第22話:出発より少し前
モリヒトは、装備の点検をしていた。
クルワとレンカがいるおかげで、武器には困らない。
カラジオル大陸で手に入れた、黒針の剣型発動体の『ゼイゲン』と、鉈型の発動体である『ハチェーテ』だが、両方とも置いてきた。
置いてきた、というか、『ハチェーテ』に関しては、返した。
『ゼイゲン』の方は、もともとミュグラ教団の持ち物であったこともあって、武器として使居続けるのもどうか、と思ったため、ウェブルストに渡してきた。
その代わりに、腕輪型の発動体である『ブレス』をもらった。
汎用性の高い量産品であり、性能はそれほど高くはないものの、魔術の発動体として、安定性は高い。
それ以外は、いろいろ使える武器と言うよりは、日用品、あるいは、工具として使うナイフ、ほそい絹糸の束、薬を入れられる小さな陶器の瓶、それと財布。
革でできた小さな背嚢にそれらを収めている。
この背嚢は、カラジオル大陸でもらったものだ。
財布には、少額のコインしか入っていない。
というか、そもそも現金なんてそんなに持ち合わせていないが。
「・・・・・・防具がない」
「いらないでしょ。モリヒトの場合」
「一応、ライトシールドっていう便利な魔術具もらってたんだぞ?」
オルクトにいたころに、便利に使える魔術具兼発動体だった。
今はもうないが。
「だから、要らないってば。アタシとレンカがいる以上は」
「・・・・・・普段は、アートリア状態なのにか?」
「アートリア状態でも、守りのための障壁くらいは張れるわよ。アタシたちの場合、二人で分担して張ってるから、かなり硬いわよ」
ウェキアス状態のどちらかを握るなら、その障壁はさらに強固になるらしい。
この障壁は、アートリアならば誰でも持っている能力らしく、アートリアの所有者、というのは、普通に防御力が高い。
少なくとも、魔力が持つ限りは、この障壁が消えることはない。
「正直、下手な防具を身に着けるより、常に一定以上の魔力を持ってる方が重要」
その点、モリヒトは魔力吸収能力によって、実質的に魔力量に限界がないため、この障壁はかなりの高性能であるらしい。
「二人分、ていうのもあるしね」
「そういうものか」
とはいえ、
「逆に言うと、魔力切れではこの障壁切れるから」
「・・・・・・というか、その場合、アートリアも維持できないよな?」
「できなくなるわ。ウェキアスとして、武器としては使えるけれども、ね」
もっとも、魔力切れは、下手をすると命に直結する。
魔力の消費は、体力の消費と直結するため、魔力切れは、体力切れによる死につながる。
訓練次第で、魔力消費による体力消費の量は軽減できるため、魔力切れを起こしても死なないようにはできるものの、それでも相当に苦しい状態になることは変わらない。
「・・・・・・そういえば、クルワやレンカが戦闘したら、俺の魔力はどうなるんだ?」
「減るわよ? アタシたちの使用する魔力は、もともとは全部モリヒトのものだもの」
「それは、俺がやろうとしたときに問題にならねえか?」
「大丈夫よ。モリヒトは、魔力を吸収できるから。魔力切れとは無縁だし」
改めて思うと、チートな能力である。
ナイフを磨き、鞘に納めた。
全部の荷物を出した背嚢を、ひっくり返して振ると、ぱらぱらと砂が落ちた。
「もうそろそろ、出発の時期かね?」
「収穫はもう終わりそうだからね。・・・・・・でも、それより早く移動した方がいいかも」
「何かあったか?」
「この間、魔獣の狩りをしたでしょう?」
「ああ」
「あの時ね、森の中に、こっちを窺っている気配があったから」
「敵か?」
「どうかしら? 近づいてくる気配もなかったし、ただ見ているだけだったから」
「『白亜の剣牙』のやつらとは」
「別件ね。あきらかに、違った」
「ふむ・・・・・・」
クルワは、うなっているモリヒトを見て、
「レンカが今いないのも、そいつらを警戒してるからだし」
「え、教えておけよ」
知らされていなかった、ということを知って、モリヒトは軽く落ち込んだ。
** ++ **
「なるほどのう。あの女団長の古巣か」
「ラヒリアッティじゃあ、ウサギは結構重要な生き物でね。国旗にすらなってる」
レンカは、クリシャと肩を並べて、村の外を見ていた。
今二人がいる方向には、何もない。
だが、レンカは、右手にある森の方から、誰かに監視されている気配を感じていた。
「主の敵、かのう?」
「確実に敵だと思うよ。それも、ミュグラ教団の息がかかっている可能性が高いかな」
「なんじゃ、クリシャにとっても敵か」
「・・・・・・そういう意味で言うなら、ラヒリアッティっていう土地自体が、ボクにとっては敵対的」
「なんじゃいそれは」
「昔ね? まあ、いろいろとヤンチャをしたから」
「・・・・・・昔、のう?」
「まあ、最近もだけど」
その最近が、何十年前なのかはともかくとして、
「教団が協力している、っていうなら、ボクにとっても敵だからね」
それで、ラヒリアッティの正規軍ともいくらかやりあったらしい。
「当時はまだ一隊員だったけど、ジャンヌとも戦ったことがあるよ。他は無力化できたのに、彼女だけは逃げるしかなかった」
「・・・・・・それが、今回は手伝ってくれる、というのか。ありがたいのう」
「軍を辞めた、ということは、もうやりあう理由はないっていうことだろうね」
「そこまで割り切れるものかのう・・・・・・」
「さあ? そこは、個人のことだから」
「・・・・・・ふうむ」
レンカは、ふうむ、と考える。
クリシャは、肩をすくめた。
「モリヒトのために警戒をするのは、いいと思うけど。たぶん、ジャンヌは、モリヒトの味方でいてくれるよ」
「ほんとうか?」
「大丈夫。・・・・・・ボクの人を見る目は確かさ」
ふふん、とクリシャは笑うのだった。
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