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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第10章:古代の足跡
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第1話:技術局

 かつ、かつ、かつ、と硬い足音が鳴っている。

 固い素材の床と、硬く作られた靴が鳴らす足音だ。

 足音は規則正しく、そして一定の強さを持っていた。

 体に沿って作られた、動きやすさと機能性を重視した作りの、頑丈そうな衣服。

 威圧感すら漂うそれは、軍服である。

「・・・・・・」

 足音の主は、緊張からか、硬い表情をしていた。

 足音が響く場所は、長い廊下だ。

 周囲すべてが石、というか、石に似た素材でできてる。

 コンクリート、という、乾くまではどろどろの、だが、乾けば石のような質感になる、新しい建材で作られた建物だ。

 鉄筋を使い、漆喰のように塗り固めて作られた建物は、木やレンガで作られた建物に比べると、非常に頑丈でかつ建てやすい。

 見た目が無機質になることは欠点ではあるが、最近になって、普及し始めていた。

 特に、魔術の研究施設では、この建材の有用性は高い。

 理由は不明だが、コンクリートは魔力を通しづらいため、外部の魔力の影響を排除できるため、魔術を研究する場では、非常に有用であった。

 とはいえ、まだ普及の始まったばかりの建材だ。

 それを惜しげもなく使用できているのは、この施設が、この国でも非常に重要な施設だからだ。

「・・・・・・ふう・・・・・・」

 廊下を歩く軍服を纏った人物は、息苦しさを感じて、一つ息を吐いた。

 コンクリートで囲まれた建物は、空気の通りが悪く、四方を囲まれた作りは、狭苦しく、息がつまる。

 服の胸元を少し緩めて、おおきく深呼吸をする。

 冷えた空気が肺に流れ込み、少しだけマシになった気がした。

 二度、三度、と深呼吸をした後、緩めた胸元を元に戻し、また歩き出す。

 そして、ある部屋の前で足を止めた。

「・・・・・・」

 一瞬のためらいの後、足音の主により、扉が叩かれる。

 がん、がん、と、鉄で作られた扉が、叩かれて音を立てた。

「どちら様ですか?」

 穏やか、ともとれる女性の声が聞こえて、

「『黒兎』副長、エセル・トンプソンだ」

「副長ですか。少しお待ちを」

 そして、エセルの前にあった引き戸が開かれる。

 がらがら、と重い音を立てて、扉が開いた。

「・・・・・・お待たせしました。副長。どうかなさいましたか?」

 首を傾げたのは、エセルと同じ軍服を着た女性だ。

「ハリエット・パーカー兵長。状況は?」

「今のところは、特筆すべきことはなにも。・・・・・・何かありましたか?」

「ああ」

 エセルは、室内へと足を進めた。

「彼は?」

「今は、奥で試験中ですね。他の研究員も」

「そうか・・・・・・」

 ふむ、とエセルは唸った。


** ++ **


 ラヒリアッティ共和国。

 それは、ヴェルミオン大陸の東側にある国だ。

 他の小国家に比べると、比較的規模の大きい国である。

 大きい、といっても、オルクト魔帝国に比べれば、はるかに小さい国だ。

 それでも、現在において、オルクト魔帝国と正面から戦争をしている、稀有な国だ。

 東側で、反オルクト魔帝国勢力の旗頭となっている国である。

 そのラヒリアッティ共和国が、オルクト魔帝国と渡り合えている理由は、その技術力にある。

 魔術技術において、軍事方面に関しては、オルクト魔帝国とほぼ同等の技術を持ち、さらに飛空艇を持つオルクト魔帝国に対し、魔術に頼らない軍事技術を持っている。

 オルクト魔帝国と年がら年中戦争をしている影響で、軍事技術に偏った進歩をしている国である。

 その共和国の軍事力を支えているのが、技術局。

 そして、その技術局で開発された新技術を試験運用するための、精鋭部隊が、特殊部隊『黒兎』であった。


** ++ **


「つい先日、国境付近で、オルクトと小競り合いがあってな」

「また、ですか?」

「ああ。そのせいで、マーガス部隊が壊滅した」

 ふう、とエセルがため息を吐いた。

「え・・・・・・」

 ハリエットが絶句する。

 マーガス部隊、というのは、『黒兎』とも縁の深い部隊だ。

 『黒兎』が試験運用を行い、試し終えた武装を使っていた、共和国でも精鋭となる部隊である。

 その縁で、知り合いも多い。

 エセルは、肩をすくめた。

「殿になって蹴散らされたそうだ。戦場に持っていった新技術の武装は、他部隊に渡していたらしい」

「ええっと・・・・・・」

「ああ、心配はいらん。足止めだけうまくやって、大半は無事に逃げかえってきたらしい。・・・・・・ただ、武装の大半を失ったらしくてな。補充要請がきていたよ」

 やれやれ、とエセルはため息を吐いた。

 狙ってやっているのだから、マーガス部隊長は、本当にしたたかだ、と思う。

 他部隊に新武装を回したことで、他部隊の戦力を向上させつつ、自分たちは次の新技術の武装を得られる。

 そういう根回しがうまい人だ。

「先ほど、隊長が絡まれていたよ。新しいのができたんだろうって」

「・・・・・・耳聡いですね。相変わらず」

「まだ、試験運用さえしていないものを表には出せないんだが・・・・・・」

 はあ、とため息を吐きながら、エセルは室内へと目を向けた。

「ともあれ、隊長からの命令でな。局長から、新しい技術について聞いてこい、と」

「了解しました。少々お待ちください」

「ああ、頼む」

 小さく敬礼をして、ハリエットが奥へと消えていく。

 ハリエットは、『黒兎』部隊から技術局へと出向している分隊所属の兵長だ。

 その任務は、技術局の警護と、新技術のテスターである。

 実戦での試験運用は、『黒兎』全体で行うが、技術局内で開発中の試験については、分隊が担当する。

 四方をコンクリートに囲まれた、相変わらず息苦しい建物の部屋である。

 そこで、しばらく待ったところで、

「やあ、待たせた。副長殿」

「・・・・・・レイフ・ブルーノ副局長」

「すまない。局長は今試験中でね。どうにも手が放せないらしく」

「いえ。構いません。むしろ、副局長でよかった」

「・・・・・・あー」

「あの方は、話が通じませんから」

 ほ、とエセルが吐いた安堵混じりの吐息に、ははは、とレイフは乾いた笑いを上げた。

「まあ、副長殿が来ていた、と知れば、案外あっさりと来るかもしれませんが」

「世辞など不要ですよ。そんな人間らしい情動など、あの男にはないでしょう」

「いやあ、それは・・・・・・」

「とにかく、現在の進捗状況、特に『アレ』の状況について、お願いします」

「ああ、はいはい」

 真面目な顔をしたエセルに、レイフは苦笑をうかべ、部屋の奥を示した。

「奥へどうぞ。資料がありますので」

「ありがとうございます」


** ++ **


「・・・・・・ん~?」

 長椅子の上にだらしなく寝そべり、書類を顔の上に乗せて寝息を立てている男がいる。

 全体的にくたびれた白衣を着た、だらしない男だ。

 ハリエットは、男の顔の上に乗った書類を取り上げ、

「班長。起きてください」

「・・・・・・あー?」

 明るい光が目に入り、男は顔をしかめた。

「・・・・・・ハリエット、さん?」

「ええ。起きてください。トンプソン副長がお越しです。班長の例の『アレ』のことだと思いますから、会議室に来てくれって、ブルーノ副局長がお呼びですよ」

「マジかい」

 やれやれ、と頭をかきながら、男は身を起こす。

 そして、ふわあああ、と大きくあくびをした。

「・・・・・・しゃあねえなあ」

「顔、洗ってからにしてくださいよ」

「へいへい」

 よたよた、と洗面所へと向かう男の背に、ハリエットは声をかけた。

「タケムラ班長。会議室は、三番ですから!」

 そんな声に、マサト・タケムラは、肩越しにひらひらと手を振ってこたえるのであった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


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