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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第9章:遺跡
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第49話:帰還への道

 遺跡地下で出会った『しんりゅう』。

 それは、色のない真龍だ。

 その言葉によれば、モリヒトにはこのカラジオル大陸から、ヴェルミオン大陸へと帰還できる方法がある。

 『しんりゅう』の手助けがあること前提ではあるものの、世界の外の魔力の流れに乗って、別の真龍のところまでいけるらしい。

「どうすっかな?」

「考えるまでもないんじゃない? 迎えを待つにしたって、たぶん一年はかかるだろうし。それを考えれば、はやく帰れるに越したことはないんじゃない?」

「アタシも同意見。躊躇する理由はないと思うけれど?」

 クルワが首を傾げつつも、モリヒトに帰還を促している。

 モリヒトとしても、ヴェルミオン大陸への帰還は望むところだ。

 ただ、

「仕事中じゃん?」

「ユルゲンに報告しておけばいいと思うけれどね」

「ウェブルストに、不義理になっちまうなあ、と」

「チャンスが、何度もあるとは思えないけれどね」

「ついでに言えば、時間を置くことが正しいかどうか・・・・・・」

 ふうむ、とモリヒトは悩む。

 正直、急ぐ必要はない気がする。

 真龍というものの時間感覚は、人間のそれに比べれば圧倒的に長い。

 そうである以上は、数日待たせたところで、それほど気にはしないとは思う。

 モリヒトが悩むのは、その間を使って、ウェブルストに別れの挨拶をするべきではないか、ということだが。

「構わないと思いますぞ?」

 相談したユルゲンは、ふむ、と顎を撫でながら、笑って言った。

「いいのかね」

「構わないでしょう。帰る手段が見つかったならば、それを選んだところで問題はないと思います」

 ユルゲンは、ウェブルストならばなんというか、と考える。

 ユルゲンは、『赤熱の轟天団』では、最古参だ。

 付き合いが長いから、それなりに考えは推測できる。

「そういう別れの挨拶など、さして重要視されない方です。それより、やるべきことを優先せよ、という感じですな」

「合理的?」

「いえ。これが、国の貴族などなら、別だとは思うのですがね」

 モリヒトは、ウェブルストにとって立場によらない友人だ。

「団長は、モリヒト殿が帰りたがっていることを知っていますからな。むしろ、挨拶程度のために、何日かかけて城へ来るようなことは望まんでしょう」

「大丈夫かね?」

「気になるなら、手紙の一つも残しておけばよいでしょう」

「・・・・・・そうか」

 下手をすると、これで今生の別れになる可能性もある。

 それについては、ユルゲンも理解しているだろうに。

「それに、そこまで急ぎでもない気もするんだけどなあ・・・・・・」

「いえ、急いだほうが良いと思います」

「む?」

 ユルゲンは、難しい顔をして、周囲を見回す。

 そこにいるのは、他の冒険者たちの野営地だ。

 そして、声を潜める。

「地下にいた者達は、全滅したのですよね?」

「ああ。たぶんね」

「・・・・・・おそらくですが、今までにその地下が見つからなかったのは、その者達が隠ぺいを行っていたからでしょう」

「それが?」

「だとすれば、彼らの管理がなくなれば、いずれは見つかると思います。早ければ、明日にでも」

 ユルゲンは、冒険者や研究者たちをなめるな、という。

 探して見つからない、ということもないだろう。

 今こそ、殺人事件が起こっていて、地下三階まではスルーしているが、いつまでも続くような状況ではない。

「皆様が目的を果たすところは、誰にも見られない方がよいことです。ならば、急がれた方がよいかと」

「・・・・・・そうか」

 ユルゲンに促され、モリヒトは頷いた。

「じゃあ、手紙でも書いとくか」

「紙とペンを用意しましょう」

 ふ、とユルゲンは笑った。


** ++ **


「・・・・・・手紙?」

「はい」

 遺跡調査に出していた『赤熱の轟天団』メンバー。

 遺跡の調査を目的としつつも、実際には、仕事を依頼したモリヒトの補助として送ったものだったが、それが不意に帰還した。

 帰還したのは、メンバーのまとめ役であった、ユルゲン一人のみだったが。

「何か、あったのか?」

「は。報告いたします」

 ユルゲンから、遺跡での出来事が報告される。

 当初、モリヒト達の調査は順調に進んでいた。

 その中で、探索を行っていた一団が、全滅する事件が発生する。

 事件の犯人は、ミュグラ教団の生き残りであった。

「生き残りがいたか」

「魔獣を使って、何やら企んでいたようですな」

 だが、それも、失敗。

「地下で、魔獣の暴走に巻き込まれ、ミュグラ教団は全滅したようです」

「ほう」

 最近のミュグラ教団は、悪いことばかりしている。

 それが全滅した、というニュースは、悪いことではない。

 だが、

「ミュグラ教団は、遺跡の未探査地区に潜んでいたようです。それで、モリヒト殿は、その場所を発見された、と」

「・・・・・・大手柄、だな。報酬の準備がいるか」

「それなのですが・・・・・・」

 ユルゲンは、わずかに言い淀んだ。

「その遺跡内部で、モリヒト殿は、ヴェルミオン大陸へと移動する手段w見つけたそうなのです」

「・・・・・・そんな手段が?」

「モリヒト殿が言うには、モリヒト殿にしか使えない手段、ということですが」

「そうか。簡単に行き来ができるなら、いろいろとできることも多そうなんだが・・・・・・」

「モリヒト殿の特異体質ありき、ということでした」

「・・・・・・それで、モリヒトは、帰ったのか」

「はい。地下遺跡への入り口が、他冒険者などに知られれば、帰還が難しくなる可能性もありましたから、帰還をお勧めしました」

「そうだな。それはよくやった。オレでも同じように言う」

 ふむ、とうなづき、ウェブルストは、手紙を手にする。

「それで、手紙か」

「はい。挨拶できない不義理を気にしておられたので」

 ユルゲンの報告を受け、ウェブルストは手紙を開いた。

「・・・・・・簡潔だな」

 くく、とウェブルストは笑った。

 手紙には、

「世話になった。またな」

 それだけが書かれていた。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


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