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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第9章:遺跡
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第46話:地下の秘密

「この遺跡の、存在意義がわからん」

 モリヒトがぽつ、と漏らした。

「あ? ベリガルのおっさんが言ってたやつじゃねえの? 地脈の魔力を溜めて、それでなんか利用する、とかなんとか」

 溜めて使う、というのは、納得できる話だ。

 この遺跡の全体図は、筒状の空間と、筒の内側にある複雑な回路構造の空間の組み合わせだ。

 多くの者が遺跡の地下部分、と思っている部分は、内側の空間のみだ。

 ただ、

「・・・・・・溜める、っていう割には、筒なんだよなあ」

 筒だから、両側が開いている。

 地脈から魔力を吸い上げたところで、その魔力は上に抜けて行ってしまう。

 溜められる魔力量には、限界があるように思う。

 そのあたり、よくわからないなあ、とモリヒトは思う。

 ともあれ、

「さらに下がある、と」

「もしかしたら、筒じゃなくて、片方にはふたがあるかもよ?」

 クリシャはそう言うが、モリヒトはううん、と首をひねる。

 モリヒトの感覚では、遺跡の中には、魔力の流れのようなものがある。

 魔力濃度が高いからわかりづらいが、ゆっくりと地下から地表へ向かって動いているのだ。

「たぶん、普通に魔力の流れがあると思う。だからこそ、魔力を溜めるっていうのが、なんともねえ・・・・・・」

 モリヒトは、ガレキの吹き飛んだあとを見る。

 床があるかと思ったが、そこには、穴があった。

「・・・・・・下っていっても、階段も何もないな」

「もともとは、ぼろい縄梯子がぶら下がってたぞ? 魔獣がこっからあふれたからな。たぶん千切れて落ちたんだろ」

 ミケイルは、腕を組んで、ふうん、と穴の底を覗き込んでいる。

「俺は、ここに魔獣の死体を投げ込んでた」

「この下に降りたことは?」

「ねえよ。一番臭いところだぞ? 肥溜めみたいなもんだ。誰が好き好んで」

 へ、と吐き捨てるようにミケイルは言った。

 確かに、周囲を見ると、薄く削れてはいるが、血の跡がいくらか残っている。

「・・・・・・降りるのきつそうね。足がかりが何もないわ」

 クルワも、穴を覗き込んで、顔をしかめている。

 穴の底は真っ暗で、ひょいと飛び降りて無事、とはいかなさそうだ。

 そこに何があるか分かったものじゃない。

「・・・・・・火を投げ込んでみようか?」

 ぼ、と手を平に火をともしたクルワにうなづくと、クルワはひょい、とその火の玉を投げ入れた。

 覗き込む。

 落ちた火の玉は、途中で何かに当たったように止まった。

「・・・・・・意外と浅いか?」

「でも、建物の二回分くらいはあるね。下手に着地すると、怪我くらいはするかも」

 ううん、とクリシャが首を傾げたところで、

「どいてろ」

 ひょい、とミケイルが飛び降りてしまった。

「・・・・・・ありゃ」

 下から、どしん、と着地する音がした。

「なんもねえぞ」

「・・・・・・ボクから行くよ」

 そして、クリシャが、ゆっくりと浮かびながら降りていく。

「うい」

 フェリも、それに続いて飛び降りた。

 こちらは、難なく着地したようだ。

「じゃ、次はアタシね」

 クルワも、またひょい、と降りてしまう。

 そして、降りた先で、火をともして、周りを明るくした。

「はい」

「はいじゃないが」

 明るくなって、底が見えるようになって、やはり深いというのがわかる。

 モリヒトの場合、ここから何も対策せずに飛び降りると、怪我をしそうだ。

 ううむ、とうなって、

「受け止めるから、さっさと降りといで」

 クリシャに促され、むう、とうなりつつも、ひょい、と飛び降りた。

 そのまま、クルワが受け止めるか、と思いきや、クリシャが杖を一振り。

 着地直前に、ふわ、とモリヒトの体が浮かび、ゆっくりと着地した。

「おう。助かった」

「気にしなくていいよ」

 ふふ、とクリシャは笑い、さらに杖を一振り。

「・・・・・・広いな」

「それに、通路じゃないね」

 広い空間で、ところどころに柱がある。

 柱は太く、それによって何か所も影がある。

「・・・・・・でも、妙にきれいな空間だな」

 匂いはこもっている。

 柱によって、妙に狭苦しい印象を受けるものの、よくよく見ると、奥行きは広い。

 ただ、明りがそれほど遠くまで照らしてはいないため、どうにも不気味である。

「・・・・・・さて、どうしたものか」

 どちらへ行こうか、と考えるが、

「・・・・・・ん?」

 あれ、とモリヒトは周囲を見回す。

「どうしたんだい?」

「ん? いや、なんだろうか」

 モリヒトは首を傾げる。

 周辺をゆっくりと見回してみると、違和感がある。

 んん? と首を傾げる。

「ちょいっと待て」

 モリヒトは、あちら、こちら、と視線を飛ばし、それからフェリを見る。

「フェリ。あっちに、なんかないか?」

「なんもない」

「じゃあ、こっちは?」

「なんもない」

「だよな」

「・・・・・・何を確認しているんだい?」

「ああ。ここ、なんか変でさあ」

 ふむ、と考える。

 そして、

「クルワ。ちょっと」

 手を伸ばしたモリヒトを見て、クルワは無言でウェキアスの形に変わり、その手の中に収まった。

「ちょっと、見てろよ?」

 ぐ、と構えて、

「―クルワ―

 巻き起こせ/埋めつくせ/焼き尽くせ」

 湧きあがったのは炎だ。

 構えから、剣を振った。

 瞬間、剣を振った方向へ、大規模な炎が起きる。

 空気を熱し、周辺を明るくしながら、視界全体を埋め尽くすようなそれは、遠くへと伸びていく。

「・・・・・・熱いねえ」

「ちょっと待ってろ。もう少しでわかる」

 炎の波となったそれは、舐めるように動き、地下空間の一帯を進んでいく。

「・・・・・・よし」

「何をしたんだい?」

 クルワをアートリアの形に戻し、周囲を見る。

 クルワの炎は、魔力を焼いて熱に変える。

 つまり、炎となって熱を生んでいる今の状態なら、この空間の魔力は減っていくことになる。

 そうなると、

「あ・・・・・・」

 クルワでも感じ取れたらしい。

「魔力の流れが・・・・・・」

 魔力がなくなれば、そこには魔力が流れ込む。

 だが、その流れ方がおかしいのだ。

「・・・・・・あっちだ」

「なんでわかるんだ?」

「ここは、地脈の上だ。だったら、魔力の流れは下から上と上から下の二つ。それも、この地下空間全体であるはず」

 だが、

「あっち方向だけ、魔力の流れが滞っている場所がある」

「・・・・・・なんだそりゃ?」

「溜まってた時点でおかしいんだ。ここは、地脈の上なんだから」

 通常、地脈、というのは、魔力を放出すると同時に、その流れの中に周辺の魔力を引き込むものだ。

 だが、この遺跡は、魔力を溜める性質がある。

 当たり前な話なのだが、人間界にある物質で、魔力の流れを阻害できる物質は存在しない。

 つまり、地脈の上にあるなら、いやがおうにも魔力の流れが生まれる。

 だが、今、この地下空間では、上から下への流れしかない。

 しかも、下へと来た魔力は不思議な話だが、横方向へと流れていく。

 まるで、地下空間の床が、魔力を通さない素材となっているかのように。

 そして、魔力がなくなれば、その気配ははっきりと感じ取れた。

 その気配は、昔、感じたことのある。

「・・・・・・なんでだ? ここは、大陸の上だぞ」

 むう、とモリヒトは唸る。

 だが、わかる。

「なんでこんなところに、界境域が存在するんだ?」

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


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