第16話:買い物
マインの街では、行き交う人々に、時折荒っぽい人間が混じっている。
別の傭兵団の人員らしい。
街中だというのに、ごく当たり前に武装している。
武器を抜くことこそないものの、あちらこちらで荒っぽいケンカも起こっている。
「・・・・・・荒っぽいな」
「こんなものではないの?」
「さて? どうだろう? ウェブルストのところにいた時は、傭兵同士のケンカなんて、ほとんど見なかったしなあ」
「あっちでは、ほとんど筋肉団としか会ってないじゃないの」
「言われてみればそうか」
街中でケンカをしている傭兵団は、それぞれが所属が違うようだ。
体の一部に色付きの布を巻いていたり、あるいは背中などにおそらくは傭兵団のものであろうマークが入っていたりする。
一団として行動している者達は、そういう特徴が一致しているし、ケンカしている者達は、それぞれ違うマークを持っている。
「・・・・・・仕事の取り合いか?」
「さて? どちらかといえば、メンツの問題、というやつであろうよ? 仕事を得るには、弱い傭兵団、と思われてはたまらぬじゃろうしなあ」
「腕っぷしの仕事だものなあ。強そうな方が、仕事は来るだろうな」
「・・・・・・街中のケンカで、傭兵団としての強さがわかるなんて思わないけれど?」
「だが、どこそこと争って、勝った負けたっていう実績は残る」
「そういうものかしら?」
「まあ、一つ言えるとすれば、俺たちは傭兵じゃないんだから、関わるだけ損だってことだな」
情報を手に入れるなら、接触する、というのは、手だと思うが、
「少なくとも、ジャンヌのところみたいに、俺らを受け入れてくれたりはしないだろうよ」
ジャンヌは、そういう意味では、かなり特殊だ。
そもそも、ラヒリアッティ共和国にいる傭兵団は、オルクトとの戦争を飯の種にしている。
ラヒリアッティの軍とつながりがあるものも多いだろうし、そういう者達にとって、オルクトとつながりがある、という存在は、突き出せばそれだけで手柄になるため、もしばれると面倒なことになる。
そうだ、と思われるだけでも、よそ者のモリヒト達にとっては危険だろう。
そのあたりは、ジャンヌが保証してくれている、と見ることもできるが、
「・・・・・・まあ、変なことをして、迷惑をかけるのも悪いよな」
モリヒトとしてはそう思うものの、ちら、と両隣を見る。
「どうかした?」
「なにかの?」
人並外れて美女な二人だ。
目立つ。
先ほどから、ちらちらとこちらを見ている通行人がいる。
たいがい男である。
そして、クルワやレンカに目をやったあと、それに挟まれているモリヒトに対し、嫉妬混じりの舌打ちをするか、あざ笑うかのように見下してくるか。
どちらにせよ、雰囲気はよくない。
「ああ、とりあえず買い物をしよう」
「そうね。必要なものはわかっているわけだし」
** ++ **
旅の用意、というのは、一つの店でまとめて見つかる、というものではない。
例えば、テントに使うような大きな布は、それ用の店に行かなければならない。
燃料は、燃料で扱っている店がある。
野営道具も、ナイフや、火起こし、あるいは、鍋食器類。
すべて、店が違う。
中には、市場での露店でしか売っていない場合もある。
保存食などは、露店の方が安い。
品質はピンキリで、目利きができないとひどい出来のものをつかまされる。
「これとかいいと思う」
そのあたりの目利きは、クルワが強い。
食料品は、クルワに聞けば間違いがないし、旅用品もそうだ。
レンカは、というと、
「ほれ。あぶないぞ?」
すい、と袖を引かれると、モリヒトにぶつかるはずだった人間が、狙い通りにぶつかれずにバランスを崩して倒れ込んだ。
レンカは、そちらに目をやることもなく、
「ほれ、気を付けんとの」
モリヒトの手を引いていく。
どうやら、すりだったらしい。
転んだすりは、何事か文句を言おうとしたようだったが、なぜかそのまま倒れ伏してしまった。
「・・・・・・なんかやった?」
「ほほ。なんのことやら・・・・・・」
ほほほ、と笑うレンカだったが、おそらくはウェキアスとしての力を使って、体力を奪うか何かしたのだろう。
それで、立ち上がることもできなくなっているわけだ。
「・・・・・・まあ、いいか」
自業自得だし、運が悪かったとあきらめてもらおう。
「しかし、意外と多いな」
「主よ。隙が多すぎじゃぞ? 普通は、こんなにかかってはこんわい」
「そうかな?」
のんびりしている、というのは、そうだろう。
モリヒトは、どうにも、そういう雰囲気が出ていない。
いっそ、平和ボケしている、と言ってもいい。
まあ、戦士でもなんでもないのだから、そういう雰囲気になるのも仕方のないことではある。
ただ、こちらの世界に来てそれなりに経っているのだし、ちょっとぐらいは何かあってもいいはず、ではある。
「こう、強い感じって、どうすれば出ると思う?」
「モリヒトには似合わないわ」
「主には無理じゃよ」
取り付く島もない、とはこういうことか、とモリヒトは密かに落ち込むのであった。
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