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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第10章:古代の足跡
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第41話:森の中へ

 ヴェルミオン大陸東部は、南北の境界となる地域に、深い森がある。

 特別に太い地脈の通るこの地域は、東部の中でも魔獣の生存の活発な地域だ。

 西部ならば、黒の森に匹敵する魔力濃度を持つのだが、あの森ほどに安定した森ではない。

 大陸中央の山脈西部の麓に広がる『黒の森』は、『森守の一族』が住まう森だ。

 その中で生息する魔獣は、巨体で力も強い。

 ただ、森の中に漂う魔力量が生半可なものではなく、常に魔力的に満たされているため、暴れることはまずない。

 むしろ、下手に魔術などを使って周囲の魔力を消耗する方が、魔獣に襲われる危険がある。

 だがこれは、長い年月をかけ、オルクト魔帝国が『森守の一族』と力を合わせて、環境を整えてきた結果でもあった。

 『黒の森』から流れ出る地脈に対し、河に堰を設けるように、その流出を一時的に押しとどめる処置が施されている。

 そのため、『黒の森』は、他地域に比べて魔力が溜まりやすい環境となっている。

 その分、『瘤』の発生率なども高いのだが、そのあたりはオルクト側が魔力の流出量を調整することで、魔力が『黒の森』の中で滞留することを防ぐようにしている。

 この処置によって、『黒の森』ではすべての動植物が魔力の影響を受けて、力強く巨大に成長する。

 オルクト魔帝国では、そうして出来上がった豊かな材木を、資材として運用している。

 また、そのおかげて、生息する魔獣たちも穏やかに生息していくことができる。

 一方で、大陸東部中央に広がる森林地帯は、というと、そのような処置はできていない。

 太い地脈の上に、自然とできた魔獣域だ。

 途中で枝分かれして、東部の各地に地脈を伸ばしていくが、その分、中央の地脈の上にあふれる魔力は希薄になる。

 しかも、その時々によって、地脈を流れる魔力には波があるため、魔力が濃いときと薄いときが発生する。

 常に魔力の濃さが安定するように調整されている『黒の森』と異なり、こちらの森林地帯は、魔力の濃度にムラがある。

 その結果として、大陸東部中央の森林地帯にある魔獣域に生息する魔獣たちは、時折、非常に獰猛になる。


** ++ **


 モリヒト達の前方に、森が見えてきた。

 ここに来るまでの間に、何度となく魔獣の襲撃を受けた。

 だがその代わりに、敵対的な軍隊や傭兵の攻撃、というようなものはなかった。

 『黒兎』が動いているならば、傭兵団を雇うことも可能だ。

 だが、そういった動きはなかった。

「・・・・・・妙なものだ」

 ジャンヌは、遠目に見える森を見ながら、うなった。

「安全な旅路ってことかい?」

 モリヒトは、肩をぐるぐると回す。

 周囲には、打ち倒した魔獣が転がっていた。

「俺としては、結構経験値を稼げた気分」

 ここに来るまでの間に、数度の魔獣の襲撃があり、それをすべて退けている。

 その間、クルワやレンカに守られるだけではなく、モリヒト自身も何度か戦闘を行っている。

 剣での戦いもそうだが、魔術をぶっ放すこともやっている。

 おかげで、大分戦闘経験を積むことができた。

「とはいえ、疲れはしたな」

「そりゃあそうでしょうね」

「クルワは、まだまだやれる感じか」

「アタシの場合、モリヒトから魔力をもらっているから」

 モリヒトには、魔力の吸収能力があるため、実質的に魔力量に制限がない。

 そのため、クルワもレンカも、使用できる魔力量には実質上限は存在しない。

 モリヒトさえ無事なら、ほぼ無限に活動できる。

「・・・・・・クリシャとフェリは?」

「あっちはあっちで、適当にやってるから」

 あちらはあちらで、適度に襲撃をやり過ごしつつも、必要な部分で戦闘して、といろいろやっている。

 時折、フェリが倒した魔獣を取り込んだりしている。

 体の一部が変化して、倒した魔獣の死骸に食いつく姿は、なんともいえない。

 ジャンヌは、露骨に目をそらしていた。

「とにかく、あの森に行くんだろう?」

「ああ。あの森を通って、戦場になっている平原に近づく」

 そして、オルクト側と接触し、モリヒトが保護されれば、目的は達成される。

「たどり着いたら、ジャンヌは、どうするんだ?」

「どうとも? もらえるものがあるならもらうけどな。そうでなくとも村に戻る」

「・・・・・・それでいいのか?」

「どうしようもない。正直、この戦争は無駄っていうことはわかるがな」

 ふん、とジャンヌは腕を組んで、うなった。

「ラヒリアッティは、もう戦争なしじゃあ維持できない。結局、なあなあで続けていくしかないんだよ」

「そうか」

「規模を広げるのは困るが、今の状態は続いてほしいところだな」

「難しくない?」

「技術局の動向次第、というところか」

 やれやれ、とジャンヌはため息を吐いた。

 ともあれ、と森を見る。

「森に突入するのは、明日にする。今日は、近くでキャンプを張る」

 そういうことになった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


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