第17話:傭兵団の事情
傭兵、という仕事は、雇い主がいて初めて仕事になる。
それ以外では、というと、
「お行儀がいいのと悪いのがいるな」
「お行儀がいいのは、雇い主がいるやつ。悪いのは、今はフリーだな」
昼時になり、一度集合したモリヒト達は、昼食を取りながら、ジャンヌから話を聞いていた。
「雇われているときは、お行儀良くしておかないと、雇い主に迷惑がかかる。そうなると、クビになるどころか、違約金を払わされることもある」
傭兵の雇用形態は、いくつかある。
基本的には、日払いらしい。
傭兵の仕事で大きいものは戦争だが、ラヒリアッティ共和国とオルクト魔帝国の間の戦いは、一回ごとの戦場はそれほど長期化しない。
オルクト魔帝国側の飛空艇は優秀だし、一方でラヒリアッティ共和国側の兵器である砲も、威力が高い。
互いに戦いを長く続けると、双方の被害が非常に大きくなってしまう。
そのため、双方ともに、適度にやり合ったら下がる、ということを繰り返していた。
傭兵は、基本的にラヒリアッティ側にしか雇われない。
オルクト側では、雇う意味がない。
国力的にも、自国の兵士だけでことが済むし、傭兵を雇ったところで、飛空艇には乗せられないからだ。
一方で、ラヒリアッティの方も、傭兵に砲を渡すことはない。
そうなると、傭兵の戦場とはどうなるか、というと、武器を持って、魔法の打ち合いをしながらの突撃になる。
「傭兵の中でも、長く同じ相手にやとわれていて、信頼関係が構築できているなら、そういう新兵器を回してもらうこともあるらしいけどな」
ジャンヌは、首を横に振った。
『白亜の剣牙』は、傭兵団として一定の信用は得ているが、砲を扱わせてもらえるほどではないらしい。
もともとが、村を守るために発足したもので、オルクト魔帝国との戦争は、少々の小遣い稼ぎでしかない。
「まあ、アタシらが戦場に行くときってのは、大体補給物資の護衛だな」
「そうなのか?」
「ウチの団員は、農民が多いからな。力仕事は得意だが、戦闘は苦手なんだよ」
もっとも、傭兵団に入って、手柄を立てたい、と考える若者も多いらしい。
ただ、
「最近の戦争は、どかんどかん、とぶっ放すばっかりで、剣での斬り合いは少なくなったなあ」
「砲、だっけか?」
「もともと、オルクトが飛空艇を出してきたときから、その手の斬り合いは少なくなってたけどな。最近は、もっとだよ」
肩をすくめ、ジャンヌは、吐き捨てるように言った。
おかげで、傭兵たちは、ただの立ちんぼになっていることも多いという。
「ぶつかるときはあるけどな。正規兵ならともかく、傭兵とオルクトの正規兵じゃあ、勝負にならん」
「ジャンヌでも?」
「アタシなら、まあ、何人か薙ぎ払ってやることもできるがなあ」
槍を振り回して、暴れまわるジャンヌ、というのは、容易に想像がつく。
狩りの時にも、向かってきた獣を槍の一突きで仕留めていた。
ジャンヌの戦いの腕は、ほかの『白亜の剣牙』の傭兵たちに比べると、頭一つ抜けている。
そういう精鋭、とでもいうべき傭兵は、他にも数名いたが、ほとんど村の仕事には関わらず、村の警備を主にしていた。
「まあ、『白亜の剣牙』は、あの辺の村のためにある傭兵団だからな。戦いを専門にしてる団員は少ないんだよ。そういうやつらは、大体村でのおとなしい生活を目的としているやつばっかりだから、割と歳食ってるしな」
「そんなものか」
戦争以外での、傭兵の仕事、といえば、護衛だ。
行商人が街から街へ移動する場合に、その間の護衛をしたりする。
あとは、魔獣の討伐や、獣の狩りなどだ。
「・・・・・・傭兵って、案外仕事がないのか?」
「農閑期に、農民が出稼ぎでやるような仕事だ。そんなに仕事の質はよくないな」
むしろ、傭兵団、として、農民をしっかり所属させている『白亜の剣牙』が珍しい。
大概の傭兵団は、戦争などがあると、その直前に団員の募集をすることが多い。
そこで、戦争の間だけ、人数のかさ増しのために、農民を団に入れるのだ。
そうすると、人数が多くなり、雇い主に対して、多くの報酬を要求できるようになる。
だからといって、質がいい兵が集まるわけではないため、雇う側もそのあたりは計算に入れて報酬を出す。
「・・・・・・なんていうか、面倒そうな仕事だなあ。傭兵ってのも」
「面倒だよ。正直、傭兵団なんぞ、やらんで済むならやらん」
雇い主であるお偉いさんとの交渉など、ジャンヌにはストレスがかかることが多いらしい。
「ジャンヌさんは、傭兵やめたいのか?」
「やめたって、生きていけるからな。・・・・・・ただ、止めたら、村を守るやつがいなくなっちまうから、やめられん」
「後継者とかは?」
「若手は育ててるがよお。アタシの後釜任せられるようなのは、いねえんだよなあ」
傭兵団として運営するためには、それなりの強さと知識がいる。
だが、ジャンヌが認めるレベルの傭兵は、全員ジャンヌよりも年上で、後継者、という感じではない。
「大変だなあ。それはそれで」
「アタシも、いつまでも若いわけじゃないんだよ」
ふう、とジャンヌは重いため息をはくのであった。
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