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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第10章:古代の足跡
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第16話:買い物

 マインの街では、行き交う人々に、時折荒っぽい人間が混じっている。

 別の傭兵団の人員らしい。

 街中だというのに、ごく当たり前に武装している。

 武器を抜くことこそないものの、あちらこちらで荒っぽいケンカも起こっている。

「・・・・・・荒っぽいな」

「こんなものではないの?」

「さて? どうだろう? ウェブルストのところにいた時は、傭兵同士のケンカなんて、ほとんど見なかったしなあ」

「あっちでは、ほとんど筋肉団としか会ってないじゃないの」

「言われてみればそうか」

 街中でケンカをしている傭兵団は、それぞれが所属が違うようだ。

 体の一部に色付きの布を巻いていたり、あるいは背中などにおそらくは傭兵団のものであろうマークが入っていたりする。

 一団として行動している者達は、そういう特徴が一致しているし、ケンカしている者達は、それぞれ違うマークを持っている。

「・・・・・・仕事の取り合いか?」

「さて? どちらかといえば、メンツの問題、というやつであろうよ? 仕事を得るには、弱い傭兵団、と思われてはたまらぬじゃろうしなあ」

「腕っぷしの仕事だものなあ。強そうな方が、仕事は来るだろうな」

「・・・・・・街中のケンカで、傭兵団としての強さがわかるなんて思わないけれど?」

「だが、どこそこと争って、勝った負けたっていう実績は残る」

「そういうものかしら?」

「まあ、一つ言えるとすれば、俺たちは傭兵じゃないんだから、関わるだけ損だってことだな」

 情報を手に入れるなら、接触する、というのは、手だと思うが、

「少なくとも、ジャンヌのところみたいに、俺らを受け入れてくれたりはしないだろうよ」

 ジャンヌは、そういう意味では、かなり特殊だ。

 そもそも、ラヒリアッティ共和国にいる傭兵団は、オルクトとの戦争を飯の種にしている。

 ラヒリアッティの軍とつながりがあるものも多いだろうし、そういう者達にとって、オルクトとつながりがある、という存在は、突き出せばそれだけで手柄になるため、もしばれると面倒なことになる。

 そうだ、と思われるだけでも、よそ者のモリヒト達にとっては危険だろう。

 そのあたりは、ジャンヌが保証してくれている、と見ることもできるが、

「・・・・・・まあ、変なことをして、迷惑をかけるのも悪いよな」

 モリヒトとしてはそう思うものの、ちら、と両隣を見る。

「どうかした?」

「なにかの?」

 人並外れて美女な二人だ。

 目立つ。

 先ほどから、ちらちらとこちらを見ている通行人がいる。

 たいがい男である。

 そして、クルワやレンカに目をやったあと、それに挟まれているモリヒトに対し、嫉妬混じりの舌打ちをするか、あざ笑うかのように見下してくるか。

 どちらにせよ、雰囲気はよくない。

「ああ、とりあえず買い物をしよう」

「そうね。必要なものはわかっているわけだし」


** ++ **


 旅の用意、というのは、一つの店でまとめて見つかる、というものではない。

 例えば、テントに使うような大きな布は、それ用の店に行かなければならない。

 燃料は、燃料で扱っている店がある。

 野営道具も、ナイフや、火起こし、あるいは、鍋食器類。

 すべて、店が違う。

 中には、市場での露店でしか売っていない場合もある。

 保存食などは、露店の方が安い。

 品質はピンキリで、目利きができないとひどい出来のものをつかまされる。

「これとかいいと思う」

 そのあたりの目利きは、クルワが強い。

 食料品は、クルワに聞けば間違いがないし、旅用品もそうだ。

 レンカは、というと、

「ほれ。あぶないぞ?」

 すい、と袖を引かれると、モリヒトにぶつかるはずだった人間が、狙い通りにぶつかれずにバランスを崩して倒れ込んだ。

 レンカは、そちらに目をやることもなく、

「ほれ、気を付けんとの」

 モリヒトの手を引いていく。

 どうやら、すりだったらしい。

 転んだすりは、何事か文句を言おうとしたようだったが、なぜかそのまま倒れ伏してしまった。

「・・・・・・なんかやった?」

「ほほ。なんのことやら・・・・・・」

 ほほほ、と笑うレンカだったが、おそらくはウェキアスとしての力を使って、体力を奪うか何かしたのだろう。

 それで、立ち上がることもできなくなっているわけだ。

「・・・・・・まあ、いいか」

 自業自得だし、運が悪かったとあきらめてもらおう。

「しかし、意外と多いな」

「主よ。隙が多すぎじゃぞ? 普通は、こんなにかかってはこんわい」

「そうかな?」

 のんびりしている、というのは、そうだろう。

 モリヒトは、どうにも、そういう雰囲気が出ていない。

 いっそ、平和ボケしている、と言ってもいい。

 まあ、戦士でもなんでもないのだから、そういう雰囲気になるのも仕方のないことではある。

 ただ、こちらの世界に来てそれなりに経っているのだし、ちょっとぐらいは何かあってもいいはず、ではある。

「こう、強い感じって、どうすれば出ると思う?」

「モリヒトには似合わないわ」

「主には無理じゃよ」

 取り付く島もない、とはこういうことか、とモリヒトは密かに落ち込むのであった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


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