第31話:出発その2
山賊、盗賊、という類は、どこにでもいる。
ヴェルミオン大陸の西側は、割と少ない。
オルクト魔帝国という強国によって、ほぼ実質的に統一されているため、全体的に治安がいいからだ。
盗賊の類が発生したとしても、オルクトには戦力を出して討伐することが可能だ。
そのため、大規模な盗賊団、というものは発生しづらい。
出た端から、軍事演習の標的代わりにつぶされるからだ。
一方で、東側は、明らかに治安が悪い。
北が親オルクト、南が反オルクトを掲げているため、ラヒリアッティとオルクトの戦線以外にも、南北の国境線沿いでは、よく紛争が発生する。
その争いに参加した兵士や、傭兵が、野盗化する、というのは、よくある話だ。
そして、各国は、他国に対する警戒を必須とするため、盗賊たちにたいして出せる戦力には、限りがある。
結果として、盗賊が暴れることを許すことになってしまう。
こういうところでも、国力に差が生まれる理由になる。
さっさと盗賊を討伐し、街道の治安を維持できるオルクトでは、輸送におけるコストを下げることができる。
一方で、盗賊に対抗するために、護衛を雇うことが必要な東側諸国は、輸送に関するコストが高くなるため、どうしてもオルクトより流通が滞る。
それが、国力の向上を妨げるのだ。
「・・・・・・分かるか? 戦争していると、どうあがいても、国家の損失になるってわけだ」
ジャンヌが、槍を振るって血のりを払い、ぼやいた。
周辺では、撃退された盗賊たちが、あちらこちらに転がってうめいている。
急所を一突きにされて即死した者は、まだ幸運な方だろう。
骨を砕かれて悶絶している者や、体の一部がちぎれたようになっている者達などもいる。
まだ息がある者もいるが、『白亜の剣牙』の団員達は、手際よくトドメを刺していた。
「・・・・・・死体は、どうするんだ?」
「道の端に避けておけばいい。放っておいても、獣が食うだろ」
盗賊の討伐は、それほど金にならないらしい。
金をため込んでいるようなそれなりの規模ならばともかく、街道を通る者を襲うような盗賊は、小規模でろくな財産を持っていない。
盗賊の持ち物は、討伐したものが自由にしていい、とはいえ、街道で盗賊をするようなやつらが、金目のものをもっているはずもない。
倒して装備を剝いだところで、二束三文にもならない、ともなれば、ただひたすらめんどうなだけである。
だから、道の端に避けておく。
そういうことは、おそらくよくあるのだろう。
街道の脇を見ると、ところどころに白いものがいくつか転がっている。
あれらが、盗賊の成れの果てなのだろう。
「・・・・・・治安悪いなあ」
「どこもこんなものだろう。こういうやつらも、戦争になれば、傭兵として参加したりもする」
とはいえ、この程度は、さほど警戒するほどのものではない。
ジャンヌ達『白亜の剣牙』という、明らかな護衛の傭兵団がついている一団を襲うような、うかつな盗賊にろくなものはいない。
「そもそも、それなりの規模の傭兵団なら、街道じゃなく村を狙う。開拓団な」
「・・・・・・ジャンヌの村みたいな、か?」
「あれより、もっと辺鄙なところにあるやつだな。村ごと乗っ取って、盗賊の拠点にしちまう。その上で、何でもない顔をして、村付きの傭兵団になって、戦争にも出てくる。・・・・・・誰にも知られねえうちに、盗賊団が立派で合法の傭兵団、てわけよ」
「・・・・・・対処は?」
「そうなったら、おとなしくなる。税も納めるようになるからな。上も対処を放り投げる」
「・・・・・・治安悪いなあ」
モリヒトとしては、なんと言っていいものか、わからない。
そうやって歩いているところで、向こうに街を囲む壁が見えてきた。
「さて、街が見えた。・・・・・・着いたら、別行動だ」
「・・・・・・どう動く?」
「一泊したいところだがな、そのまま出発する」
ジャンヌは、言い切った。
「どうせ、アタシらは、『黒兎』の監視を受けている。このまま街に泊っても、ロクなことにならん」
街中で襲われる、という可能性は、おそらく低いだろう、とは思われる。
だが、いやがらせは受けるだろう。
「街中ではおそらく襲ってはこないだろう、とは言っても、確証はないし、個別にさらわれることも考えられる。それくらいなら、外でまとまって野営した方が、安全だわな」
モリヒトの考えを聞いて、ジャンヌもうなづいた。
「お前らは、表向き旅人とはいえ、ラヒリアッティにとっては敵だからな。『黒兎』なら、街の有力者を抱きこむことだってできる。・・・・・・街中より、外の方が安全だ」
街にたどり着いた後、モリヒト達は、すぐに出発した。
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