表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第9章:遺跡
381/436

第39話:魔獣の暴走

 向かってくる魔獣は、巨大な獅子か虎か、ともあれ、猫科の猛獣に見えた。

 ただ、

「でかいな」

「地下七階以下、と考えても、少々大きいかも」

 その大きさは、人間を見下ろせる程度だ。

 体の色が、暗い血のような赤紫。

 前足は太いが、後ろが細い。

 妙にアンバランスな形をしている。

「気色悪いな」

「『瘤』の魔獣だね」

「あれだけでかいと、金になる石くらいはもってそうな・・・・・・」

 言っている間に、突進してきた。

「仕方ない。クルワ」

「ええ!」

 だっと駆け出したクルワは、剣を抜いて、魔獣の足を斬り付け、そのまま走り抜けた。

 足元を斬り付けられて、一瞬ひるんだ魔獣は、そのままクルワへと向き直り、追い始める。

 魔獣は、素早い動きで、クルワを捕らえようと前足を振り下ろしている。

 それをひょいひょいとよけながら、クルワはモリヒト達から魔獣が離れるように誘導していく。

 その間に、モリヒトが魔術を詠唱する。

 使う魔術は、炎の魔術で、攻撃力重視。

「・・・・・・ああ、気づかれても遅いんだよなあ」

 魔術によって放たれた、炎の槍の一撃が、魔獣の胴体へと突き刺さった。

「・・・・・・当たれ」

 それは、内側から焼き尽くし、そのまま倒してしまう。

「・・・・・・あれ?」

 自分の魔術が起こした結果だというのに、モリヒトは首を傾げた。

 魔術は、魔力の高い対象、というのは、基本的に魔術に耐性がある。

 モリヒトは体質があるから、魔術そのものが効きにくいが、そもそも魔力が高いだけで、大概の魔術は弾けてしまう。

 小型の魔獣や、弱い魔獣ならともかく、『瘤』から生まれるような魔獣は、その組成に多量の魔力を含んでいる。

 だから魔獣というものは、全体的に性質として、魔術にある程度強い。

 だというのに、それほど詠唱を長くしたわけでもない、割と威力はそこそこ程度の魔術で、一撃で倒してしまっている。

「なんか弱いな・・・・・・」

 モリヒトとしては、せいぜいでけん制程度のつもりだった。

 多少のダメージはあるだろうが、それで仕留めるほどではなく、トドメはクルワに任せようと思っていたのだ。

「魔獣、だったのかしら?」

 戻ってきたクルワも、自分の握る剣を見つめて、首を傾げている。

「手ごたえが軽いわ」

「そっちもか。・・・・・・となると、本当に弱い、ということか・・・・・・?」

 うーん、と悩んでみるが、答えが見つかるわけでもなく、

「まあ、あとで考えよう。それより、この状況だな」

「うん。・・・・・・ミケイルは、どこにいるのかな?」

 クリシャのいう通り、ミケイルの姿は見えず。

「なんか、あっちの方が騒がしい。あっちじゃないかな」

 そんな適当な感覚で、モリヒトは行く方向を決めた。


** ++ **


 ミケイルは、走っていた。

 遺跡地下部。

 その周囲を覆うような、円筒状の空間。

 その広い空間には、何か所かに円形のドームのような空間がある。

 その中の一か所だ。

 そこに、ミュグラ教団の生き残りたちは、儀式に挑んでいた。

 儀式のため、魔獣の死体を集める日々だったが、それも今日は休みだ。

 なんでも、儀式が佳境に差し掛かったらしく、追加はいらない、と言われた。

「・・・・・・暇だ」

 やることがないな、とミケイルはぼやく。

 かといって、儀式を手伝おう、という気はしない。

 生き残ったミュグラ教団は、ミケイルをあまり信用していない。

 敵視、とまではいかずとも、裏切りを警戒ぐらいはされている。

 だから、下手に動くと、余計に面倒なことになる。

 まあ、実際、昨日モリヒト達にいろいろ情報をやったわけだし、まるきり的外れ、とは言えないが。

「別に、味方のつもりはないしな」

 ミケイルにとっては、あくまでもベリガルが雇い主、という感覚だ。

 だから、もしベリガルが、ここにいるミュグラ教団を殲滅しろ、と命令をしてきたら、たいして迷うこともなくやるだろう。

 とはいえ、敵対はしていない以上は、あえてこちらからケンカを吹っ掛けるほどでもない。

 戦闘員が残っていない相手を、あえて蹂躙する趣味もない。

 だから、ごろりと適当な場所に転がって、のんびりとしていたところだった。

 儀式を行っているドームからは、離れた場所だ。

 何もないのをいいことに、あえて広々とした場所にごろりと寝転がっている。

 地下空間のこもった空気だ。

 落ち着く、とはいいがたいが、休む分には、それほど気にもならない。

 そうしていたミケイルが、異常を察したのは、儀式が始まってから、しばらくしてからだった。

 妙に騒がしい、と身を起こしてみれば、いきなりそれは始まった。

 儀式を行っていたはずのドームの屋根がいきなり、爆散した。

 内側から、圧力に負けて破れたような壊れ方。

 そして、その下から、多数の魔獣があふれてきたのだ。

「・・・・・・なあにをやってんだかな。あいつらは・・・・・・」

 はあ、とミケイルはため息を吐いた。

 こういう状況になる、とは、ベリガルからは言われていない。

 そういう意味では、ベリガルの想定外のことが起こっているのだろうが、

「考えている暇はない、と」

 多数の魔獣が現れ、そして、近くにいるミケイルへと襲い掛かってきた。

「まあ、退屈しのぎにはなるか」

 ふん、とかるく笑いながら、ミケイルは拳を固めるのであった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別のも書いてます

DE&FP&MA⇒MS

https://ncode.syosetu.com/n1890if/


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ