閑話:カラジオルからの知らせ
カラジオル大陸へと使いに出していた飛空艇が、オルクト魔帝国へと帰還した。
その知らせを受けた翌日、セイヴは執務室で報告を受けていた。
「急ぎか?」
「そうです」
報告に現れた、宰相、ビルバン・ヒルテリトは、セイヴの問いに、肯定を返した。
アレトからの報告は、直接セイヴに行かず、一度宰相であるビルバンを経由する。
もともと、ビルバンの発案で始まった隣大陸との交流であったため、責任者はビルバンなのである。
「問題でもあったか?」
「いえ、飛空艇にも、航路にも、特に問題はなく、予定通りにたどり着くことができたそうです」
「ならば、急ぎの知らせとは?」
「・・・・・・一応は、朗報、になりますかな」
「なんだ? その一応ってのは・・・・・・」
セイヴが眉を顰めるが、ビルバンは、まとめておいた報告書を手渡す。
「詳しくはここに。ただ、結論を言いますと、交流に行った先で、モリヒト殿を発見したそうです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
長い沈黙のあとに、セイヴらしからぬ、ぽかん、とした疑問が出た。
「どういう・・・・・・」
「報告書をご覧ください。小生も、いささか混乱しておりまして、口でうまく説明できる自信がありませぬ」
それで、
「アレトも呼んでいます」
「呼べ」
「はっ」
ビルバンが呼べば、アレトが部屋へと入ってきた。
「アレト。モリヒトを見つけたのか?」
「ええ。当初の予定をすべて終えた後、帰還の準備をしていた時に、向こうの王子からの会見の要請がありました」
そして、その要請に応じて会いに行ったら、そこにモリヒトがいたという。
「どうも、モリヒトさんが、王子の仕事を手伝ったらしくて、その伝手でこちらに」
「モリヒトはなんと?」
「ヴェルミオン大陸に帰りたい、と」
「・・・・・・それで、一緒には帰還しなかったのか?」
「陛下。それはさすがにできませんよ」
「む」
大陸間を移動できる飛空艇は、まだ少ない。
そして、この飛空艇は、長い航続期間と引き換えにするように、積載量が少ない、という欠点があった。
「さすがに、向こうで頂いた品を置いていく、というわけにもいきませんし、予定外の人物は乗せられません」
これに関しては、無理もできない。
下手に無理をすれば、飛空艇が沈むのだから、当然だ。
「それで、モリヒトさんに対する迎えを行うにしても、一度、オルクトに戻ってから、ということを伝えました」
「・・・・・・まあ、仕方ないか」
ふう、とセイヴはため息を吐いた。
とはいえ、
「いい知らせなのには変わるまい。アレト、よくやった」
「はい」
「陛下」
「ん?」
「モリヒト殿には、クリシャ殿も同行していたようですが」
「あれについては気にするな。考えるだけ時間の無駄だ」
それよりも、
「ビルバン。迎えを出すとすれば、最速でどのくらいだ?」
「・・・・・・早くとも、八か月は無理ですな」
「・・・・・・何とかならんか?」
「無理です」
単純に、飛空艇を飛ばせばいい、という話ではないのだ。
飛空艇は、一回飛ばすだけでも、それなりに金がかかる。
大陸間を移動するほどの飛空艇を動かす場合、その予算はかなりのものになる。
「もともと、数年に一度、程度の頻度で予算を組んでおります。今年の予算には、余裕はありません」
「むう・・・・・・」
「それに、隣国が少々不穏な動きをしております」
予算に、多少の余裕はあっても、その余裕もこれから隣国への対応に使われる。
今のオルクトに、今すぐ飛空艇を隣の大陸に派遣する余裕はなかった。
「来年の予算ならば、今から調整すればどうにかなるでしょうが、どちらにせよ、八か月。準備期間を含めて、十二か月はかかるでしょうな」
「・・・・・・そうか」
「あ、それについては、モリヒトさんにお伝えしてあるっす。半年から一年、もしくはもう少しって」
アレトの補足に、ふうむ、とセイヴは唸る。
「・・・・・・まあ、できるだけ早く飛ばせるようにしてくれ。連れて帰れれば、いろいろとありがたい」
「では、そのように調整いたします」
ビルバンは、頭を下げて、退出していった。
** ++ **
夜、自室で酒杯を傾け、セイヴは、ふーむ、とうなっていた。
モリヒトが見つかったことは喜ばしい。
だが、迎えを出すには、時間がかかる。
問題は、
「テュールに、この事態をどう伝えるべきか・・・・・・」
ユキオもそうだが、問題はルイホウだ。
一時期、おおきく精神の安定を欠いていたルイホウだったが、今は比較的落ち着いている。
現在はオルクトに出向して、魔術研究に協力をしている。
だが、これは、モリヒトの不在を受け入れたからではなく、地脈をより深く研究できるオルクトの方が、モリヒトの行方を調べられる、という考えからだ。
ルイホウは、いまだモリヒトをあきらめていない。
「お悩みですか?」
セイヴの対面に座って、酒杯を傾けるのは、セイヴの側妃となるイザベラだった。
正妃であるリューディアは、別室で子とともに眠っている。
「・・・・・・ルイホウに、どう伝えたものか、とな」
「喜ぶべき知らせではありますが、今の彼女には、少々酷ですわね」
「やはり、そう思うか?」
「行ける場所にいない、と思うからこそ、彼女は研究にまい進することで、精神の安定をはかっています。それが無駄となれば・・・・・・」
イザベラは言葉を濁したが、セイヴにもその懸念はわかる。
「実際に、迎えの飛空艇を出せてから、知らせるのがよかろうな」
「わたくしもそう思います」
うむ、とセイヴは頷く。
そんなモリヒトが、迎えを出すまでもなく戻ってくるとは、予想の範囲外であった。
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