第43話:ミケイルと仲間割れ
どん、ごん、がごん、ずどん、となんとも騒がしい打撃音が響いている。
その中に、炎の燃える音や、風がはじける音が混じる。
「・・・・・・状況が不明だなあ」
正直、あんまり近づきたくはない、とは思いつつも、状況を調べるためには、いかないといけないだろう。
面倒なことだ、と思いつつも、モリヒトが進んでいく。
「あ、いた」
周囲は、平坦な地形で、時折あるドーム状の建物以外には、身を隠せる場所がない。
強いて言うなら、中央部の壁沿いに歩くのがいいだろう。
とりあえず、警戒をしながら進むモリヒト達は、行く先に騒ぎの元凶を見つけた。
「あ、いた」
そこには、確かにミケイルがいた。
いつも通りの、三色の色が混じった白髪。
そこに長身で鍛えられつつも引き締まった体。
上半身はタンクトップだし、下はニッカポッカだろうか。
どちらもわりとだるだるに伸びていて、土木工事のアンちゃんかよ、というような服装で、腰回りになんとも太く目立つベルトをしていた。
とはいえ、ミケイルは軽やかに動いている。
踏み込みから一瞬で敵との距離を詰め、拳を振り抜いた。
やはり、その拳は、素だ。
足もサンダルだけで、武装の類は見えない。
だが、その拳は鋭く走り、敵を貫いた。
「・・・・・・ふむ」
貫いたその背の側から、はじけるように赤黒いものが大きく飛び散る。
「血肉ぶしゃー」
「どっちかっていうとばーん、だな」
フェリの擬音混じりの感想に、ちょっと現実逃避気味にモリヒトは返した。
とはいえ、そうしたくなるのも無理はないだろう。
ミケイルが戦っている相手は、人間だった。
魔獣は周囲に屍をさらすばかりで、今動いているのは人間ばかりだ。
「あ」
モリヒトが見ている先で、またミケイルが人間を蹴り飛ばした。
首を蹴られた人間は、そのまま首が折れて、引きちぎれる。
「ぱわあー」
大した威力だな、と思いつつも、状況を見定めようとする。
ミケイルが戦っている相手は、
「・・・・・・あれ、ミュグラ教団の生き残りか?」
「なんだか。それっぽいね。囲まれているし、結構生き残りがいたのかな?」
「もしくは、山で死んだ奴らとは別勢力だったのか?」
とにかく、結構な数がいるようだ。
そして、なぜかそれらとミケイルが戦っている。
「なんで戦っているんだ?」
「よくわからないけど、どっちに味方するんだい?」
「まだ話が通じる方」
「じゃあ、ミケイルだね」
クリシャの言う通りだ、とモリヒトは、ミケイルの方へと加勢することにした。
敵は、それなりの人数がいる。
ミケイルが半分程度減らしたようだが、それでもまだ残りで十人ほどだ。
「手っ取り早く。とはいっても、俺は対人戦は苦手だが」
モリヒトは弱音ともつかないセリフを言いながら、剣を構えた。
「クルワ。任せてもいいか?」
「・・・・・・殺さない方がいい?」
「無力化を優先だよ。生かしておく限り向かってくるなら、もうどうしようもないしな」
ミュグラ教団の団員が、多少痛めつけた程度であきらめるとは思えない。
実際、ミケイルと戦っているさまを見ても、怪我をしたところで気にせず向かっていくものは多い。
そうしたところで、ミケイルは気にすることなく屠っているが。
「下手に殺さないようにしようとしても、足元をすくわれかねない。殺す気でいこう」
「そうだね。こっちのほうが人数が少ないし、下手な情けは命取りになりかねない」
「わかったわ」
言って、クルワが飛び込んでいった。
モリヒトは、発動体の剣であるゼイゲンを抜いて、
「・・・・・・巻き込み怖いし、雷で制御するか」
詠唱を始めた。
** ++ **
「よう。元気そうだな」
ミュグラ教団を全滅させた後、ミケイルが返り血で真っ赤になりながらも、快活に手を挙げている。
「はあ・・・・・・」
ため息を一つ吐いて、モリヒトは、魔術で湯を出してミケイルにぶっかける。
「おっと、すまんな」
ざばざばとあふれる湯で血を洗い流しながら、ミケイルは笑った。
モリヒトは、周囲を見回し、
「仲間じゃなかったのか?」
あちらこちらに散らばった死体を見て、首を傾げる。
人の死体のはずだが、もう慣れたか、それhどお何も感じない。
ここに来るまでに、何か所かで見ているからかもしれないが。
「俺が、ここを抜けようとしているのを察知したみたいでな」
ふん、とミケイルは、鼻で笑った。
「俺は、別にこいつらにやとわれているわけではねえってのに、何を誤解してんだか」
どうやら、ミケイルは、内通して敵に売るつもりだ、と誤解されたらしい。
それで、魔獣の暴走と合わせて、この機会に処分しよう、と狙われたようだ。
「・・・・・・結局、これで全滅か」
「そうなるな。俺が魔獣の死体を運び込んでたところも、魔獣が触れて吹っ飛んだしな」
「・・・・・・ああ、あの一番壊れてたところか」
「そうそう」
だとすると、
「やっぱ、あそこを調べる必要があるかねえ」
「何か知りたいことがあるなら、まあ、必要だな」
「はあ、掘り起こすの面倒くせえな」
やれやれ、と肩をすくめる。
そのあとで、ふと思いついた。
「そういやさ」
「うん? なんだ?」
モリヒトがミケイルと見ると、ミケイルは首を傾げた。
モリヒトは、気になっていたことを聞く。
「お前、相方はどうしたんだ?」
「・・・・・・ちょっとな」
妙な事に、ミケイルが言い淀む、という珍しい光景を見た。
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