第49話:帰還への道
遺跡地下で出会った『しんりゅう』。
それは、色のない真龍だ。
その言葉によれば、モリヒトにはこのカラジオル大陸から、ヴェルミオン大陸へと帰還できる方法がある。
『しんりゅう』の手助けがあること前提ではあるものの、世界の外の魔力の流れに乗って、別の真龍のところまでいけるらしい。
「どうすっかな?」
「考えるまでもないんじゃない? 迎えを待つにしたって、たぶん一年はかかるだろうし。それを考えれば、はやく帰れるに越したことはないんじゃない?」
「アタシも同意見。躊躇する理由はないと思うけれど?」
クルワが首を傾げつつも、モリヒトに帰還を促している。
モリヒトとしても、ヴェルミオン大陸への帰還は望むところだ。
ただ、
「仕事中じゃん?」
「ユルゲンに報告しておけばいいと思うけれどね」
「ウェブルストに、不義理になっちまうなあ、と」
「チャンスが、何度もあるとは思えないけれどね」
「ついでに言えば、時間を置くことが正しいかどうか・・・・・・」
ふうむ、とモリヒトは悩む。
正直、急ぐ必要はない気がする。
真龍というものの時間感覚は、人間のそれに比べれば圧倒的に長い。
そうである以上は、数日待たせたところで、それほど気にはしないとは思う。
モリヒトが悩むのは、その間を使って、ウェブルストに別れの挨拶をするべきではないか、ということだが。
「構わないと思いますぞ?」
相談したユルゲンは、ふむ、と顎を撫でながら、笑って言った。
「いいのかね」
「構わないでしょう。帰る手段が見つかったならば、それを選んだところで問題はないと思います」
ユルゲンは、ウェブルストならばなんというか、と考える。
ユルゲンは、『赤熱の轟天団』では、最古参だ。
付き合いが長いから、それなりに考えは推測できる。
「そういう別れの挨拶など、さして重要視されない方です。それより、やるべきことを優先せよ、という感じですな」
「合理的?」
「いえ。これが、国の貴族などなら、別だとは思うのですがね」
モリヒトは、ウェブルストにとって立場によらない友人だ。
「団長は、モリヒト殿が帰りたがっていることを知っていますからな。むしろ、挨拶程度のために、何日かかけて城へ来るようなことは望まんでしょう」
「大丈夫かね?」
「気になるなら、手紙の一つも残しておけばよいでしょう」
「・・・・・・そうか」
下手をすると、これで今生の別れになる可能性もある。
それについては、ユルゲンも理解しているだろうに。
「それに、そこまで急ぎでもない気もするんだけどなあ・・・・・・」
「いえ、急いだほうが良いと思います」
「む?」
ユルゲンは、難しい顔をして、周囲を見回す。
そこにいるのは、他の冒険者たちの野営地だ。
そして、声を潜める。
「地下にいた者達は、全滅したのですよね?」
「ああ。たぶんね」
「・・・・・・おそらくですが、今までにその地下が見つからなかったのは、その者達が隠ぺいを行っていたからでしょう」
「それが?」
「だとすれば、彼らの管理がなくなれば、いずれは見つかると思います。早ければ、明日にでも」
ユルゲンは、冒険者や研究者たちをなめるな、という。
探して見つからない、ということもないだろう。
今こそ、殺人事件が起こっていて、地下三階まではスルーしているが、いつまでも続くような状況ではない。
「皆様が目的を果たすところは、誰にも見られない方がよいことです。ならば、急がれた方がよいかと」
「・・・・・・そうか」
ユルゲンに促され、モリヒトは頷いた。
「じゃあ、手紙でも書いとくか」
「紙とペンを用意しましょう」
ふ、とユルゲンは笑った。
** ++ **
「・・・・・・手紙?」
「はい」
遺跡調査に出していた『赤熱の轟天団』メンバー。
遺跡の調査を目的としつつも、実際には、仕事を依頼したモリヒトの補助として送ったものだったが、それが不意に帰還した。
帰還したのは、メンバーのまとめ役であった、ユルゲン一人のみだったが。
「何か、あったのか?」
「は。報告いたします」
ユルゲンから、遺跡での出来事が報告される。
当初、モリヒト達の調査は順調に進んでいた。
その中で、探索を行っていた一団が、全滅する事件が発生する。
事件の犯人は、ミュグラ教団の生き残りであった。
「生き残りがいたか」
「魔獣を使って、何やら企んでいたようですな」
だが、それも、失敗。
「地下で、魔獣の暴走に巻き込まれ、ミュグラ教団は全滅したようです」
「ほう」
最近のミュグラ教団は、悪いことばかりしている。
それが全滅した、というニュースは、悪いことではない。
だが、
「ミュグラ教団は、遺跡の未探査地区に潜んでいたようです。それで、モリヒト殿は、その場所を発見された、と」
「・・・・・・大手柄、だな。報酬の準備がいるか」
「それなのですが・・・・・・」
ユルゲンは、わずかに言い淀んだ。
「その遺跡内部で、モリヒト殿は、ヴェルミオン大陸へと移動する手段w見つけたそうなのです」
「・・・・・・そんな手段が?」
「モリヒト殿が言うには、モリヒト殿にしか使えない手段、ということですが」
「そうか。簡単に行き来ができるなら、いろいろとできることも多そうなんだが・・・・・・」
「モリヒト殿の特異体質ありき、ということでした」
「・・・・・・それで、モリヒトは、帰ったのか」
「はい。地下遺跡への入り口が、他冒険者などに知られれば、帰還が難しくなる可能性もありましたから、帰還をお勧めしました」
「そうだな。それはよくやった。オレでも同じように言う」
ふむ、とうなづき、ウェブルストは、手紙を手にする。
「それで、手紙か」
「はい。挨拶できない不義理を気にしておられたので」
ユルゲンの報告を受け、ウェブルストは手紙を開いた。
「・・・・・・簡潔だな」
くく、とウェブルストは笑った。
手紙には、
「世話になった。またな」
それだけが書かれていた。
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