第34話:円筒の空間
「さあて? あいつら、うまくやってるかね?」
ウェブルストが、書類を処理しながら、首を傾げた。
「モリヒトさんたちですか?」
「ああ。仕事は任せたが、うまくいっているかどうか」
「いくらなんでも、それほど進捗はないのでは?」
仕事を手伝っているリーレイアは、とんとん、と書類の端を整えつつ、ウェブルストに答えた。
「今までに、何年もかけても、それほど成果は上がらなかった仕事でしょう?」
「まあ、そうだけどな。とはいえ、現状を考えると、なにかが起こる、というより、起こっている可能性は高い」
「・・・・・・そうですか?」
「ああ。遺跡で、事件が起こっている、という報告もあってな」
「・・・・・・危険とわかっていて、送ったのですか?」
ちょっと批難が混じった視線を向けられ、ウェブルストは肩をすくめた。
クリシャやクルワがついているし、モリヒトも決して油断できる使い手ではない。
モリヒトは、基本的に戦力は未熟ではあるが、場合によっては、誰にでも通じる一撃を発するポテンシャルを持っている、と思っている。
それは、かなり尖ったものではあるだろうが、秀でた一芸があり、それを利用できる頭もある以上は、決して弱者ではない。
「この大陸にはない考えを持つ者達だ。何か、見つけてくれるんじゃないか、と」
「そう、狙い通りに行くといいんですけれど」
うーん、とリーレイアは頬に手を当て、うなっている。
だが、ウェブルストは、それほど悪いことにはならない、と思っている。
「大丈夫だろうよ。モリヒトは、そこまで勤勉じゃないだろうしな」
「ええ・・・・・・」
真面目じゃない、という評価を下すのを聞いて、リーレイアは顔をしかめた。
ウェブルストは、ふいー、と肩をもんだ。
「いい力の抜き方を知っているやつだ。無理はせんだろうさ」
ははは、と笑いつつ、席を立つ。
「こちらも、いい力の抜き方をするころあいだと思わないか?」
「・・・・・・さぼりたいだけじゃないですか?」
「いいや? なんだかんだで、朝からずっとだ。ちょっと休憩しようじゃないか」
なあ、とウェブルストは、部屋に控えていた侍女たちに、茶の用意をするように命令を出した。
その様を見て、はあ、とリーレイアはため息を吐く。
「その、モリヒトさんたちのための書類も、大分含まれていますよ?」
迎えにくるであろう、オルクトの飛空艇を迎えるための準備だ。
事前の約束は取れたとはいえ、一国と一国のやり取りだ。
その間には、様々な事務手続きがある。
モリヒトの迎えに来る飛空艇の件は、ほぼウェブルストの独断だ。
それだけに、それらの処理は全部、ウェブルストの仕事になっている。
その書類が膨大なことになっているわけだが、ウェブルストとしては、手は抜けない。
「・・・・・・今回だけじゃなく、今後のことについても、全部オレの仕事になってないか?」
「そりゃあ、次の王はあなたなのですから。これから少しずつ、仕事は増えると思いますよ?」
「だろう? だから、今のうちに、休憩できるときに休憩しようじゃあないか」
にや、と笑ったウェブルストに、リーレイアは、仕方のない人ですね、と苦笑を返すのだった。
** ++ **
奇妙に広大さを感じる空間だった。
明りと明りの間にある、暗闇の死角に開いた通路の入り口。
その入り口をくぐると、すぐに壁に行き当たる。
左右へと分かれ道があり、そこをしばらく進むと、今度は逆向きに進むように通路がUの字に曲がっている。
そして、また同じ距離を進むと、真ん中あたりで合流し、その先へと続いている。
この構造のおかげで、互いに光が入らない作りになっている。
「・・・・・・こっちは、明るいな」
「明かりがしっかりとあるね」
しかし、と見る。
廊下の先だ。
そこまでたどり着いて、明るさの正体、広く感じる理由を知る。
「・・・・・・たっか・・・・・・」
天井が非常に高い。
奥行もそれなりにあるが、何よりも天井が高いのだ。
「・・・・・・この高さ。目測だけど、地下一階くらいまで上がってないか?」
「・・・・・・どうだろう? 地下三階くらいまでだと思うけど」
クリシャと二人、天井を見上げるが、遠すぎてかすかに見えるだけだ。
その天井に、かなりの数の光源があるおかげで、かなり明るい。
「・・・・・・つまり、あれか。回廊で地下部分を囲っていて、その内側に魔力を溜める。さらに、その外側に円筒があって、そこで溜めた魔力を利用する、と」
他の地下部分は、広さはあるものの、その大半が複雑な形状の通路で構成されている。
だが、こちらには、そういう構造はないようだ。
ところどころに、点々とドームのような構造物があるが、それ以外は平たい。
「・・・・・・明るい上に、遮蔽物がないわ。身を隠すところがないから、隠れていくのも、結構厳しいかも」
クルワが、周囲を警戒しながら言った。
たしかに、クルワの言う通り、ここから先は隠れる場所がない。
敵に行き会った場合、確実に逃げられない。
「・・・・・・フェリ。匂いは?」
「あっちー」
フェリが指さしたのは、ドーム状の構造物の一つだ。
特に煙などは出ていないし、モリヒトには、においなど感じられない。
「・・・・・・行く?」
「なんかいるだろ。確実に」
「いるでしょうね」
「いなさそうなところから調べるってわけにはいかないかね?」
モリヒトとしては、危険はできるだけ避けたい。
本命となるのは間違いないが、それ以外を探る方を先にしたい。
まるで、RPGで正規ルートをいったん無視して、脇道を探索しているような感じだな、とモリヒトは思う。
「さあて? できれば、楽をしたいが」
「寂しいことを言うものだな。どんとこいよ」
「!?」
不意に、誰のものでもない声が聞こえた。
そして、モリヒトは、声の方向を見る。
通路を出て、広い場所になっている。
その真ん中あたり、避けようもない場所に、人影があった。
「・・・・・・げ」
「挨拶だなあ、おい」
は、と口の端を釣り上げて、ミュグラ・ミケイルがそこにいた。
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