第32話:追手
「さて・・・・・・」
街の外に出て、適当に歩いて開けたところで、焚火をする。
「今日はここで野営だ」
街の壁が、まだ見える程度の距離で、それほど離れたわけではない。
まあ、街にたどり着いた後に出発して、それほど距離を取れるわけもない。
ただ、この位置でいい。
まだ街が近いこの位置ならば、そうそう無理はできない。
「・・・・・・んー。見てるか?」
「こちらをうかがっておる気配なら、あるよ?」
レンカが、くすり、と笑った。
「レンカはわかるのか?」
「我の能力は、魔力の侵奪故な。魔力のありかはわかる。生物の魔力は、自然の魔力の中では目立つのじゃ」
「なるほど?」
「小さいのはいくらかおるが、人間はおらん。・・・・・・近くにはの」
「遠くにはいるのか?」
「さて? 遠く、というのは、我の感知範囲外。わからぬよ」
「いるはずだ」
レンカとモリヒトの会話に、ジャンヌが口をはさんだ。
槍は背負ったまま、むっつりと遠方をにらんでいる。
あまり遮るもののない平原だ。
割と遠くまで見通せるため、なにかいればすぐにわかりそうだが。
「だてに、『兎』の名前は入ってねえ。穴を掘って隠れるなんざ、お手の物よ」
モリヒト達が目指す、ラヒリアッティ共和国の西側は、平原地帯が多い。
これが東側に行くと、小高い丘サイズとはいえ、鉱脈のある山などもあるが、西側は平坦だ。
そうでなくとも、ヴェルミオン大陸は、中央の山脈以外では、見晴らしのいい平坦な土地が多い。
ラヒリアッティ共和国では、そういった平地で穴を掘って隠れ生きる兎は、割と重要な生き物であるらしい。
ラヒリアッティ王国の建国において、兎を追いかけて見つけた土地に、最初の街を築いた、という伝承があるほどで、兎は国旗にも描かれている。
「正規部隊でも、兎の名前が入っている部隊は少ない。・・・・・・『黒兎』が、どれだけ重要視されているか。それが専属となっている技j通局が、どれほどラヒリアッティにとって重要かってなもんだ」
ジャンヌは、肩をすくめて見せた。
「当然、精鋭ぞろいだ。・・・・・・こっちからは姿が見えないような距離から、こっちを捕捉しているだろうさ」
ジャンヌは、ふん、と鼻を鳴らした。
敵を警戒する必要はある、とジャンヌは考えているようだ。
モリヒトとしては、自分にそこまでの価値はないだろうな、とは思うが、クリシャやフェリのことを考えると、まったくない、とは言えない。
「・・・・・・ジャンヌは、よくそういうことを知っているなあ」
「昔、『白兎』って部隊にいたんでな。その辺は詳しい」
「なんで傭兵に?」
「・・・・・・技術局に、怪物が入った。そいつの命令に従って、部下を半分死なせた」
吐き捨てるように、ジャンヌは言った。
「あんなばけもんを、受け入れる。そういう技術局に、嫌気がさしたんだよ。そこまでして、勝たなきゃいけない戦争かってな」
「その怪物って?」
モリヒトの質問に、ジャンヌはへ、と吐き捨てる。
「ベリガル・アジン。胡散臭い男だ」
** ++ **
「というわけで、クリシャ。すごい面倒臭いことになってるっぽい」
「ベリガルかあ。・・・・・・まあ、この国じゃあ、ミュグラ教団はラヒリアッティと協力している見たいだし、あるとは思っていたけれど」
ふーむ、とクリシャは腕を組んで、考え込んだ。
「クリシャは、知らなかったんだな」
「さすがにね。あいつの動向は、謎が多すぎるんだ。というか、名前を知れる組織にいる、っていう時点で、本人なのか疑うレベルだよ」
「そこまでか?」
「オルクトで、あっちこっちで活動しているのに、どこが拠点なのかわからない男だ。・・・・・・正直、この情報だけでも、オルクトには値千金だろうね」
オルクトでは、かなり高い懸賞金がかかっていることもあり、かなり力を入れて探されている。
特に、以前の『竜殺しの大祭』を狂わせた元凶、ともいえる人物であるだけに、その懸賞金は跳ね上がっている、という。
「・・・・・・まあ、敵対国に逃げ込むには、普通にありとは思うけど、公的機関に立場を持っているっていうのは、正直、舐めた話ではあるよね」
はあ、とクリシャはため息を吐いた。
「でも、あいつが追手だと考えると、難易度が段違いだね」
「得体が知れん」
「だね。ボクは、まあ、なんとでもなるし、モリヒトにはレンカとクルワがついているから大丈夫として、問題はフェリだね」
「・・・・・・やばいかな?」
「あいつが、興味を持つ要素はそろっている。目を離さないようにね」
「お互いにな」
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翌日、先へと進み始めた一団に、追手が襲い掛かったのだった。
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