表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第10章:古代の足跡
399/436

第4話:テュールへ

 ともあれ、エリシアはご機嫌斜めであった。

 放置しておいても、しばらくすれば自分の中で飲み込んでしまうのであろうが、ぷんぷんと起こっている姿が微笑ましい。

 部屋の隅に控えた侍女たちも、微笑ましい顔をしていた。

「きっと、いいことだと思うのですのよ?」

「それなら、教えていただけるまで待てばよろしいのでは?」

 だが、エリシアは首を振った。

「先に知れるなら、その方が楽しいのですのよ?」

 ふふふ、と笑い、エリシアはびしり、とルイホウへ指を突き付けた。

「というわけで、ルイホウ様! 調べてきてほしいんですの!」


** ++ **


「というようなことを言われたのです。はい」

「・・・・・・・・・・・・」

 ルイホウは、セイヴにエリシアから調べるように頼まれたことを報告していた。

 テュールとオルクトは、極めて近い関係にある国である。

 とはいえ、それぞれ独立国同士だ。

 その中枢には、機密が多く存在する。

 テュール異王国側にも、オルクト魔帝国へと伝えていない機密はいくつも存在する。

 オルクト側は、もっと多いだろう。

 そして、ルイホウは、客分として、テュール側から出向してきている身だ。

 飛空艇による他大陸との外交など、国家機密とされて当たり前の内容である。

 調べてこい、と言われたからといって、ルイホウにできることなどたかが知れている。

 知ろうとすれば、違法な手段を使う必要がある。

 ルイホウが取れる手段で、一番多くのことを合法的に知ることができるのは、一番知っている人に直接聞いてしまうことである。

「素直に聞きに来るなよ・・・・・・」

 聞かれたセイヴは、頭を抱えている。

 先ほどまでは、ビルバンもいたが、話題を聞くやいなやさっさと執務室を出て行った。

 面倒に巻き込まれたくない、というのが、如実に表情に現れていた。

「・・・・・・あまり話せることは多くないぞ?」

「構いません。正直、エリシア様が納得できさえすれば、内容などなんでもよいと思うのです。はい」

「ぶっちゃけたな」

 セイヴは苦笑した。

 実際のところ、エリシアがルイホウを茶へと誘うのも、あるいはわがままのようなことを言っているのも、すべてはルイホウの気分転換を狙ってのことだろう。

 ルイホウは、対外的にはもう平常通りのように見える。

 だが、エリシアには、そうは見えていないのかもしれない。

 あるいは、エリシア自身が、自覚していないショックを感じているのか。

「というか、実際、なにかあったのですか? はい」

「何か、というと、どうだろうな?」

 ふうむ、とセイヴは腕を組んで、考える。

 モリヒトを発見したこと以外は、予定通りのことだ。

 せいぜいで、

「飛空艇が少々想定より損耗が大きかったが、許容できないほどでもない、あとは・・・・・・」

 言葉を吐きながらも、セイヴは言葉を選ぶ。

 モリヒトのことは、ルイホウにはまだ話せない。

 現状、次の飛空艇をいつ出せるか、ということの見通しが立たないからだ。

 そんな状況で、モリヒトが見つかった、という話は、ルイホウの精神状態にどんな影響をもたらすか、わかったものではない。

「・・・・・・できれば、次を早めに出したいんだが」

「無理ですか」

「東が、な。少々騒がしい。その対策に金を使うことになるから、飛空艇の準備がなあ・・・・・・」

 飛空艇は、大陸の上を飛ばすだけなら、実はそれほど消耗しない。

 大陸の地脈を流れる魔力を上空でも回収は可能だからだ。

 上空は、魔力は薄くはなるものの、それでもそれなりの量がある。

 むしろ使用者が少ない分、場所によっては上空の方が魔力が濃いこともある。

 だが、海はだめだ。

 海上は、海面だろうが上空だろうが、魔力濃度はかなり低い。

 それもあって、飛空艇を飛ばす際には、少ない魔力量で遠くまで飛ばすような工夫が必須となる。

「・・・・・・いや、それはそちらには関係のない話だな」

 ともあれ、

「ああ、そうだ」

 一つあった、とセイヴは思いついた。

「なんでも、クリシャが向こうの大陸にいたらしい」

「・・・・・・クリシャ様がですか? はい」

「まあ、昔から、他の大陸から混ざり髪を拾っては、こちらで保護をするとやっていたらしいからな。その延長だろう」

 あとは、モリヒトを探すのもふくんでいるのだろうが。

「どうやって渡っているのでしょうか? はい」

「あの女は、一人なら飛べるからな」

 どうにも人間離れしている。

 有史以来、天然で三つの色の混じった混ざり髪は、クリシャだけだ。

 だから、クリシャが持つ能力が、混ざり髪としての能力故なのか、それともクリシャ自身の才覚によるものなのか。

 それは、サンプルが少なすぎてわからない。

「・・・・・・しかし」

「何か、ありますか? はい」

「そうだな。エリシアがそんな文句を言いだしたのは、暇だから、かもしれん」

「・・・・・・はあ」

 きょとん、と首を傾げたルイホウだったが、セイヴはにやりと笑う。

「仕事をさせよう。体質のこともあって、保護対象としての認識が強かったが、いい加減、それ以外が公務ができるようになってもいいだろう」

 うん、とセイヴは頷いた。


** ++ **


「ということになりました。はい」

「予想外に藪蛇ですのー」

 聞いてきたことを、エリシアへと伝えれば、エリシアは突っ伏した。

「仕事をしていないわけではありませんのよ?」

「ええ。知っていますよ。はい」

 エリシアも、帝国皇帝の血族の一人だ。

 公務をこなしてはいる。

 それは例えば、帝都に存在する孤児院や救貧院の管理などの、慈善事業であったり、あるいは、芸術振興のため、芸術の催しを開いた際には名前を貸した上で、審査員で出たり、といった具合だ。

 明確に政治にかかわるような内容は少なくとも、セイヴの名代として、帝都のあちこちで行われる催しに出ている。

 帝都から外に出ることは滅多にないが、一方で帝都の中でなら、エリシアの知名度は結構高い。

「陛下が言うには、そろそろ帝都の外にも出てみるか、ということでした。はい」

「帝都の外、と言っても、どこかに視察にでも行け、と言うのですの?」

「いえ・・・・・・」

 ふふ、とルイホウは苦笑した。

 伝えられた仕事の内容は、公務、というよりは、観光の色が強いような気がする。

「テュールへ。時候の挨拶の親書を持った大使として赴け、ということでした。はい」

「・・・・・・それって・・・・・・!」

 エリシアの顔が、喜色に輝いた。

 テュール異王国との外交だが、実際のところテュールとの間で協議すべき内容などそれほどない。

 となれば、ここでエリシアをテュールに送るのは、テュールで遊んで来い、という許可に他ならない。

 アヤカと遊んでくればいい、ということだろう。

 それを悟って、エリシアは喜んでいるのだ。

「ルイホウは、どうなさいますの?」

「・・・・・・私も、一度帰ってはどうか、と。はい」

 次の『竜殺しの大祭』は、まだ先だ。

 実際に『竜殺しの大祭』が近くなれば、今のテュールにルイホウはいられない。

 だが、今の時期ならば、ルイホウもテュールに帰ることができる。

「というわけで、同道します。はい」

「それは、楽しい旅路になりそうですの!」

 ふふふ、とエリシアは笑った。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別のも書いてます

DE&FP&MA⇒MS

https://ncode.syosetu.com/n1890if/


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ