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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第9章:遺跡
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閑話:カラジオルからの知らせ

 カラジオル大陸へと使いに出していた飛空艇が、オルクト魔帝国へと帰還した。

 その知らせを受けた翌日、セイヴは執務室で報告を受けていた。

「急ぎか?」

「そうです」

 報告に現れた、宰相、ビルバン・ヒルテリトは、セイヴの問いに、肯定を返した。

 アレトからの報告は、直接セイヴに行かず、一度宰相であるビルバンを経由する。

 もともと、ビルバンの発案で始まった隣大陸との交流であったため、責任者はビルバンなのである。

「問題でもあったか?」

「いえ、飛空艇にも、航路にも、特に問題はなく、予定通りにたどり着くことができたそうです」

「ならば、急ぎの知らせとは?」

「・・・・・・一応は、朗報、になりますかな」

「なんだ? その一応ってのは・・・・・・」

 セイヴが眉を顰めるが、ビルバンは、まとめておいた報告書を手渡す。

「詳しくはここに。ただ、結論を言いますと、交流に行った先で、モリヒト殿を発見したそうです」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 長い沈黙のあとに、セイヴらしからぬ、ぽかん、とした疑問が出た。

「どういう・・・・・・」

「報告書をご覧ください。小生も、いささか混乱しておりまして、口でうまく説明できる自信がありませぬ」

 それで、

「アレトも呼んでいます」

「呼べ」

「はっ」

 ビルバンが呼べば、アレトが部屋へと入ってきた。

「アレト。モリヒトを見つけたのか?」

「ええ。当初の予定をすべて終えた後、帰還の準備をしていた時に、向こうの王子からの会見の要請がありました」

 そして、その要請に応じて会いに行ったら、そこにモリヒトがいたという。

「どうも、モリヒトさんが、王子の仕事を手伝ったらしくて、その伝手でこちらに」

「モリヒトはなんと?」

「ヴェルミオン大陸に帰りたい、と」

「・・・・・・それで、一緒には帰還しなかったのか?」

「陛下。それはさすがにできませんよ」

「む」

 大陸間を移動できる飛空艇は、まだ少ない。

 そして、この飛空艇は、長い航続期間と引き換えにするように、積載量が少ない、という欠点があった。

「さすがに、向こうで頂いた品を置いていく、というわけにもいきませんし、予定外の人物は乗せられません」

 これに関しては、無理もできない。

 下手に無理をすれば、飛空艇が沈むのだから、当然だ。

「それで、モリヒトさんに対する迎えを行うにしても、一度、オルクトに戻ってから、ということを伝えました」

「・・・・・・まあ、仕方ないか」

 ふう、とセイヴはため息を吐いた。

 とはいえ、

「いい知らせなのには変わるまい。アレト、よくやった」

「はい」

「陛下」

「ん?」

「モリヒト殿には、クリシャ殿も同行していたようですが」

「あれについては気にするな。考えるだけ時間の無駄だ」

 それよりも、

「ビルバン。迎えを出すとすれば、最速でどのくらいだ?」

「・・・・・・早くとも、八か月は無理ですな」

「・・・・・・何とかならんか?」

「無理です」

 単純に、飛空艇を飛ばせばいい、という話ではないのだ。

 飛空艇は、一回飛ばすだけでも、それなりに金がかかる。

 大陸間を移動するほどの飛空艇を動かす場合、その予算はかなりのものになる。

「もともと、数年に一度、程度の頻度で予算を組んでおります。今年の予算には、余裕はありません」

「むう・・・・・・」

「それに、隣国が少々不穏な動きをしております」

 予算に、多少の余裕はあっても、その余裕もこれから隣国への対応に使われる。

 今のオルクトに、今すぐ飛空艇を隣の大陸に派遣する余裕はなかった。

「来年の予算ならば、今から調整すればどうにかなるでしょうが、どちらにせよ、八か月。準備期間を含めて、十二か月はかかるでしょうな」

「・・・・・・そうか」

「あ、それについては、モリヒトさんにお伝えしてあるっす。半年から一年、もしくはもう少しって」

 アレトの補足に、ふうむ、とセイヴは唸る。

「・・・・・・まあ、できるだけ早く飛ばせるようにしてくれ。連れて帰れれば、いろいろとありがたい」

「では、そのように調整いたします」

 ビルバンは、頭を下げて、退出していった。


** ++ **


 夜、自室で酒杯を傾け、セイヴは、ふーむ、とうなっていた。

 モリヒトが見つかったことは喜ばしい。

 だが、迎えを出すには、時間がかかる。

 問題は、

「テュールに、この事態をどう伝えるべきか・・・・・・」

 ユキオもそうだが、問題はルイホウだ。

 一時期、おおきく精神の安定を欠いていたルイホウだったが、今は比較的落ち着いている。

 現在はオルクトに出向して、魔術研究に協力をしている。

 だが、これは、モリヒトの不在を受け入れたからではなく、地脈をより深く研究できるオルクトの方が、モリヒトの行方を調べられる、という考えからだ。

 ルイホウは、いまだモリヒトをあきらめていない。

「お悩みですか?」

 セイヴの対面に座って、酒杯を傾けるのは、セイヴの側妃となるイザベラだった。

 正妃であるリューディアは、別室で子とともに眠っている。

「・・・・・・ルイホウに、どう伝えたものか、とな」

「喜ぶべき知らせではありますが、今の彼女には、少々酷ですわね」

「やはり、そう思うか?」

「行ける場所にいない、と思うからこそ、彼女は研究にまい進することで、精神の安定をはかっています。それが無駄となれば・・・・・・」

 イザベラは言葉を濁したが、セイヴにもその懸念はわかる。

「実際に、迎えの飛空艇を出せてから、知らせるのがよかろうな」

「わたくしもそう思います」

 うむ、とセイヴは頷く。

 そんなモリヒトが、迎えを出すまでもなく戻ってくるとは、予想の範囲外であった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


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