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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第10章:古代の足跡
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第15話:情報収集(マインの街)

 建物の背が低い。

 マインの街を見たモリヒトの感想だった。

「こっちは、大体こんなもんか?」

「何が?」

「家とか、低い」

「・・・・・・ふうん? そうだねえ」

 テュール異王国でも、オルクト魔帝国でも、あるいは、カラジオル大陸で訪れた街でも、大体の建物は二階以上高さがあった。

 オルクトの首都、帝都『アログバルク』などは、通りの両側は、空が狭く見えるほどに、壁のように高い建物がずらりと並んでいたものだ。

 それに比べて、村の最寄りで一番大きい街、というマインの街だったが、こちらは、一階建ての建物ばかりだ。

 平地にある街で、壁に囲まれている。

 壁は、レンガを組み合わせて作られた分厚いものだった。

 色が黒っぽいのは、この大陸特有だな、と思いはするが、

「・・・・・・ざらり」

 触ってみると、手のひらにレンガが風化して出た砂のような粉がつく。

 このあたりも、オルクトの街並みではなかった。

 あの国の建造物は、不思議ともっとつるつるしている家が多かった気がする。

 建材の質一つとっても、この国の方が、オルクトより劣っているように見える。

「鉄の家とかあるかと思った」

「ないでしょ。ていうか、家に鉄とか、お金がかかるわよ」

 モリヒトのふとした感想に、クルワが肩をすくめて答えた。

「そういうものか?」

「鉄の精錬なんて、手間でしょ? レンガなら、最悪泥を枠に詰めて乾かすだけでもいいんだから」

「頑丈そうではあるんだが、二階建てとかはないんだよな」

「レンガを積んだだけで、そこまで高い建物を作るのって、大変よ?」

「そうじゃの。高い建物ならば、鉄筋か何か、芯となる支えを入れんと、あまり高くは積めんじゃろう」

 今日、街に来ているのは、モリヒト、クルワ、レンカの三人と、ジャンヌを含む『白亜の剣牙』の団員たち数名だ。

 狩りで得た毛皮や骨、角の類。

 あるいは、村で刈り取ったカルバークの毛。

 他にも、森での採取物など、要は、村の産物である。

 それらを街で売るために来た『白亜の剣牙』に、モリヒト達が同行した形だ。

「まあ、ものは、なじみの商会に持ち込んでしまうから、実際に売り買いはしないけどな」

「ジャンヌさんよ。俺までこの街に連れて来た理由はなんなの?」

「必要だろう? 旅の準備とかな。フェリは子どもだし、クリシャは目立ちすぎる」

 ジャンヌは、モリヒト達を見て、うーむ、とうなった。

「まあ、お前たちが目立たないか、と言われると、どうとも言えんが・・・・・・」

 モリヒトはまだいい。

 ただ、レンカとクルワは、美女すぎる。

「変に絡まれないようにな」

「お? 俺らは置いていくのか?」

「村に必要な物資の買い付けがあるからな」

「それもそうか。・・・・・・まあ、適当に見て回るさ」

「それはいいが、トラブルは起こすなよ? 何かあったら、『白亜の剣牙』のジャンヌの名前を出せ」

「それで解決しなかったら?」

「逃げろ」

「へいへい」

 ジャンヌ達と別れ、モリヒトは市場を見渡した。

 財布を取り出す。

 村での仕事で、いくらかお金はもらっている。

 とはいえ、潤沢、というわけではない。

 大陸間を移動したとき、あちらで用意できる物資は用意したものの、旅装については少々心許ない。

 特に、移動距離が大幅に長くなりそうな現時点では。

「丈夫な靴とか、マントとか。狩っておいた方がいいかな」

「そうね。後は、荷袋とか、水筒とか」

「水なら、我が出せるが?」

 レンカが指を立てると、その先端から水が噴き出す。

 済んだ水は、レンカの指先を濡らし、地へと垂れた。

「それはそうだけど、持ち歩ける容器はあった方がいいわ。ちょっとのどが渇いたからって、毎回レンカの指を舐めるわけにはいかないでしょ」

「たしかに。手間だな、それは」

 荷物を持ち歩くことも含めて、買いそろえるべきものはそれなりにある。

 あとは、

「情報収集もしておきたいなあ。例えば、戦況とか」

「・・・・・・場合によっては、ジャンヌ達も、戦場へ行ってしまう可能性もあるし、のう」

 レンカは、口元に手を当て、物憂げな声を漏らした。

 だが、実際にその可能性はある。

 今は農繁期だが、もうしばらくすると収穫も終わり、農閑期になる。

 傭兵団としては、稼ぎ時だ。

 ラヒリアッティとオルクトとの間での小競り合いは、いつも行われているものだし、そこに『白亜の剣牙』が出向く可能性はある。

 そうなると、オルクトへの移動は、モリヒト達だけで行わなければならなくなるが、土地勘のない東側を無事に移動できる見込みは薄い。

「力ならあるから、最悪力ずくで通れなくもないけどなあ」

「それは、マジの最終手段よ。厄介ごとにしかならないもの」

「・・・・・・あと気になるのは、クリシャの移動が制限されていること、じゃのう・・・・・・」

「ん?」

「クリシャの力は、かなり特殊じゃ。あれは、どちらかというとウェキアスのそれに近い」

 無詠唱で魔術を放ったり、魔力だけで空を飛んだり。

 クリシャにできることは、本当に特殊だ。

 魔術の基本的な原則を無視している、と言ってもいい。

 既存の魔術とは違いすぎて、魔術封じなども効かないという。

 だが、この土地では、クリシャのそういった能力がいくらか制限されている。

 モリヒトが魔術を使うときには、一切問題はないし、クリシャも普通に魔術を使う分には、特に問題はないという。

 だが、クリシャにしかできないことをやろうとすると、とたんに失敗する。

「我は直接は見てはおらぬが、たしか、ミュグラ教団がクリシャの魔術を解析して、対抗策を作っておったのであろう?」

 レンカが言っているのは、かつてオルクトの首都で、ミュグラ教団の追手に襲われたときの話だろう。

 クリシャが放った魔術は、相手にほとんどダメージを与えられなかった。

 それを、対抗策を作ってきたから、とクリシャは言っていたが、

「・・・・・・この国全体レベルの広範囲で、そういうのがあるってことか?」

「そうじゃ。聞けば、ここ数年、クリシャは東側には顔を出しておらんらしいしのう」

「む」

 だがそれはそれで問題で、

「・・・・・・この国に、ミュグラ教団の影響があるってことだぞ?」

「おかしくはあるまい。オルクトでテロリストとして扱われていたとして、オルクトの敵国ならば、潜り込むことは難しくない。なんなら、裏で手を引いておるのは、この国やもしれぬ」

「・・・・・・むう」

 否定したいが、否定の材料もない。

 それだけに、

「用心に越したことはないじゃろ?」

「まあ、そうだな」

 モリヒトは、ふう、とため息を吐いて、

「ま、とりあえず今は、いろいろ見て回って、必要そうなものを仕入れよう。考えても仕方ない」

「そうね。少なくとも、今は問題にはなってないのだし、ね」

「まあのう。・・・・・・ところで主よ」

「ん?」

「あの屋台で、うまそうなものを売っておる」

「後にしなさい」

「ケチじゃのう」

「金はそこまで余裕はない」

 モリヒトは、必要そうなものを、一つ、二つ、と指折り数える。

「・・・・・・吹っ掛けられないようにしないとなあ」

「はいはい。気を付けてね」

 そして、三人は市場へと足を踏み入れた。

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よろしくお願いします。


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