第26話:マサトの仕事
モリヒトとマサトの酒盛りは、続いていた。
エールだった酒は、度数の高い蒸留酒をちびちびと舐めるようになった。
レンカと入れ替わりで、クルワが料理を運んできたが、二人の様子を一瞥して、ため息を一つ吐いて去っていった。
クリシャは、フェリを連れて、すでに広場を離れ、宿としてもらっている家に帰ってしまっている。
広場の方も、すでに大分しずかになった。
子供がいる親は子供を連れて家に戻ったし、多くの村人も明日は明日で仕事があるために家に戻っている。
広場に今残っているのは、ある程度年を取った男たちか、相手のいない独身の男だ。
広場の様子は、混沌としつつある。
料理を作っていた竈は火を消され、中央の焚火だけが残っており、地べたに座り込んだ男たちが、調子はずれに歌声を上げている。
「だからよお? 僕には、この世界の法則がわからないよ」
「俺たちの世界に、魔術はないからなあ」
『砲』の不安定さ。
それは、マサトの悩みである。
とはいえ、それはモリヒトには、解決できない。
「ベリガルがいるなら、大体聞いているだろう? 魔術、てか、魔力がある限り、この世界で科学は厳密な意味で再現することは不可能だって」
この世界の物理現象には、再現性がない。
同じ条件をそろえても、違う結果が発生する。
「魔術は、人のイメージ。だから、常に同じ結果を発生させることは難しい、と」
「もっと言うと、空気中の魔力濃度の問題もあるな。魔術を使いまくると、空気中の魔力濃度が下がるから、威力が変動する」
「・・・・・・つまり?」
「ぶっちゃけて言ってしまうと、この世界では、前の世界であったみたいな、兵器による面制圧は、それほど効果的じゃない」
「それは、魔術を使っている兵器だけじゃないのかな?」
マサトは首を傾げたが、それは違う。
「魔力には、人のイメージに反応する性質がある。その反応でも、微妙に魔力は消費されるんだよ」
真龍のいる場所に近い領域では、真龍の魔力があふれており、人のイメージを反映した幻覚が現れることがある。
時には、幻覚では済まないほどに、実体を持った何かが現れることもある。
これほどの現象は、真龍の魔力の濃度が異常に高いからだが、それほどでもない平地であっても、この性質は発揮される。
「これ、魔術でも結構な問題なのよな。同じ詠唱で、同じ感覚で魔術を作っても、まったく結果が安定しない」
さらに言うと、魔術において、イメージがどれだけ重要なのか、ということにも通じる。
一般的には、イメージが強い方が、魔術は強い。
ただ、このイメージの強さは、込める魔力の量を増やすことで補える。
「これは、聞いた話ではあるんだけどな。魔術の打ち合いで、相手に打ち勝つには、空いての魔術に打ち勝つイメージで魔術を作るといいらしい」
「・・・・・・?」
魔術はイメージ次第。
だから、魔術に勝つイメージができれば、相手の魔術に打ち勝つことができる。
「ぶっちゃけて言うと、魔術って後出しの方が有利だったりする」
その上で言うと、
「『砲』って、たぶん発射に魔術を使っているだろう? 魔術具も、使い手が効果を正確に認識していないと、正確な効果は発揮されない、らしい?」
「疑問形か」
「そこは、俺もよくわからんくてなあ。あくまでもまた聞きよ。ただ、結局は、『砲』に関しても同じ。・・・・・・推測だけど、『砲』って、たぶん、砲弾の発射部分に魔術具を使ってるだろう? たぶん、爆発する魔術具で、砲弾を撃ち出す感じ」
仕組みを知らなくても、同じ世界から来た人間として、発想は大体想像がつく。
「よくわかるなあ」
「向こうでの銃の仕組みを考えたら、とりあえずそういう結論だろ?」
「まあね」
「だけど、こっちの奴らからしてみると、爆発で砲弾を吹っ飛ばす、っていうのが、こっちの奴にはイメージしづらいだろうな」
こちらの世界では、魔術による攻撃手段は、基本的に魔術での直接攻撃だ。
だから、魔術で、物体を飛ばして攻撃する、という発想自体が、この世界では珍しい。
「でも、魔術の不安定さを消すための『砲』っていう兵器だし」
だが、それでも不安定さが消しきれない、ということだろう。
「・・・・・・あれか、もう。火薬を作るしかないのか・・・・・・」
「ないの?」
「この世界、火薬ってないらしい」
「そうなんだ・・・・・・」
ふむ、とモリヒトは考える。
ふと、思いついたことがある。
ただ、実践できるか、というと微妙だ。
加えて、教えて、マサトが作ってしまったときには、被害が拡大しかねない。
「あきらめれば?」
「それやると、僕の存在価値がなくなってしまうから」
「・・・・・・兵器以外で貢献したら?」
「・・・・・・求められてないんだよねえ」
「大変だなあ。宮仕え」
「自由でいいなあ、旅人は」
互いに、ははは、と笑い合うのだった。
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