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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第10章:古代の足跡
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第12話:技術局の異邦人

 技術局で、新しい兵器を開発すれば、その兵器には試し撃ちが必要だ。

 技術局には、そのための試験場は併設されている。

 試験場、と言っても、ただっぴろい荒野を塀で囲み、遠くに的を置いているだけの、簡素なものだ。

 とはいえ、そこでは日常的に、どんどん、と爆発音や発砲音が響いている。

「調子は?」

 マサトが、試験場に顔を出したのは、ちょっとした気分転換のつもりであった。

 マサトは、砲の作成班の班長として、その性能の改良を命じられている。

 仕事として受け入れてはいるものの、そこまで天才的なひらめきがぽんぽん出てくるわけでもない。

 うろうろとしながら、ちょっとずつ改良を進めていた。

 試験場に顔を出すことも、仕事の一つである。

「命中率に不安が・・・・・・」

「やっぱ、あれか。爆発の魔術具の安定性かな?」

 ううん、と遠くを見る。

 あちらこちらに穴ぼこができているが、確かにばらばらだ。

 現在、ラヒリアッティ共和国が主力としている砲は、鉄砲、というよりは、迫撃砲に近い。

 持ち運べはするものの、地面に突き立てて使うことになるため、水平に構えることができず、砲弾の重さから、軌道は山なりになる。

 命中率は、お世辞にも高いとは言えない。

「砲弾に、爆発力を追加できればいいんだが・・・・・・」

 ずっと考えてはいるが、無理である。

 現在使用されている砲弾は、ただの拳大の鉄の塊である。

 作りが甘く、球体、ともいいづらい凸凹した形をしている。

 それでも飛ぶのは、それだけ砲の作りが簡単だから、でもある。

 マサトは、がりがりと頭をかいた。

「違うなあ。問題は、技術精度。金属の加工技術が、安定しないんだな」

「は?」

「要はさ」

 マサトは、傍らに置いてある砲弾を手に取る。

 大体の大きさは同じでも、手に取ってみれば微妙に形が違う。

 表面の凹凸が違うため、飛んだ砲弾は、空気抵抗で軌道がぶれるのだろう。

 一発一発、きれいに作れればいいのだが、砲弾など、消耗品だ。

 そこまで手をかけられない。

 マサトの知識では、そのあたりを解決するだけのものがなかった。

「作りが雑だと、そりゃいろいろ安定しないだろう?」

「なるほど・・・・・・」

 試射を担当していた、『黒兎』の隊員は、マサトの雑な説明にうなづいた。

「となると、どこから手を付けるべきか。工作機械を設計しなおすか? でも、どうやってだ・・・・・・」

 うーむ、とマサトは唸る。

 もととなる知識が頼りなさ過ぎて、どうにもならない。

 機械を作るにしても、どうしたらきれいな砲弾、というか、鉄の弾を作ることができるのか。

「型か。鋳型を作って作ってみるか?」

 んー、と悩む。

「あるいは、着弾した場所の爆発範囲が広がりゃあ、なあ・・・・・・」

 そうすれば、多少ぶれてもダメージは同じだろう。

 だが、それはそれで難題だ。

「火薬がありゃあなあ・・・・・・」

「火薬、ですか?」

「火をつけると、爆発する粉だよ」

「そんな粉があるのですか?」

「・・・・・・あるはず、なんだけどな」

 見つかっていない。

 この世界は、火薬に類するものは、存在していない。

 火をつけて燃やすもの、といえば、木炭である。

 石炭や石油の類すら、この世界には存在しない。

 見つけても気づいていない可能性もあるが、たとえあったとしても、おそらく真龍の魔力の影響を受けた木材から作った木炭の方が、火力は高い。

 加えて、こういう需要は、魔術で応えてしまえる、というのも、発見されていない理由の一因だろう。

「ああ、そろそろ、鍍金が剥がれて来たって感じだよな」

 試験場を後にして、廊下を歩きながら、マサトはぽつり、とつぶやいた。

 マサトは、専門で研究をしていたわけではない、FPSが趣味なだけのサラリーマンだ。

 持っている知識量には、おのずと限界があった。

 その限界が、近づいている、とマサトは思っていた。


** ++ **


 研究室に戻り、マサトは自分の机に座る。

「さて、どうしたものか・・・・・・」

「どうしたんですか? 班長」

「・・・・・・マシュー君。金属加工が得意な職人に、連絡取れるか?」

「鍛冶師、とかでしょうか?」

「あー、鍛造より、鋳造をメインにしている人がいいなあ・・・・・・」

「鋳造、ですか?」

「ほら、大量生産と品質の安定化の対策だよ。鋳造で、金属部品やら、弾の品質を均一にできれば、安定性も上がるだろう?」

「あー・・・・・・」

 なるほど、とマシューは頷く。

 現在、砲は一つ一つが手作りである。

 作り自体は、杖の先端に金属の筒をつけた程度の、簡単なものだが、それでも生産量には限界がある。

 だが、そうでないと、魔術具が生み出す爆発の圧力に耐える品質が確保できなかったのだ。

「暴発しない程度の情報は集まってんだし、鋳造で同レベルの品質を作れるように、ちょっと考えようぜ?」

「そうですね。ちょっと手配してみます」

 マシューが去っていく。

 それを見送り、やれやれ、とマサトはため息を吐いた。

「・・・・・・まあ、いくつか功績を立てておけば、今後の生活は安定だろうし、貯金がもう少し貯めねえとな」

 鋳造に切り替えての研究は、そこそこ時間がかかるだろう。

 その間に、鍛冶師に連絡を取って、もっと大量生産ができる仕組みを考えよう。

 あとは、

「魔術については、さすがに専門外にもほどがあるし、なあ」

 ふむ、とマサトは考える。

 そして、

「よし、聞きに行こう」

 マサトは立ち上がった。

 技術局には、魔術開発の部門もある。

 魔術が不得手なマサトが、砲の概念を伝えた時、それに必要な魔術具を用意したのが、魔術部門の研究員だ。

 マサトが、魔術があるこの世界で研究員などやっていられるのは、その研究員に素直に質問をして、必要な知識を得ているからだ。

「さてさて、今はどこにいるのやら」

 問題は、その魔術部門の研究員は、マサトとは違って、付け焼刃な知識ではなく、本物の知識を持っている研究員であり、極めて有能である、ということだ。

 いくつものプロジェクトを掛け持ちで動かしながら、それぞれで結果を出している、多忙な人物である。

 それでも、マサトが持つ異世界の知識は物珍しいようで、話をしに行って邪険にされたことはない。

 技術局内部を練り歩きながら、時折すれ違う局員に話を聞き、そして、マサトは件の研究員がいる部屋へとたどり着いた。

「邪魔しますよ、と」

「あれ? タケムラ班長じゃないですか?」

「おう。主任さん、いるかな?」

 入り口で出会った、若い女性局員に声をかけると、その局員は肩をすくめて、奥を示した。

「いますよ。昨日から、ずーっと部屋にこもって、なんかやってます」

「そうか。悪いね。邪魔するよ」

 部屋の中へと踏み込み、マサトは部屋の最奥にある扉へと手をかける。

「邪魔するぜ」

「・・・・・・・・・・・・」

 部屋の中に、人の気配はある。

 だが、件の研究員は、マサトに背を向け、机に向かって何かをやっている。

「おーい。マサトだ。今いいかい?」

「・・・・・・ん?」

 マサトが改めて声をかけると、その人物が振り返った。

 その顔を見て、マサトは笑みを浮かべる。

「悪いな。また、意見を聞きたいんだ。いいかい?」

「・・・・・・構わないとも」

 机を離れ、こちらへと歩いてくる相手に、マサトは笑いかけた。

「悪いな、邪魔する。ベリガル」

 ベリガル・アジンは、ふ、と笑みを浮かべるのであった。

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よろしくお願いします。


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