第46話:地下の秘密
「この遺跡の、存在意義がわからん」
モリヒトがぽつ、と漏らした。
「あ? ベリガルのおっさんが言ってたやつじゃねえの? 地脈の魔力を溜めて、それでなんか利用する、とかなんとか」
溜めて使う、というのは、納得できる話だ。
この遺跡の全体図は、筒状の空間と、筒の内側にある複雑な回路構造の空間の組み合わせだ。
多くの者が遺跡の地下部分、と思っている部分は、内側の空間のみだ。
ただ、
「・・・・・・溜める、っていう割には、筒なんだよなあ」
筒だから、両側が開いている。
地脈から魔力を吸い上げたところで、その魔力は上に抜けて行ってしまう。
溜められる魔力量には、限界があるように思う。
そのあたり、よくわからないなあ、とモリヒトは思う。
ともあれ、
「さらに下がある、と」
「もしかしたら、筒じゃなくて、片方にはふたがあるかもよ?」
クリシャはそう言うが、モリヒトはううん、と首をひねる。
モリヒトの感覚では、遺跡の中には、魔力の流れのようなものがある。
魔力濃度が高いからわかりづらいが、ゆっくりと地下から地表へ向かって動いているのだ。
「たぶん、普通に魔力の流れがあると思う。だからこそ、魔力を溜めるっていうのが、なんともねえ・・・・・・」
モリヒトは、ガレキの吹き飛んだあとを見る。
床があるかと思ったが、そこには、穴があった。
「・・・・・・下っていっても、階段も何もないな」
「もともとは、ぼろい縄梯子がぶら下がってたぞ? 魔獣がこっからあふれたからな。たぶん千切れて落ちたんだろ」
ミケイルは、腕を組んで、ふうん、と穴の底を覗き込んでいる。
「俺は、ここに魔獣の死体を投げ込んでた」
「この下に降りたことは?」
「ねえよ。一番臭いところだぞ? 肥溜めみたいなもんだ。誰が好き好んで」
へ、と吐き捨てるようにミケイルは言った。
確かに、周囲を見ると、薄く削れてはいるが、血の跡がいくらか残っている。
「・・・・・・降りるのきつそうね。足がかりが何もないわ」
クルワも、穴を覗き込んで、顔をしかめている。
穴の底は真っ暗で、ひょいと飛び降りて無事、とはいかなさそうだ。
そこに何があるか分かったものじゃない。
「・・・・・・火を投げ込んでみようか?」
ぼ、と手を平に火をともしたクルワにうなづくと、クルワはひょい、とその火の玉を投げ入れた。
覗き込む。
落ちた火の玉は、途中で何かに当たったように止まった。
「・・・・・・意外と浅いか?」
「でも、建物の二回分くらいはあるね。下手に着地すると、怪我くらいはするかも」
ううん、とクリシャが首を傾げたところで、
「どいてろ」
ひょい、とミケイルが飛び降りてしまった。
「・・・・・・ありゃ」
下から、どしん、と着地する音がした。
「なんもねえぞ」
「・・・・・・ボクから行くよ」
そして、クリシャが、ゆっくりと浮かびながら降りていく。
「うい」
フェリも、それに続いて飛び降りた。
こちらは、難なく着地したようだ。
「じゃ、次はアタシね」
クルワも、またひょい、と降りてしまう。
そして、降りた先で、火をともして、周りを明るくした。
「はい」
「はいじゃないが」
明るくなって、底が見えるようになって、やはり深いというのがわかる。
モリヒトの場合、ここから何も対策せずに飛び降りると、怪我をしそうだ。
ううむ、とうなって、
「受け止めるから、さっさと降りといで」
クリシャに促され、むう、とうなりつつも、ひょい、と飛び降りた。
そのまま、クルワが受け止めるか、と思いきや、クリシャが杖を一振り。
着地直前に、ふわ、とモリヒトの体が浮かび、ゆっくりと着地した。
「おう。助かった」
「気にしなくていいよ」
ふふ、とクリシャは笑い、さらに杖を一振り。
「・・・・・・広いな」
「それに、通路じゃないね」
広い空間で、ところどころに柱がある。
柱は太く、それによって何か所も影がある。
「・・・・・・でも、妙にきれいな空間だな」
匂いはこもっている。
柱によって、妙に狭苦しい印象を受けるものの、よくよく見ると、奥行きは広い。
ただ、明りがそれほど遠くまで照らしてはいないため、どうにも不気味である。
「・・・・・・さて、どうしたものか」
どちらへ行こうか、と考えるが、
「・・・・・・ん?」
あれ、とモリヒトは周囲を見回す。
「どうしたんだい?」
「ん? いや、なんだろうか」
モリヒトは首を傾げる。
周辺をゆっくりと見回してみると、違和感がある。
んん? と首を傾げる。
「ちょいっと待て」
モリヒトは、あちら、こちら、と視線を飛ばし、それからフェリを見る。
「フェリ。あっちに、なんかないか?」
「なんもない」
「じゃあ、こっちは?」
「なんもない」
「だよな」
「・・・・・・何を確認しているんだい?」
「ああ。ここ、なんか変でさあ」
ふむ、と考える。
そして、
「クルワ。ちょっと」
手を伸ばしたモリヒトを見て、クルワは無言でウェキアスの形に変わり、その手の中に収まった。
「ちょっと、見てろよ?」
ぐ、と構えて、
「―クルワ―
巻き起こせ/埋めつくせ/焼き尽くせ」
湧きあがったのは炎だ。
構えから、剣を振った。
瞬間、剣を振った方向へ、大規模な炎が起きる。
空気を熱し、周辺を明るくしながら、視界全体を埋め尽くすようなそれは、遠くへと伸びていく。
「・・・・・・熱いねえ」
「ちょっと待ってろ。もう少しでわかる」
炎の波となったそれは、舐めるように動き、地下空間の一帯を進んでいく。
「・・・・・・よし」
「何をしたんだい?」
クルワをアートリアの形に戻し、周囲を見る。
クルワの炎は、魔力を焼いて熱に変える。
つまり、炎となって熱を生んでいる今の状態なら、この空間の魔力は減っていくことになる。
そうなると、
「あ・・・・・・」
クルワでも感じ取れたらしい。
「魔力の流れが・・・・・・」
魔力がなくなれば、そこには魔力が流れ込む。
だが、その流れ方がおかしいのだ。
「・・・・・・あっちだ」
「なんでわかるんだ?」
「ここは、地脈の上だ。だったら、魔力の流れは下から上と上から下の二つ。それも、この地下空間全体であるはず」
だが、
「あっち方向だけ、魔力の流れが滞っている場所がある」
「・・・・・・なんだそりゃ?」
「溜まってた時点でおかしいんだ。ここは、地脈の上なんだから」
通常、地脈、というのは、魔力を放出すると同時に、その流れの中に周辺の魔力を引き込むものだ。
だが、この遺跡は、魔力を溜める性質がある。
当たり前な話なのだが、人間界にある物質で、魔力の流れを阻害できる物質は存在しない。
つまり、地脈の上にあるなら、いやがおうにも魔力の流れが生まれる。
だが、今、この地下空間では、上から下への流れしかない。
しかも、下へと来た魔力は不思議な話だが、横方向へと流れていく。
まるで、地下空間の床が、魔力を通さない素材となっているかのように。
そして、魔力がなくなれば、その気配ははっきりと感じ取れた。
その気配は、昔、感じたことのある。
「・・・・・・なんでだ? ここは、大陸の上だぞ」
むう、とモリヒトは唸る。
だが、わかる。
「なんでこんなところに、界境域が存在するんだ?」
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