第11話:技術局の異世界人
武器、というものに求められるものは、破壊力である。
少なくとも、ラヒリアッティ共和国の技術局に所属する、マサト・タケムラは、そう思っている。
ただ、その破壊力は、高ければいい、と言うものではない。
武器の使い手まで巻き込まれるような破壊力は、過剰である。
武器に求められる破壊力とは、破壊したい対象を確実に破壊するが、それ以外にまで無用な破壊を拡げないものだ。
「・・・・・・うーむ」
マサトは、目の前に置かれた砲を前に、どうしたものか、と悩んでいた。
マサトは、故郷では武器に触れたことは多くない。
せいぜいで、趣味でモデルガンに触れていた程度だ。
だが、それでも仕組みぐらいは知っている。
「火薬はない、というのも、面倒なものだ」
爆発については、魔術具を使えば、代用できる。
だが、
「安定性の問題がな・・・・・・」
魔術具は、使い手の魔力を使って発動する。
それゆえに、同じ魔術具であっても、使い手によって、その性能には差が出てくる。
つまり、爆圧によって弾を放つ砲で、爆圧の発生を魔術具に頼ると、性能に個人差が強く出る。
兵器とは、破壊力である。
だが、兵器に求められる破壊力とは、誰が使っても同じような破壊をもたらす破壊力だ。
「求められるもの。飛空艇を無力化できる兵器。そうでなくとも、敵に勝てる兵器・・・・・・」
難しいものだ。
実際の兵器に触れたことなど、数えるほどしかなく、それを専門で研究したことなどない。
そんなマサトにとって、兵器開発は手探りの部分が大きい。
特に、この世界には、マサトの世界にはなかった、魔術、という概念がある。
使い手のイメージによるところが大きい魔術は、あまりにも安定性からほど遠い。
だが、安定した兵器こそ、国力の増強につながる。
「・・・・・・ふーむ」
目を覚ました時、何も持っていなかったマサトだったが、ラヒリアッティ共和国の上層部は、その知識を高く買った。
そして、生活の保障、自由と身の安全と引き換えに、マサトはラヒリアッティ共和国に協力することになった。
** ++ **
マサト・タケムラ。
竹村・雅人は、もともとこの世界の人間ではない。
もともとは、仕事の合間にFPSゲームをすることが好きな、サラリーマンであった。
だが、ある時、ふと目を覚ましたら、いつの間にか、この世界にいた。
周囲は、地下と思しき、石で囲まれた密室だった。
重たい石の扉を開き、なんとか外へと出て、そこで見知らぬ景色を知った。
ここが、今まで自分がいた世界とは違う世界だ、というのは、魔獣に襲われ、傭兵団に助けられて知った。
その後、ラヒリアッティ共和国の上層部へと引き渡された。
以降、財産と自由、そして報酬と引き換えに、ラヒリアッティ共和国に協力している。
戦争に協力することに、思うところがないわけではない。
だが、生きるため、と割り切れる程度には、マサトは大人であった。
ゲームでやっていたから、銃に関するある程度の知識はあったが、それでも一から再現することは大変だった。
ラヒリアッティ共和国に流れ着いてから、五年弱。
現地の研究者の協力もあって、銃、とまではいかずとも、砲と呼べる程度のものは、なんとか実現できた。
今は、それをよりよくするための研究に明け暮れている。
仕事さえしていれば、報酬も、そして尊敬も得られる立場。
ラヒリアッティ共和国は、身分も国籍もないマサトを保護し、人権を認めてくれている。
マサトにとっては、それだけで、国に尽くすには十分であった。
** ++ **
マサトが作り上げた砲は、魔術具による爆圧の発生で、弾丸を飛ばす仕掛けだ。
仕組みはごくごく単純で、初期は、地面に設置する大砲であった。
それが、携行できるレベルまで小型化できたのは、それ用の魔術具の開発によるところが大きい。
「・・・・・・マシュー君。調子はどうだい?」
「ああ、班長。やっぱり、爆圧が一定になりませんね」
「ふむ」
砲を作った時から、どうしても消えない課題だ。
魔術というものの安定性の向上。
それは、技術局の最大の課題である。
「まあ、今のところ、不都合はない。いっそ、攻撃力を高めるようにするべきかもしれないなあ」
「上の方はなんと?」
「携行性の向上を主眼にしてくれ、と」
現在のラヒリアッティの砲は、杖の先端に砲が取り付けられた形状となっている。
その杖の石突を地面について固定し、砲の先端を目標へと向けて使用する。
そうでないと、反動で使い手の砲が吹き飛ばされることになる。
「もっと、軽く、かあ・・・・・・」
マサトの中には、ロケットランチャーや、ライフルのイメージはある。
だが、技術的に、それを実電することができていない。
もどかしい、という思いがある。
「ま、のんびりやろう。急いでやったって、ろくなことにはならないからね」
ははは、とマサトは笑う。
マサトは、魔術が不得手だ。
もといた世界には存在しない概念なだけに、どうにもイメージがつかめないのだ。
そもそも、マサトの本職はサラリーマンで、研究者ではない。
「・・・・・・せめて、認識を共有できるだれか、がいればなあ」
「ないものねだり、というわけではありませんが」
「というと?」
「大陸の西の果てに、テュール異王国、という国があって、そこの王は、班長と同じ異世界人だそうですよ」
「・・・・・・そうか」
この土地に来て数年、もう帰ることはあきらめた。
とはいえ、同郷の人間がいるかも、と思えば、多少の望郷の念は湧く。
「そうか。まあ、東と西、会うことは無理だろう」
「そうですね。テュールは、オルクトの属国らしいですし、まあ、この国にいる限りは、接触の機械はないでしょう」
「・・・・・・はあ、なんというか、戦争っていうのは、面倒だねえ」
やれやれ、とマサトはため息を吐いた。
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