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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第10章:古代の足跡
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第13話:技術局の異端者

 ベリガル・アジン。

 技術局にいつの間にか住みついた、異邦人だという。

 ある日、ラヒリアッティ共和国上層部の推薦を受け、技術局にやってきた。

 以降、主に魔術具の開発によって、技術局で頭角を現す。

 マサトが現れ、砲を開発する以前は、ラヒリアッティ共和国の主戦力といえば、ベリガルが開発した魔術具を装備した兵団であった。

 マサトにとっては、とてもありがたい人材である。

 何せ、おおざっぱな知識はあっても、それを活用できる技術を、マサトは持っていない。

 ベリガルは、マサトから聞き取ったことから、必要な魔術具を開発してみせた。

 ただ爆発するだけの魔術具など、他では使い道のないものだ。

「マサト君。何か用か?」

「いやあ、砲の改良についてな。また話を聞きたくて」

「別にかまわないが、私も仕事がある。仕事をしながらになるが、構わないかな?」

「いいよいいよ。そこまで急ぎの話じゃないし」

 へらへらと笑いつつ、手を振って、マサトは空いていた椅子を引き寄せて座った。

 その様子を見たベリガルは、ふむ、と少々考えた後、仕事に戻った。

「砲の改良をしたいんだ」

「改良か。今の課題は?」

「やっぱり、安定性だな。武器ごとの性能差が大きすぎて、軍として運用するのに向いていない。・・・・・・やっぱり、投射兵器っていうものは、ある程度数をそろえた方が、強いはずだ」

「数か。・・・・・・そもそも、あの砲は、攻撃より、防御に向いた兵器だと思うが」

「まあ、そりゃそうだよ。攻撃に回すなら、もっと軽くするべきだろうし」

 ついでに言うと、

「持ち運べるくらいの軽さもそうだが、撃った時の反動もな。小さくしたい」

「・・・・・・地面に、杖を突き立てないと、後ろに吹っ飛ばされるんだったか」

「ああ」

 現在の砲は、杖の先端の筒の内側に爆発を起こし、その爆圧で砲弾を飛ばすしかけだ。

 筒そのものを魔術具にしているため、使うときには、砲弾を砲口から放り込んで、魔術具を軌道させるだけで使える。

「使うのに、余計な手順が必要ないから、簡単に使えるのはいいんだが」

「・・・・・・実戦では、暴発が起こっている、とも聞くが?」

「・・・・・・それな」

 砲弾を込める際に、力を入れすぎて暴発し、予想しない方向に砲弾が飛んで行ってしまう、というならいい方で、筒の内部で起こる爆発に筒が耐えきれず、破裂が起こることもあるらしい。

「破裂の方は、もう、筒を厚くする、とか、壊れる前に取り換える、くらいしかないと思う」

 問題は、暴発の方だ。

「・・・・・・砲口を覗いて、弾丸入れるやつがいてなあ。そのせいで、頭が吹っ飛ぶ奴がたまにいるってよ」

「それは、運用の問題だろう。こちらで考えることではないと思うぞ?」

 作ったばかりの兵器だ。

 問題が出ない方がおかしい、とは思う。

 それに、その問題を覆して余りあるほどの戦果を挙げてもいる。

「オルクトの飛空艇を墜とせるだけで、大したものだと思うが」

「・・・・・・あれは、どうなんだろうな?」

 ううん、とマサトは首を傾げる。

 マサトが、その戦果の報告を受けた時、報告書も受け取ったわけだが、

「あの報告書、撃った、当たった、墜ちた、ぐらいしか、まともな情報なかったんだ。たぶん、当たり所が悪かっただけだろう? どこを狙った、とか、そういう情報が欲しい」

「そうだな。だが、前線にいる兵士たちに、それは難しい注文だ」

「『黒兎』の人たちは、そういうのしっかりしてんのに」

「それはそうだ。そうなるように、教育をしたからな」

「・・・・・・あんたかよ。あの報告書の形式作ったのは」

「普段、研究で記録を取っているときの書式を流用した。私が読みやすいことが重要だからな」

 なるほどな、とマサトは頷く。

 この技術局での仕事は、前の世界でのそれに近いものが多い。

 書類仕事などは最たるもので、決まった書式で書類を作成するのは、サラリーマンであったマサトにとっては、慣れたものである。

 コンクリート造りのこの建物と、その業務のやり方のおかげで、異世界で生活するストレスが軽減されている、というのは、マサトにとっては皮肉なことであった。

「安定性、がなあ」

「そもそも聞くが、君の世界では、あれはどう運用していたんだ?」

「俺の知る火器は、もっと小さい。ものによっちゃあ、ポケットに入るくらいに」

「それはすごい。それでも、威力はあるんだろう?」

「剣よりは簡単に人を殺せるだろうな」

「恐ろしい話だ」

 くっくっく、とベリガルが笑った。

 マサトは肩をすくめ、

「そういうもんは、安全装置がついててな。安全装置を解除しないと、使おうと思っても使えないようになってたもんだ」

「ほう? 安全装置? どういう仕組みだ?」

「・・・・・・こっちの砲だと、再現できるのか? 要は、安全装置を解除しない限り、起動しないようにするってことだぞ?」

「魔術具は、魔力を流すと発動する。・・・・・・発動しないようにする方法か。魔術では、難しいな」

「実現できる範囲は大きいのに、魔術ってのは、どうも使いづらいな」

「それこそ、魔術に頼る限りは、安定性の実現は不可能だろう」

「・・・・・・そんな難しいか?」

「・・・・・・そうだな」

 ふむ、とベリガルは少し考え込んだ。

 それから、指を三本立てた。

「とりあえず、今この場で、三つ、不安定になる原因が思い浮かぶ」

「三つも・・・・・・」

 ベリガルは、人差し指を立てた。

「一つは、魔術の発動は、イメージによる、ということ。このイメージは、常に一定にできるようなものではなく、術者の体調や環境によっても左右される。むしろ、常に一定の威力で魔術を使うことができるなら、その使い手は一流だ」

「魔術の一番難しいところ、だよな?」

「そう。魔術具は、製作者のイメージが強く作用するが、魔術具を発動させるもののイメージが影響しないわけではないから、使い手の差も加わる分、さらに魔術の効果は安定しない」

 指をもう一本立てた。

「二つ目、砲や砲弾の品質が統一されていないこと」

「ああ、そっちは、鋳造で品質を安定できないかと考えている」

「なるほど。それはいい。大量生産をできるようにする、という点でも、確実な手法だ」

 うむ、とうなづいたベリガルは、三本目の指を立てた。

「三つ目。魔術を使っている」

「・・・・・・それを言い出したら、もうどうしようもなくないか?」

「だが、事実だ」

 ベリガルは、うむ、とうなる。

「やはり、魔術、というものは、安定とは程遠い技術だ。・・・・・・だが、以前君が言っていた、『火薬』のようなものは、この世界では発見できない。・・・・・・むしろ、不安定にするためにないのではないか、という気すらするよ」

 結局のところ、魔術を使う限り、安定した成果は、困難である。

 だったら、

「いっそ、魔力を一切排除できれば、安定するのかね?」

 何気なく、ぽつりと言ったマサトの言葉に、ベリガルは一瞬、手を止めた。

 そして、

「・・・・・・それは、考えたことのない視点だった」

 感心したように、そう返すのだった。

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