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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第10章:古代の足跡
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第8話:村での仕事

「おい! モリヒト!! ちょっと話がある。来い!」

 声をかけられて、モリヒトは顔を上げた。

 ごりごりと石臼を回していた手を止める。

「ああ、代わるよ」

「ありがとう」

 近くに座っていた村の男が声をかけてくれたことに礼を言って、モリヒトは立ち上がる。

 立ち上がりながら、肩を回し、伸びをする。

 ずっと力を入れながら回し続ける、というのは、かなり疲れる。

 特に、石臼はかなりの重量があるため、ものすごく疲れるのだ。

 この石臼で、村で使う分の粉を挽いている、というのだから、とんでもない。

 水車なりなんなりないのか、と思うが、このあたりには近くに川はなく、水源は村の中央にある井戸と、近くの森の中にある泉だけだ。

 この泉は、近隣の村々の重要な水源となっており、厳重に守られている。

「何か用かい? ジャンヌさん」

 『白亜の剣牙』は、そんな村を拠点としている。

 もともとは、近くにある森の中の水源の管理のため、武装をしたところから始まったという。

 魔獣を倒すため、村を襲う賊に対抗するため、装備を整えるため、傭兵団を組織し、仕事をするようになったのだという。

 そんな『白亜の剣牙』の現在のリーダーが、モリヒトを呼んだジャンヌ、という女性である。

 魔獣の革で作った鎧に身を包んだ、体の大きな筋肉質の女性である。

 女戦士、という風情で、とても恰好いい。

 見た目通りの力持ちで、背負っている槍など、モリヒトは両手も持ち上げるのがやっとな代物であった。

 目を覚ました後、この村へと流れ着いたモリヒトを、警戒しながらも受け入れてくれた恩人である。

 ジャンヌでなければ、村でモリヒト達を受け入れてくれることはなかったかもしれない。

 一泊するくらいならばともかく、宿となる空き家を用意してもらえることはなかっただろうと思う。

「今日は、粉挽きか」

「めっちゃ疲れる」

「重労働だからな。普段は馬を使ってるんだ」

「・・・・・・今日は?」

「あいにく、いつもいるもんじゃないんだよ」

 先日、『白亜の剣牙』が仕事をするために使ったため、今日は休ませる日である。

 あとは、

「お前みたいに、魔術で腕力強化できるようなやつばかりでもないんでな」

「俺だって、そんな得意なわけじゃないんだがなあ・・・・・・」

 ふと後ろを見れば、今までモリヒトが回していた石臼を、大の男が二人がかりで回している。

 石臼の上には、棒が突き出しているし、それを二人がかりで押しているのだ。

 モリヒトは、先ほどまで一人で押していた。

「ていうか、魔術使いながら体動かすとかひでえめんどい」

 何もない空間。

 地脈も特に近くはない場所。

 そういう場所では、モリヒトはただの魔術師でしかない。

 魔力消費は、ほとんど無視できるとはいえ、体力の消費は別だ。

 今のところ、モリヒトは体力を回復するような魔術はイメージできない。

 くわえて、二人のアートリアを得顕現させた状態での魔術行使は、今までのそれとは大きく感覚が変わっていた。

 どうやら、単純な魔術行使ですら、それぞれのウェキアスの適性による補助が発生するらしく、妙に効きがよくなったり、力がこもりすぎたりする。

 そのあたりの慣らしに、この村での生活はちょうどよかった。

「・・・・・・まあ、なじんでるようで安心はしたが」

「ここの村の人たちが、ヨソ者との付き合い方がうまいだけでしょ。俺は、そこまで器用な方じゃないんで」

 モリヒトは、へ、と少々自嘲気味な笑みを浮かべた。

 実際、この村の人たちは、よそ者との間での距離の取り方がうまい。

 踏み込んだことは聞かず、できることだけ重視して、提供できるものを伝えることもうまい。

 おそらくは、傭兵団という、人の出入りの激しいものが近くにあるが故に、自然と身に着いた処世術なのだろう。

 『白亜の剣牙』は、このあたりの村々にとっては、割と古くからある傭兵団らしいが、それでもそこそこ新入りは入ってくるらしい。

 そういう新入りを見極めるのは、それぞれの村人たちが大きい役割を果たしているところもあるという。

「その村のモンに、警戒は大分解いてもらえたみたいじゃないか」

「・・・・・・・・・・・・まあ」

 モリヒトとしては、なんとも片付かない複雑な気持ちだ。

 警戒を解いてもらえた、というよりは、他の女性陣が有能なわりに、モリヒトが凡人すぎて、油断されている、と言う方が正しい気がする。

 モリヒトとしては、少々情けない思いをする話だ。

 魔術の運用に不慣れが発生して自滅しているだけで、もうちょっとできる、と声を大にして言いたい。

「・・・・・・で? 何の用すか?」

「お前の連れはどうした?」

 周囲を見渡しても、クリシャ達の姿は見えない。

 クルワは、村の女衆に付き合って、竈場での食事の用意を手伝っている。

 レンカは、水の魔術が使えることもあって、水場での仕事に重宝されている。

 フェリは、見た目が幼いこともあって、村の子供たちと遊んでいる。

 クリシャは、というと、あちらこちらと跳び回って、この村だけではなく、近隣の村々全体で手助けを行っているらしい。

 モリヒトは、畑仕事を手伝ったり、石臼を回したり、と力仕事ばかりやっていたが。

 ともあれ、

「全員、そこらで何かしら仕事してるかと」

「そうか。・・・・・・今夜、晩飯が終わったら、全員でウチの家へ来な」

「?」

「お前らの目的地。そこへ行く手段について、話をしてやる」

「!」

 モリヒトは、ジャンヌの言葉に、はっとした表情を作るのだった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


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