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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第10章:古代の足跡
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第29話:別れと出発

「帰るわ」

 宴の翌日、半日ほど二日酔いで苦しんだマサトは、その後村の広場の宴の後片付けを手伝い、村にもう一泊していった。

 そして、翌朝。

 クルワが用意した朝食は、固焼きのパンとスープ。

 スープにパンを浸して柔らかくして食べ、最後にパンで器をぬぐって食べ終わったマサトは、モリヒトにそういった。

「そうか。気を付けて帰れよ」

「あっさりしてんなあ・・・・・・。別れを惜しむとかないのか?」

 モリヒトは、のんびりと食後の茶を飲みながら、肩をすくめた。

「惜しむようなもんでもないだろう? 二度と会わないって決めたわけでもなし」

 そうかい、とマサトは笑った。


** ++ **


「本当に何も惜しまないな」

 村から出るときも、見送りの一つもなかった。

 家を出るときに、またな、と行ったっきりだ。

 マサトは、モリヒトのなんでもない顔を思い出し、くく、と笑った。

「・・・・・・」

「おっと」

 そんなマサトの前に、音もなく人影が現れる。

「迎えかい?」

「はい。・・・・・・あまり、無理を言わないでください」

「何が?」

「身の危険、というものがあります」

「そう? ここも、ラヒリアッティで、ここを守る傭兵団も、ラヒリアッティを守るっていう点では、一致しているだろう?」

「それでも、護衛、というものは必要です」

「面倒な立場だなあ・・・・・・」

 やれやれ、と嘆息しつつも、マサトは歩く。

 技術局の人員は、基本的に外出時には『黒兎』の護衛がつく。

 護衛がつかないのは、技術局のごく近くにある、技術局に勤める者達のための街の中ぐらいだ。

 技術局は、ラヒリアッティ共和国にとって、最も価値の高い施設だ。

 そこに勤めるものは、下っ端であろうとも、重要人物である。

「こちらは、気が気ではありませんでしたよ」

「だったら、一緒に来たらよかっただろうに」

「・・・・・・無理です。あそこの傭兵団の長は、かつての我々の上官ですし」

「・・・・・・君ってひょっとして『白兎』だったのかい?」

「・・・・・・ええ。私は、『黒兎』に残りましたが」

「そりゃまた、どうして?」

「働き口をすべて捨てて、わざわざ傭兵になる、という選択肢が、あり得ないものだと思ったからです。・・・・・・家族もいますし」

「なるほど。そりゃそうだ」

 マサトは、ふうん、とうなづいた。

「まあ、いい気分転換にはなったよ」

「同郷の人間、ですか。・・・・・・一応、要望があるなら、拉致してでも、連れてくる作戦も考慮しますが?」

「いいよ。僕は、そこまでは望まない。・・・・・・自分可愛さで悪いけれど、彼が来て、僕のラヒリアッティでの価値が落ちても困るしね」

 冗談交じりの口調で、マサトはそんなことを言った。

 実際のところ、モリヒトとマサトで、科学技術に関する知識量に、それほど大きな差があるとは思えない。

 ただ、

「モリヒトを連れてきて、二人になったんだから、今までの二倍の成果を出せ、とか言われても困るしね」

「・・・・・・さすがに、理不尽では?」

「人の上に立つ人ってのは、基本理不尽だよ? 特に、頭の悪い人は」

 ブラック企業ってやつだねえ、とマサトは笑う。

 仕事を急かされることのない今の環境を、マサトは気に入っている。

 それを崩す要因は、できる限り排除したい。

「・・・・・・正直ね。僕は戦争とか嫌いなんだ」

「それは、わかります」

「でもねえ。命令をする人ってのは、勝てそうなら戦争するんだよねえ」

 その命令で、人が何人死のうとも。

 そして、

「僕が作った『砲』は、間違いなくラヒリアッティの戦争を加速させた。・・・・・・これ以上やって、死人が増えるのはごめんだ」

 オルクトの飛空艇を恐れて、なあなあになりつつあった戦争が、『砲』の開発によって、加速した。

 特に、飛空艇を撃墜してからは。

「勘違いも甚だしいよ。一つ二つ新兵器ができたところで、戦争なんて勝てるもんじゃない」

 相手も自分と同じ人間なのだ。

 技術の進歩の速度に、大きな差など出ない。

「ラヒリアッティがオルクトに勝てないのは、オルクトの方が大国だから。単純な地力の差だ」

「それは・・・・・・」

「向こうが手加減をしてくれているんだから、それに甘えてなあなあにして、和平でも結んでしまう方が、たぶん賢い」

 技術局に引きこもっていても、この程度の情報は入ってくる。

 というか、ベリガルがいろいろ教えてくれる。

 ベリガルは、情報を与えられたマサトが、どういう答えを返すかで、マサトの思考や常識を知ろうとしているのだと思うが、マサトにとって困ることではない。

「だけど、モリヒトや、あと、クリシャさん? だっけ? 彼女みたいな特別は、捕まえてしまうと、『切り札』と錯覚させてしまいかねない」

「・・・・・・それは・・・・・・」

「僕としては、『黒兎』には、彼らを密かに護衛して、さっさとこの国から出て行ってもらったほうが、いいと思うけどねえ」

「あくまでも、個人的な考えと思って、聞き流しておきます」

 憮然とした顔で告げる『黒兎』の隊員に、マサトは苦笑した。

「宮仕えってのも、大変だよねえ」


** ++ **


「準備は?」

「できた」

 荷物を詰めた背嚢を担ぐ。

 モリヒトの上半身より大きい背嚢には、それなりの旅の支度が入っている。

 今回の移動では、馬などは使わず、すべて徒歩だ。

 だから、荷物はすべて持って歩く。

 フェリも、自分の体格なみの荷物を背負っているし、クリシャも同様だ。

 もっとも、クリシャの方は、魔術を使って軽量化しているようだが。

 レンカとクルワも荷物を持っているが、こちらはモリヒト達のものと比べると小さい。

 彼女たちはアートリアであるため、必要な荷物が少ないからだ。

「・・・・・・よし。じゃあ、出発するぞ」

 ジャンヌの先導に従い、モリヒト達は村を出発した。

 向かう先は、オルクトだ。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


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