第39話:魔獣の暴走
向かってくる魔獣は、巨大な獅子か虎か、ともあれ、猫科の猛獣に見えた。
ただ、
「でかいな」
「地下七階以下、と考えても、少々大きいかも」
その大きさは、人間を見下ろせる程度だ。
体の色が、暗い血のような赤紫。
前足は太いが、後ろが細い。
妙にアンバランスな形をしている。
「気色悪いな」
「『瘤』の魔獣だね」
「あれだけでかいと、金になる石くらいはもってそうな・・・・・・」
言っている間に、突進してきた。
「仕方ない。クルワ」
「ええ!」
だっと駆け出したクルワは、剣を抜いて、魔獣の足を斬り付け、そのまま走り抜けた。
足元を斬り付けられて、一瞬ひるんだ魔獣は、そのままクルワへと向き直り、追い始める。
魔獣は、素早い動きで、クルワを捕らえようと前足を振り下ろしている。
それをひょいひょいとよけながら、クルワはモリヒト達から魔獣が離れるように誘導していく。
その間に、モリヒトが魔術を詠唱する。
使う魔術は、炎の魔術で、攻撃力重視。
「・・・・・・ああ、気づかれても遅いんだよなあ」
魔術によって放たれた、炎の槍の一撃が、魔獣の胴体へと突き刺さった。
「・・・・・・当たれ」
それは、内側から焼き尽くし、そのまま倒してしまう。
「・・・・・・あれ?」
自分の魔術が起こした結果だというのに、モリヒトは首を傾げた。
魔術は、魔力の高い対象、というのは、基本的に魔術に耐性がある。
モリヒトは体質があるから、魔術そのものが効きにくいが、そもそも魔力が高いだけで、大概の魔術は弾けてしまう。
小型の魔獣や、弱い魔獣ならともかく、『瘤』から生まれるような魔獣は、その組成に多量の魔力を含んでいる。
だから魔獣というものは、全体的に性質として、魔術にある程度強い。
だというのに、それほど詠唱を長くしたわけでもない、割と威力はそこそこ程度の魔術で、一撃で倒してしまっている。
「なんか弱いな・・・・・・」
モリヒトとしては、せいぜいでけん制程度のつもりだった。
多少のダメージはあるだろうが、それで仕留めるほどではなく、トドメはクルワに任せようと思っていたのだ。
「魔獣、だったのかしら?」
戻ってきたクルワも、自分の握る剣を見つめて、首を傾げている。
「手ごたえが軽いわ」
「そっちもか。・・・・・・となると、本当に弱い、ということか・・・・・・?」
うーん、と悩んでみるが、答えが見つかるわけでもなく、
「まあ、あとで考えよう。それより、この状況だな」
「うん。・・・・・・ミケイルは、どこにいるのかな?」
クリシャのいう通り、ミケイルの姿は見えず。
「なんか、あっちの方が騒がしい。あっちじゃないかな」
そんな適当な感覚で、モリヒトは行く方向を決めた。
** ++ **
ミケイルは、走っていた。
遺跡地下部。
その周囲を覆うような、円筒状の空間。
その広い空間には、何か所かに円形のドームのような空間がある。
その中の一か所だ。
そこに、ミュグラ教団の生き残りたちは、儀式に挑んでいた。
儀式のため、魔獣の死体を集める日々だったが、それも今日は休みだ。
なんでも、儀式が佳境に差し掛かったらしく、追加はいらない、と言われた。
「・・・・・・暇だ」
やることがないな、とミケイルはぼやく。
かといって、儀式を手伝おう、という気はしない。
生き残ったミュグラ教団は、ミケイルをあまり信用していない。
敵視、とまではいかずとも、裏切りを警戒ぐらいはされている。
だから、下手に動くと、余計に面倒なことになる。
まあ、実際、昨日モリヒト達にいろいろ情報をやったわけだし、まるきり的外れ、とは言えないが。
「別に、味方のつもりはないしな」
ミケイルにとっては、あくまでもベリガルが雇い主、という感覚だ。
だから、もしベリガルが、ここにいるミュグラ教団を殲滅しろ、と命令をしてきたら、たいして迷うこともなくやるだろう。
とはいえ、敵対はしていない以上は、あえてこちらからケンカを吹っ掛けるほどでもない。
戦闘員が残っていない相手を、あえて蹂躙する趣味もない。
だから、ごろりと適当な場所に転がって、のんびりとしていたところだった。
儀式を行っているドームからは、離れた場所だ。
何もないのをいいことに、あえて広々とした場所にごろりと寝転がっている。
地下空間のこもった空気だ。
落ち着く、とはいいがたいが、休む分には、それほど気にもならない。
そうしていたミケイルが、異常を察したのは、儀式が始まってから、しばらくしてからだった。
妙に騒がしい、と身を起こしてみれば、いきなりそれは始まった。
儀式を行っていたはずのドームの屋根がいきなり、爆散した。
内側から、圧力に負けて破れたような壊れ方。
そして、その下から、多数の魔獣があふれてきたのだ。
「・・・・・・なあにをやってんだかな。あいつらは・・・・・・」
はあ、とミケイルはため息を吐いた。
こういう状況になる、とは、ベリガルからは言われていない。
そういう意味では、ベリガルの想定外のことが起こっているのだろうが、
「考えている暇はない、と」
多数の魔獣が現れ、そして、近くにいるミケイルへと襲い掛かってきた。
「まあ、退屈しのぎにはなるか」
ふん、とかるく笑いながら、ミケイルは拳を固めるのであった。
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