?」

「個人差なのです。私と同じ黒曜族でも、身体強化の方が得意な人もいますから」

「へえ・・・・・・」

 不思議な種族だ、と思いつつも、

「じゃあ、他の妖精種も似たような感じか」

「そうですね。妖精種ごとに、ある程度の傾向はあるらしいですが。はい」

 ふむ、と頷いた。

 おもむろに、手を伸ばす。

 摘んでみた。

「ひゃいっ?!」

 こねてみる。

 耳は耳だった。

 感触的には、普通の耳とさして変わらない。

 そこまで思ったところで、思い切り頭をどつかれた。

「何をやっているんですか。はい」

 ルイホウの目は、呆れたというより、どこか蔑みの色を持っている気がした。


** ++ **


「というわけで、少し探してみようと思う」

「何が、というわけなのよ?」

 ルイホウと街に出ようとしたら、アトリも街に出るつもりだったそうなので、同行することにした。

 そして、街に辿り着いた段階で、言ったモリヒトのセリフにアトリは首を傾げる。

「うん。何だかんだで、大祭が近づけば、観光客も増えるらしいから、気の早い奴は今から来ていないか、と」

「観光客?」

「具体的に言うと、異世界的ファンタジーな住人だな」

「どこが具体的よ?」

「エルフっぽいのはもう見たから、次はもこもこ?」

「もこもこ?」

「耳とか」

「・・・・・・? よく分からないのだけど」

「まあ、要は、俺達人間とは違う種族」

「・・・・・・ふうん?」

 やっぱりよく分からない、とアトリは首を傾げる。

「・・・・・・さてさて?」

 道行く人を眺めてみるが、

「やっぱ、普通の人間しかいないな」

「まだまだ、大祭は先の話ですから。はい」

 だよねえ、と肩を落とすモリヒトに、アトリは首を傾げたまま、口を開いた。

「というかさ」

「ん?」

「ユキオが召還されたことって、まだ大々的に広まってないわよね?」

 え、とモリヒトがルイホウを振り返ると、ルイホウは頷いた。

「国家としての関係上、魔帝国には伝えてありますが、まだ大陸に広まるには早いかと。はい。・・・・・・国民への告知もまだ完全ではありません。はい。あと一ヶ月もすれば、噂も広まるでしょうが、まだその段階ではないでしょうね。はい」

「つまり、この国以外で、一般人が今年は大祭やるって知っている国って、まだないんじゃないかしら?」

「むう・・・・・・」

「まあ、この国に住んでいるものもいるかもしれませんが。はい」

 不満を顔に表したモリヒトをなだめるように、ルイホウは苦笑して言った。

「・・・・・・まあ、いいんだけど」

 ふう、とアトリは肩をすくめる。

「私は私の用があるから、もう行くわよ?」

「む。そうか」

 じゃあな、とアトリを見送り、

「まあいいや、せっかく出てきたんだし、土産の一つでも探していこう」

「そうですね。はい」

 ルイホウがにこりと笑ってモリヒトを見ると、モリヒトはもぐもぐと肉串を食べている。

「・・・・・・いつの間に買ったんですか・・・・・・。はい」

「ん。ついさっき」

 結構いい感じに胡椒の効いた肉を齧りながら、モリヒトは応える。

 ちらちらと後ろを振り返るモリヒトを見て、ルイホウは首を傾げた。

「どうかなさいましたか? はい」

「ああ、うん・・・・・・」

 モリヒトの視線の先には、肉串を買ったと思しき屋台がある。

「・・・・・・さっきの屋台の店主。犬耳生えてた」

「ああ、獣人ですね。はい」

「・・・・・・いるところにはいるね」

 妙に平坦な声でモリヒトは言う。

「まあ、そうでしょうね。はい」

「・・・・・・でも、おっさんだったんだ」

「・・・・・・はい? はい」

 首を傾げ、ルイホウはモリヒトを見る。

「夢が壊れた」

 はああああ、と長々とため息を吐いたモリヒトは、のんびりと歩く。

 ルイホウが少し後に続くのを気配で感じながら、モリヒトはあちらこちらの屋台に目をやる。

「次は何を食おうか」

「食い気ですか。はい」

「食い気だとも」

 うむ、と頷き、

「美女は傍にいるからな。次は食い気だ」

「・・・・・・」

「最後に眠気がくれば三大欲求そろい踏み、と」

 食い終わった肉串を捨て、目に付いた屋台に近づいて買う。

「・・・・・・さあ、今度は粉ものだ」

 買ったのは、ピザだ。

 この世界では、ニーツァというらしい。

 小麦粉をこねた生地にソースや野菜、チーズの類を載せて焼き、最後に筒状に丸めて持ちやすくし、大きめの葉野菜を持ち手に巻いたものである。

 葉野菜の部分は食べてもいいし、捨ててもいいもののようだ。

 モリヒト達の世界でなら、紙で巻いておくかもしれないが、この世界だとまだ紙は使い捨てにできるほどに普及していない。

「あ、これうまい」

 食べ歩きには最適だ。

「ルイホウルイホウ。こう、さわやかな飲み物を」

「何ですか? その大雑把な指示は。はい」

 ふう、とため息を吐いて、ルイホウは少し視線を走らせ、一つの屋台に近づいていった。

「・・・・・・どうぞ。はい」

 ルイホウが差し出したのは、果実そのものだ。

「・・・・・・丸のまま・・・・・・」

 一種、絶句を味わっていると、

「水気がとても多い果物ですので、飲み物として十分なものです。はい」

「ふむん?」

 一噛みすると、いきなり口の中に水分が溢れる。

 どこか炭酸にも似た口当たりに、林檎に似た味がする。

「・・・・・・なるほど、美味いね」

 何となく、口当たりがいい。

「この国だとよく採れる果物です。はい」

 子供のおやつから、土木作業に赴く者達の水筒代わりにまで、色々使われるらしい。

 モリヒトは市場を見回す。

「しかし、屋台が結構出ているもんだな。俺の国じゃあ、こういうのは祭りの日の光景なんだがなあ・・・・・・」

 隙間なく、というわけではないが、結構屋台が並んでいる。

「ま、にぎやかなのはいいことか」

「これから、もっとにぎやかになります。はい」

「そうかい」

 ユキオの手柄だね、と笑う。

「よし、なら、大祭を楽しみにしてみよう」



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