第9話:ラヒリアッティの歴史
ラヒリアッティ共和国は、ヴェルミオン大陸の東側で、その中でも南側に位置する。
ヴェルミオン大陸東側の勢力図は、大きく四つに分けられる。
東側の中でも、山のふもとである西側は、オルクト魔帝国の属国か飛び地となっており、完全な勢力圏。
そのオルクト魔帝国の勢力圏に接する北側は、独立はしているものの、オルクトに対しては友好的で、同盟を結んでいたりする。
それに対し、南側はオルクト魔帝国とは対立をしており、ラヒリアッティ共和国は、その中で一番西側にある。
ちなみに、大陸の東端の国々は、オルクト魔帝国とは直接的な交流がないため、基本的には中立だ。
ラヒリアッティ共和国の国としての大きさは、オルクト魔帝国とは比べるまでもない。
東側諸国の中でも、国土の広さ自体は、下から数えた方が早い。
だが、技術力と資源量が違う。
ラヒリアッティ共和国は、国内に鉱脈を持っている。
この鉱脈が、ほぼ無尽蔵である。
そもそも、この世界においては、大陸は真龍が作り出したものだ。
鉱脈資源も、真龍が作ったものなわけだが、この鉱脈、というのは、なぜか湧いてくる。
湧いてくる、という表現通り、地脈からの魔力の湧出点である場所に、鉱脈が発生する。
これが西側だと、湧出点には黒い木の森ができることが多いのだが、東側だと鉱脈の方が多い。
そして、ラヒリアッティ共和国の国内には、こうした鉱脈を作り出す湧出点は、四か所あった。
大陸全体でも、鉱脈となる湧出点は片手で数えられるほどであることを考えると、ラヒリアッティ共和国が占める産出量は、相当なものだ。
これらの鉱脈から産出される様々な鉱物は、すべて漆黒の真龍の魔力の影響を受けており、魔力導体としての性能が極めて高い。
魔術具、あるいは、発動体など、用途は非常に多い。
「ま、この辺の村々は、そういうのとは縁遠いんだが」
ジャンヌは、このあたりの村々について、そう締める。
このあたりの村落は、農業と牧畜を生業としている。
「うちの国は、東側南部のまとめ役でもある。共和国、なんて形式を取ってんのも、それが理由でな」
もともとは、ラヒリアッティ共和国があったあたりには、ラヒリアッティ王国があったらしい。
ところが、オルクト魔帝国が東側の山のふもとの国々と交流を持ち始め、山の麓にある国々が、技術力を向上させ、力をつけていくと、それと敵対するようになる。
「西からの侵略者に対抗する。という名目な」
面倒なことになったのは、ラヒリアッティ王国の隣国だ。
この隣国は、ラヒリアッティ王国よりは少なくとも、鉱脈を有し、採掘と鉄鋼業で発展してきた国だった。
この国とって、ラヒリアッティ王国は、目の上のコブであり、かねてから仲が悪かった。
「いまとなっちゃあ昔の話ではあるが、もともと、山脈の東側は、麓の国々と平原の国々で、仲が悪かったんだ」
西側のふもとには、黒の森に真龍の住処を守る、森守の一族がいた。
では、東側は、というと、これに当たるものが存在しない。
森守は西側にしかいない。
理由は、東側には、真龍のいる場所まで登る道が存在しないからだ。
ただ、それはともかくとして、東側の麓にあった国々の中には、自分たちこそ、真龍の守り人である、と自称している国々があった。
「で、そんなところに、オルクトからの魔術技術がもたらされた」
結果、麓の国と、平原の国との間で、戦争が発生したらしい。
勝利したのは、平原の国だった。
ただし、
「麓の国は、それまでにオルクトと仲良くなっててな。オルクトがこっち側に来る足がかりになった」
そのころに、飛空艇が開発され、オルクトはこちらへと来るようになった。
そういう経緯だと、平原の国とオルクトが仲良くすることも難しい。
「北側は、オルクトと友好を結ぶようになったが、この国含めて、南側は敵対を選んだわけ。ただ、そうなると、位置的に、この国が一番の最前線になる」
一国では、対抗は難しい。
かといって、この国がなくなると南側の国は、大規模な金属資源を産出する鉱脈を失ってしまう。
「ラヒリアッティ王には、五人の子供がいた」
王は、子供たちを周辺国に婿入り、または嫁入りさせ、それぞれの国にラヒリアッティ王国の継承権がある状態にした上で、五つの国の合議によって次の代表を選んでもらう形にした。
これによって、王国は、共和国となり、周辺国はラヒリアッティ共和国の管理責任を得ることになる。
ラヒリアッティ共和国がオルクト魔帝国と敵対する、という形ながら、実質六か国でオルクト魔帝国と対抗する、という形ができた。
「これが、この辺の歴史な」
ジャンヌは、そう締めくくった。
** ++ **
「・・・・・・歴史か」
「で、大事なのは、それだけの事をやったこの国は、オルクトとガチ戦争しているってこと」
ジャンヌに、行先の話をする、と集められた部屋は、村の集会所のようなもので、中央に大き目のテーブルがあった。
ジャンヌは、その机の上へと地図を広げた。
「こいつは、まあ、位置関係だけわかるような、簡単な地図だが」
地図に描かれているのは、国々の位置関係がおおざっぱにわかる程度の地図である。
ラヒリアッティ、と書かれた丸があり、山脈沿いに引かれた線と接している。
「さっきの話で分かったと思うけどな。この国のオルクト対抗路線は、実質六か国分の思惑が絡んでる。つまり、めちゃくちゃ強硬だ」
「つまり?」
「この国から、オルクト魔帝国と接触するチャンスはない。下手に戦場に近づこうもんなら、本当に後ろから撃たれることになる」
うへえ、とモリヒトは呻いた。
だからな、とジャンヌは、地図の上に指を這わせる。
その指は、ラヒリアッティ共和国から、東へと動いた。
「西へ向かうのは無理。北の国とは、不可侵条約を結んでいて、行き来が制限されてるから、現実的じゃない」
そうなると、残るのは、東へと向かう道だ。
「東の国々は中立だ。ここを経由して、北側の友好国へ渡り、そこからオルクトと接触する」
「遠回りだなあ・・・・・・」
「それ以外で、ただの旅人がオルクトと接触する方法はないぞ?」
ジャンヌは、腕を組み、モリヒト達を見すえた。
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