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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第10章:古代の足跡
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第10章:プロローグ

10章開始

 石でできた天然の一室であった。

 天然の洞窟。その最奥だ。

 そこは、地下深くであり、それゆえに、地脈の流れの中にあった。

 魔力の吹き溜まり、となったそこは、魔力濃度だけで言えば、地脈の中とほぼ同等であり、瘤が発生していないことが奇跡、ともいえるレベルだった。

 突然のことだ。

 そこに、風が生まれた。

 停滞していた空気が、中心から弾けるように、外へと押し出され、そして、戻ってくる。

 その繰り返しの間に、その空間の中で空気が渦を巻き、やがて速くなり、収束して、弾けた。

 そして、それは、そこに生まれ落ちた。


** ++ **


 戦場がある。

 双方の勢力が距離を置いて向かい合っている。

 双方、武器を持ち、陣形を整え、いつ開戦してもおかしくない、という状況ではあるが、それにしては、双方の陣地に流れる空気はいささか緩い。

 そうして、しばらくの時間が過ぎたころ、双方の陣地から、一騎ずつ、騎馬兵が進み出た。

 双方の陣営から出たそれぞれの騎馬兵は、双方の陣営の中央付近で、互いに文書を見せ合い、読み合って、交換した。

 そして、元の陣営へと戻っていく。

 元の陣営へと、騎馬兵が戻った後、ラッパの音が鳴り響いた。

 そして、双方の陣営は、前進を開始した。


** ++ **


「ふん・・・・・・」

 眼下、ぶつかり合う二つの勢力がある。

 片方は、オルクト魔帝国の戦力だ。

 黒を基調とした鎧を纏い、規律正しく前進する軍隊だ。

 それに対するのは、青を基調とした鎧を纏った軍勢であった。

 オルクト魔帝国の軍勢に比べると、その陣列はばらばらとした不揃いが見える。

 武器の構えなどにも、不慣れな様子が見て取れて、兵の質、という点で、オルクト魔帝国の方が高いことがわかる。

 さらには、オルクト魔帝国側の陣営には、その後方上空に、戦争用の飛空艇が浮いていた。

 青の軍勢の方も、上空には飛竜や大鳥を飼い慣らして乗りこなす、飛空兵がいる。

 だが、オルクト側にも同様の飛空兵はおり、飛空艇と飛空兵を共に軍列に加えているオルクト魔帝国軍に比べれば、青の軍勢は明らかに戦力で劣っていた。

 その二つの軍勢の様子を、オルクト側の戦場のさらに後方上空から見下ろし、男は息を吐いた。

 男は、銀髪に端整な顔をした背の高い男だ。

 彼の傍らには、緋色の髪と目をした美少女が控えている。

「たまには、と思って視察に来てみたが、毎度こういう感じなのか?」

「大体は、そうですなあ。いやあ、お恥ずかしい」

 オルクト魔帝国、魔皇、セイヴ・ゼイリス・オルクトは、眼下の光景を見ながら、ため息を吐いた。

 眼下の戦争は、オルクト側の優位で進んでいた。

 兵の質も、兵の数も、オルクト側の方が優れているのだから、この戦場の推移は、当然のことだ。

 だが、

「・・・・・・なるほど。これが、だらだらと戦争をしている理由か」

 当初の、近接でのぶつかり合いでは、オルクト側が圧倒した。

 だが、オルクトの戦力が青の軍勢の陣地に迫ると、その足が止まった。

 何かの指示があったわけではない。

 ただ、敵の反撃が激しくなって、足を止めざるを得なくなったのだ。

「ここ数年、抵抗が激しくなっている、とは聞いていたが」

「ええ。敵側が、なにか新兵器を開発し、普及させたようでして」

 ははは、と胡散臭い笑顔を浮かべ、セイヴと向かい合う男が告げる。

 男は、やせぎすで貧相な男であった。

 魔皇近衛であることを示す記章が縫い付けられたマントを身に着けているが、どうにもそのマントの豪奢さに比べて、男が貧相過ぎた。

 鎧すら身に付けられなさそうな貧相さだが、この男こそ、魔皇近衛の序列第一位、ドラゴン・リュウ・ロン、と呼ばれる男であった。

「その新兵器の詳細は?」

「一応、鹵獲してあります」

 そして、ドラゴンが持ってきたのは、棒であった。

 手で握り込める程度の棒で、先端に金属でできた筒がついている。

「この筒の中に、この礫を入れるのです」

 それは、卵ほどの大きさの金属の塊だ。

「こんなものが?」

「ですが、これが、厄介なのですな」

 ドラゴンが、棒を突き付ける。

「この筒から、この礫が、爆発とともに強い勢いで発射されるのです。弩などとはくらべものにならない威力で、その音は轟音。馬は浮足立ち、兵ですら恐れてしまう」

 何よりも、射程が長い。

 魔術で届く範囲は、それほど長くはない。

 だが、この筒は、その間合いの外から、礫が飛んでくるという。

「さすがに、距離が開くと命中率は下がるのですが、それでも当たれば致命傷となりかねない。投石より遠い距離から、投石とはくらべものにならない威力です」

「で、押し込まれているのか」

「ええ。さらに言えば、どうやらもっと威力を高めることもできるようで・・・・・・」

「・・・・・・あれか」

「ええ。つい先日などは、突出した飛空艇の一隻を撃ち落とされました」

 セイヴの顔が険しくなった。

 それは、オルクトの魔皇として、看過できない事態であった。

 オルクト魔帝国にとって、飛空艇は国の戦力の優位性を示す、重要なものだ。

 その運用は、最新の注意の下に行われている。

 まかり間違っても、戦場で落とされるようなことは、想定されていない。

「・・・・・・飛空艇のある高度まで、十分な破壊力のある攻撃が届いた、と?」

「ええ、えええ。そうなんですよぉ」

 へへへ、とドラゴンは笑みを浮かべながらうなづいた。

「実際には、敵方の飛空兵が、こちらの飛空兵の防御をかいくぐって、飛空艇へと接近し、使ったのですが」

「ふむ」

「ですが、地上からの攻撃で、飛空艇まで届いたものがいくつかあったことも事実です」

「む?」

「威力が高まれば、場合によっては、地上からの攻撃で落とされることも考えられたため、今は飛空艇は後方に下げて運用しております」

 ドランゴンは、敵の持っている武器の性能について、最大限の警戒をしている。

 仮に飛空艇が自由に運用できるなら、敵陣営に上空から爆弾なりなんなりを落とすだけで、大概の戦争には勝利できる。

 だが、敵が持っているこの武器一つで、飛空艇の安全は脅かされ、その手段は取れなくなっていた。

「・・・・・・なるほどな」

 ふう、とセイヴはため息を吐いた。

 戦線が膠着している、という報告を受け、ようやく仕事を片付けて、視察に来たのが今日のこと。

 だが、思ったよりも、戦況は面倒なことになっている。

 仮に、このまま相手の武器が攻略できない場合、現状はオルクトに明確に敵対していない国家も、オルクトへと敵対を表明してくることが考えられる。

 そうなれば、戦争はより拡大するだろう。

 オルクトの本土は、ヴェルミオン大陸を東西に分割する黒の山脈の、西側だ。

 東側は、黒の山脈を越えなければいけない関係上、飛空艇を持っているオルクトであっても、簡単には支援できない。

 そんな状況で、東側の諸国が反オルクトで結束するような事態は、さすがに面倒にすぎる。

 モリヒトが見つかり、飛空艇を出す準備を進めている状況で、もし戦争が激化すれば、その準備は停止せざるを得ないだろう。

「・・・・・・というか、だ」

 ふう、とセイヴは、ドラゴンを見た。

「お前が、実際に戦争が起こる状況にしたっていう事実が、ちょっと信じられんぞ?」

「ははは。汗顔の至り」

 ぺこり、と慇懃に礼をしたドランゴンを見て、セイヴはもう一度ため息を吐いた。

「・・・・・・つまり、想像以上に、面倒な状況か」

 やれやれ、とセイヴは頭を悩ませるのだった。

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