第41話:森の中へ
ヴェルミオン大陸東部は、南北の境界となる地域に、深い森がある。
特別に太い地脈の通るこの地域は、東部の中でも魔獣の生存の活発な地域だ。
西部ならば、黒の森に匹敵する魔力濃度を持つのだが、あの森ほどに安定した森ではない。
大陸中央の山脈西部の麓に広がる『黒の森』は、『森守の一族』が住まう森だ。
その中で生息する魔獣は、巨体で力も強い。
ただ、森の中に漂う魔力量が生半可なものではなく、常に魔力的に満たされているため、暴れることはまずない。
むしろ、下手に魔術などを使って周囲の魔力を消耗する方が、魔獣に襲われる危険がある。
だがこれは、長い年月をかけ、オルクト魔帝国が『森守の一族』と力を合わせて、環境を整えてきた結果でもあった。
『黒の森』から流れ出る地脈に対し、河に堰を設けるように、その流出を一時的に押しとどめる処置が施されている。
そのため、『黒の森』は、他地域に比べて魔力が溜まりやすい環境となっている。
その分、『瘤』の発生率なども高いのだが、そのあたりはオルクト側が魔力の流出量を調整することで、魔力が『黒の森』の中で滞留することを防ぐようにしている。
この処置によって、『黒の森』ではすべての動植物が魔力の影響を受けて、力強く巨大に成長する。
オルクト魔帝国では、そうして出来上がった豊かな材木を、資材として運用している。
また、そのおかげて、生息する魔獣たちも穏やかに生息していくことができる。
一方で、大陸東部中央に広がる森林地帯は、というと、そのような処置はできていない。
太い地脈の上に、自然とできた魔獣域だ。
途中で枝分かれして、東部の各地に地脈を伸ばしていくが、その分、中央の地脈の上にあふれる魔力は希薄になる。
しかも、その時々によって、地脈を流れる魔力には波があるため、魔力が濃いときと薄いときが発生する。
常に魔力の濃さが安定するように調整されている『黒の森』と異なり、こちらの森林地帯は、魔力の濃度にムラがある。
その結果として、大陸東部中央の森林地帯にある魔獣域に生息する魔獣たちは、時折、非常に獰猛になる。
** ++ **
モリヒト達の前方に、森が見えてきた。
ここに来るまでの間に、何度となく魔獣の襲撃を受けた。
だがその代わりに、敵対的な軍隊や傭兵の攻撃、というようなものはなかった。
『黒兎』が動いているならば、傭兵団を雇うことも可能だ。
だが、そういった動きはなかった。
「・・・・・・妙なものだ」
ジャンヌは、遠目に見える森を見ながら、うなった。
「安全な旅路ってことかい?」
モリヒトは、肩をぐるぐると回す。
周囲には、打ち倒した魔獣が転がっていた。
「俺としては、結構経験値を稼げた気分」
ここに来るまでの間に、数度の魔獣の襲撃があり、それをすべて退けている。
その間、クルワやレンカに守られるだけではなく、モリヒト自身も何度か戦闘を行っている。
剣での戦いもそうだが、魔術をぶっ放すこともやっている。
おかげで、大分戦闘経験を積むことができた。
「とはいえ、疲れはしたな」
「そりゃあそうでしょうね」
「クルワは、まだまだやれる感じか」
「アタシの場合、モリヒトから魔力をもらっているから」
モリヒトには、魔力の吸収能力があるため、実質的に魔力量に制限がない。
そのため、クルワもレンカも、使用できる魔力量には実質上限は存在しない。
モリヒトさえ無事なら、ほぼ無限に活動できる。
「・・・・・・クリシャとフェリは?」
「あっちはあっちで、適当にやってるから」
あちらはあちらで、適度に襲撃をやり過ごしつつも、必要な部分で戦闘して、といろいろやっている。
時折、フェリが倒した魔獣を取り込んだりしている。
体の一部が変化して、倒した魔獣の死骸に食いつく姿は、なんともいえない。
ジャンヌは、露骨に目をそらしていた。
「とにかく、あの森に行くんだろう?」
「ああ。あの森を通って、戦場になっている平原に近づく」
そして、オルクト側と接触し、モリヒトが保護されれば、目的は達成される。
「たどり着いたら、ジャンヌは、どうするんだ?」
「どうとも? もらえるものがあるならもらうけどな。そうでなくとも村に戻る」
「・・・・・・それでいいのか?」
「どうしようもない。正直、この戦争は無駄っていうことはわかるがな」
ふん、とジャンヌは腕を組んで、うなった。
「ラヒリアッティは、もう戦争なしじゃあ維持できない。結局、なあなあで続けていくしかないんだよ」
「そうか」
「規模を広げるのは困るが、今の状態は続いてほしいところだな」
「難しくない?」
「技術局の動向次第、というところか」
やれやれ、とジャンヌはため息を吐いた。
ともあれ、と森を見る。
「森に突入するのは、明日にする。今日は、近くでキャンプを張る」
そういうことになった。
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