第13話:技術局の異端者
ベリガル・アジン。
技術局にいつの間にか住みついた、異邦人だという。
ある日、ラヒリアッティ共和国上層部の推薦を受け、技術局にやってきた。
以降、主に魔術具の開発によって、技術局で頭角を現す。
マサトが現れ、砲を開発する以前は、ラヒリアッティ共和国の主戦力といえば、ベリガルが開発した魔術具を装備した兵団であった。
マサトにとっては、とてもありがたい人材である。
何せ、おおざっぱな知識はあっても、それを活用できる技術を、マサトは持っていない。
ベリガルは、マサトから聞き取ったことから、必要な魔術具を開発してみせた。
ただ爆発するだけの魔術具など、他では使い道のないものだ。
「マサト君。何か用か?」
「いやあ、砲の改良についてな。また話を聞きたくて」
「別にかまわないが、私も仕事がある。仕事をしながらになるが、構わないかな?」
「いいよいいよ。そこまで急ぎの話じゃないし」
へらへらと笑いつつ、手を振って、マサトは空いていた椅子を引き寄せて座った。
その様子を見たベリガルは、ふむ、と少々考えた後、仕事に戻った。
「砲の改良をしたいんだ」
「改良か。今の課題は?」
「やっぱり、安定性だな。武器ごとの性能差が大きすぎて、軍として運用するのに向いていない。・・・・・・やっぱり、投射兵器っていうものは、ある程度数をそろえた方が、強いはずだ」
「数か。・・・・・・そもそも、あの砲は、攻撃より、防御に向いた兵器だと思うが」
「まあ、そりゃそうだよ。攻撃に回すなら、もっと軽くするべきだろうし」
ついでに言うと、
「持ち運べるくらいの軽さもそうだが、撃った時の反動もな。小さくしたい」
「・・・・・・地面に、杖を突き立てないと、後ろに吹っ飛ばされるんだったか」
「ああ」
現在の砲は、杖の先端の筒の内側に爆発を起こし、その爆圧で砲弾を飛ばすしかけだ。
筒そのものを魔術具にしているため、使うときには、砲弾を砲口から放り込んで、魔術具を軌道させるだけで使える。
「使うのに、余計な手順が必要ないから、簡単に使えるのはいいんだが」
「・・・・・・実戦では、暴発が起こっている、とも聞くが?」
「・・・・・・それな」
砲弾を込める際に、力を入れすぎて暴発し、予想しない方向に砲弾が飛んで行ってしまう、というならいい方で、筒の内部で起こる爆発に筒が耐えきれず、破裂が起こることもあるらしい。
「破裂の方は、もう、筒を厚くする、とか、壊れる前に取り換える、くらいしかないと思う」
問題は、暴発の方だ。
「・・・・・・砲口を覗いて、弾丸入れるやつがいてなあ。そのせいで、頭が吹っ飛ぶ奴がたまにいるってよ」
「それは、運用の問題だろう。こちらで考えることではないと思うぞ?」
作ったばかりの兵器だ。
問題が出ない方がおかしい、とは思う。
それに、その問題を覆して余りあるほどの戦果を挙げてもいる。
「オルクトの飛空艇を墜とせるだけで、大したものだと思うが」
「・・・・・・あれは、どうなんだろうな?」
ううん、とマサトは首を傾げる。
マサトが、その戦果の報告を受けた時、報告書も受け取ったわけだが、
「あの報告書、撃った、当たった、墜ちた、ぐらいしか、まともな情報なかったんだ。たぶん、当たり所が悪かっただけだろう? どこを狙った、とか、そういう情報が欲しい」
「そうだな。だが、前線にいる兵士たちに、それは難しい注文だ」
「『黒兎』の人たちは、そういうのしっかりしてんのに」
「それはそうだ。そうなるように、教育をしたからな」
「・・・・・・あんたかよ。あの報告書の形式作ったのは」
「普段、研究で記録を取っているときの書式を流用した。私が読みやすいことが重要だからな」
なるほどな、とマサトは頷く。
この技術局での仕事は、前の世界でのそれに近いものが多い。
書類仕事などは最たるもので、決まった書式で書類を作成するのは、サラリーマンであったマサトにとっては、慣れたものである。
コンクリート造りのこの建物と、その業務のやり方のおかげで、異世界で生活するストレスが軽減されている、というのは、マサトにとっては皮肉なことであった。
「安定性、がなあ」
「そもそも聞くが、君の世界では、あれはどう運用していたんだ?」
「俺の知る火器は、もっと小さい。ものによっちゃあ、ポケットに入るくらいに」
「それはすごい。それでも、威力はあるんだろう?」
「剣よりは簡単に人を殺せるだろうな」
「恐ろしい話だ」
くっくっく、とベリガルが笑った。
マサトは肩をすくめ、
「そういうもんは、安全装置がついててな。安全装置を解除しないと、使おうと思っても使えないようになってたもんだ」
「ほう? 安全装置? どういう仕組みだ?」
「・・・・・・こっちの砲だと、再現できるのか? 要は、安全装置を解除しない限り、起動しないようにするってことだぞ?」
「魔術具は、魔力を流すと発動する。・・・・・・発動しないようにする方法か。魔術では、難しいな」
「実現できる範囲は大きいのに、魔術ってのは、どうも使いづらいな」
「それこそ、魔術に頼る限りは、安定性の実現は不可能だろう」
「・・・・・・そんな難しいか?」
「・・・・・・そうだな」
ふむ、とベリガルは少し考え込んだ。
それから、指を三本立てた。
「とりあえず、今この場で、三つ、不安定になる原因が思い浮かぶ」
「三つも・・・・・・」
ベリガルは、人差し指を立てた。
「一つは、魔術の発動は、イメージによる、ということ。このイメージは、常に一定にできるようなものではなく、術者の体調や環境によっても左右される。むしろ、常に一定の威力で魔術を使うことができるなら、その使い手は一流だ」
「魔術の一番難しいところ、だよな?」
「そう。魔術具は、製作者のイメージが強く作用するが、魔術具を発動させるもののイメージが影響しないわけではないから、使い手の差も加わる分、さらに魔術の効果は安定しない」
指をもう一本立てた。
「二つ目、砲や砲弾の品質が統一されていないこと」
「ああ、そっちは、鋳造で品質を安定できないかと考えている」
「なるほど。それはいい。大量生産をできるようにする、という点でも、確実な手法だ」
うむ、とうなづいたベリガルは、三本目の指を立てた。
「三つ目。魔術を使っている」
「・・・・・・それを言い出したら、もうどうしようもなくないか?」
「だが、事実だ」
ベリガルは、うむ、とうなる。
「やはり、魔術、というものは、安定とは程遠い技術だ。・・・・・・だが、以前君が言っていた、『火薬』のようなものは、この世界では発見できない。・・・・・・むしろ、不安定にするためにないのではないか、という気すらするよ」
結局のところ、魔術を使う限り、安定した成果は、困難である。
だったら、
「いっそ、魔力を一切排除できれば、安定するのかね?」
何気なく、ぽつりと言ったマサトの言葉に、ベリガルは一瞬、手を止めた。
そして、
「・・・・・・それは、考えたことのない視点だった」
感心したように、そう返すのだった。
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