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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第9章:遺跡
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第42話:『火蛾美影夢郭』

「クルワ君の、ウェキアス状態は、なんだかんだでボク初めて見たね」

「・・・・・・そうだっけ?」

 前にバンダッタと戦ったときが初めてで、以降は使っていなかったから、確かに初めてかもしれない。

 『火蛾美影(かがみかげ)夢郭(ゆめくるわ)』。

 炎に強い適性を持つ双剣型の発動体、『レッドジャック』に女神の種が融合して生まれたウェキアスだ。

 本来ならば、という但し書きはつくが。

「どういうこと?」

「あの時は、介入されたっぽいから?」

 疑問形ではある。

 正直なところ、モリヒト自身にもまだよくわかっていないことだ。

 モリヒトが知る、自分のウェキアスは、『花香水景(かがみかげ)蓮花(はすはな)』と『火蛾美影夢郭』の二種類だ。

 クルワは、『火蛾美影夢郭』から現れたアートリアだ。

 モリヒトが初めてウェキアスを手にしたのは、『花香水景蓮花』だった。

 セイヴに『レッドジャック』ごと斬られたときに現れた女神の種を、『レッドジャック』に融合した結果出て来たものだ。

 だが、女神の種が融合した元の武器が、炎に強い適性を持つ『レッドジャック』であった以上、本来あの場面で出るべきウェキアスは、『火蛾美影夢郭』の方である。

 だが、あの時は、『花香水景蓮花』が現れ、ミカゲが来た。

「・・・・・・外からの介入だよなあ・・・・・・」

「あれでよかったのよ」

 ぼんやりとつぶやいたところに、クルワが反応した。

 前を警戒するクルワは、モリヒトの方には視線を向けていない。

 ただ、わずかに硬くなった気がする声で、クルワは告げた。

「あの時、使われたのが『火蛾美影夢郭』の方だったら、モリヒトが対抗することはできなかった」

 生まれたばかりのアートリア、というだけではない。

 あの時対峙していたのは、セイヴだ。

 『炎に覇を成す皇剣』のウェキアスを持つセイヴは、はるかに優れた炎使いだ。

「アタシの力だと、たぶん、丸ごと飲み込まれてたと思う」

「セイヴ君の銀炎か。あれは、炎に巻き込んだものをすべて灰に変えてしまうからなあ・・・・・・」

「ああ、そうか。クルワの炎も、あれに巻き込まれると灰になるか・・・・・・」

 クリシャもセイヴの銀炎の性質は、知っているのだろう。

 オルクトの皇帝の血筋が持つ性質らしいから、有名なのだろうが。

「そういう意味で言うと、『火蛾美影夢郭』の能力って?」

「魔力を熱量へ変換すること。それから、熱量を魔力に変換すること。・・・・・・ロスなしでそれをやるとか、永久機関が作れるなあ」

 ははは、とモリヒトは笑う。

 魔力を注げば注ぐほどに、炎が大きく膨れ上がる。

「それって、魔術で炎を作るのとは違うのかい?」

 クリシャは、首を傾げた。

 確かに、魔術で炎を出し、なにかを加熱することは可能だ。

 だが、それはこの世界で生きているクリシャだから、気づかないことだろう。

「・・・・・・魔術では、厳密な意味で熱量は作れない」

 魔力そのものを、別のエネルギーに変換することは、厳密な意味ではできない。

 炎は生み出せても、魔術で生み出した炎は、あくまでも術者が炎としてイメージした魔術現象でしかない。

 だから、魔術による炎には、延焼、という事象が発生しない。

 燃え続けるイメージを持たなければ、魔力の供給が途絶えた瞬間に、魔術の炎は消えてしまうし、余熱自体が発生しない。

 もっとも、大概の場合、術者の無意識的なイメージによって、魔術の炎は、燃やしたものを『燃えている状態』へと変えるため、そこで物理的な炎が発生しる。

 だが、『火蛾美影夢郭』の炎は、違う。

 魔力を熱量へと変換して発生する炎は、自然現象、物理現象として発生している炎だ。

 だから、余熱も発生する。

「へえ、そうなってるんだ」

「クリシャでも知らんか」

「そこまではね。ボクも、魔術研究家ってわけでもないし」

 ベリガルとかなら、知ってるかもねえ、とクリシャは言うが、あれと意見交換なんて、冗談ではない。

「『火蛾美影夢郭』の炎は、魔力を燃やすから、極論、この世界で生きている生物なら全部燃やせる」

「それは怖い」

「とはいえ、セイヴの炎とぶつけた場合は、たぶん熟練度の差で、押し負けるだろうなあ・・・・・・」

「ふうん・・・・・・」

 クリシャは、しばらく考えて、

「じゃあ、あの時に出て来た、もう一つのウェキアスは・・・・・・」

「『花香水景蓮花』。水と蓮のウェキアス。・・・・・・あれは、俺の魔力吸収の拡大能力だから、魔力を再現なく吸収するんだよ。なにかを発生させるんじゃなく、奪う性質だから、まあ、セイヴの炎にも有効」

「じゃなくて、あれとクルワ君と、二つ持っている理由は?」

「・・・・・・わからん」

 ヒントらしいものはもらった気がする。

 昔から、『花香水景蓮花』は、モリヒトのウェキアスだった、とか、そんなことを言っていた覚えもある。

 だが、モリヒトの方では、あの時のあれこそが『花香水景蓮花』の初見だ。

「いつか、もう一度会えれば、ミカゲから聞けるかもしれないが・・・・・・」

「・・・・・・」

「ん? どうした? クルワ」

 前を歩いていたクルワが、ちら、とモリヒトを振り返っている。

 何か言いたげなその顔を見て、モリヒトは首を傾げた。

「・・・・・・アタシも、一応ミカゲなのよね」

 同一の存在ということか、とちょっと悩んでから、ああ、と思い至る。

「確かに、両方ともミカゲだし、あっちを呼ぶなら、蓮花・・・・・・、レンカとでも呼ぶべきかな?」

「それでいい」

 うん、とクルワは頷いて、また前を向いた。

 ほんの少し、歩調が跳ねるような勢いに変わったように感じて、モリヒトは苦笑した。

「・・・・・・モリヒト」

「ん?」

「あっちが、騒がしいわ」

「・・・・・・確かに」

 クルワが指さした方向から、なにか衝撃音のようなものが聞こえる。

「魔獣と戦ってるのかもしれん。急ごう」

「そうだね!」


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