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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第9章:遺跡
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第34話:円筒の空間

「さあて? あいつら、うまくやってるかね?」

 ウェブルストが、書類を処理しながら、首を傾げた。

「モリヒトさんたちですか?」

「ああ。仕事は任せたが、うまくいっているかどうか」

「いくらなんでも、それほど進捗はないのでは?」

 仕事を手伝っているリーレイアは、とんとん、と書類の端を整えつつ、ウェブルストに答えた。

「今までに、何年もかけても、それほど成果は上がらなかった仕事でしょう?」

「まあ、そうだけどな。とはいえ、現状を考えると、なにかが起こる、というより、起こっている可能性は高い」

「・・・・・・そうですか?」

「ああ。遺跡で、事件が起こっている、という報告もあってな」

「・・・・・・危険とわかっていて、送ったのですか?」

 ちょっと批難が混じった視線を向けられ、ウェブルストは肩をすくめた。

 クリシャやクルワがついているし、モリヒトも決して油断できる使い手ではない。

 モリヒトは、基本的に戦力は未熟ではあるが、場合によっては、誰にでも通じる一撃を発するポテンシャルを持っている、と思っている。

 それは、かなり尖ったものではあるだろうが、秀でた一芸があり、それを利用できる頭もある以上は、決して弱者ではない。

「この大陸にはない考えを持つ者達だ。何か、見つけてくれるんじゃないか、と」

「そう、狙い通りに行くといいんですけれど」

 うーん、とリーレイアは頬に手を当て、うなっている。

 だが、ウェブルストは、それほど悪いことにはならない、と思っている。

「大丈夫だろうよ。モリヒトは、そこまで勤勉じゃないだろうしな」

「ええ・・・・・・」

 真面目じゃない、という評価を下すのを聞いて、リーレイアは顔をしかめた。

 ウェブルストは、ふいー、と肩をもんだ。

「いい力の抜き方を知っているやつだ。無理はせんだろうさ」

 ははは、と笑いつつ、席を立つ。

「こちらも、いい力の抜き方をするころあいだと思わないか?」

「・・・・・・さぼりたいだけじゃないですか?」

「いいや? なんだかんだで、朝からずっとだ。ちょっと休憩しようじゃないか」

 なあ、とウェブルストは、部屋に控えていた侍女たちに、茶の用意をするように命令を出した。

 その様を見て、はあ、とリーレイアはため息を吐く。

「その、モリヒトさんたちのための書類も、大分含まれていますよ?」

 迎えにくるであろう、オルクトの飛空艇を迎えるための準備だ。

 事前の約束は取れたとはいえ、一国と一国のやり取りだ。

 その間には、様々な事務手続きがある。

 モリヒトの迎えに来る飛空艇の件は、ほぼウェブルストの独断だ。

 それだけに、それらの処理は全部、ウェブルストの仕事になっている。

 その書類が膨大なことになっているわけだが、ウェブルストとしては、手は抜けない。

「・・・・・・今回だけじゃなく、今後のことについても、全部オレの仕事になってないか?」

「そりゃあ、次の王はあなたなのですから。これから少しずつ、仕事は増えると思いますよ?」

「だろう? だから、今のうちに、休憩できるときに休憩しようじゃあないか」

 にや、と笑ったウェブルストに、リーレイアは、仕方のない人ですね、と苦笑を返すのだった。


** ++ **


 奇妙に広大さを感じる空間だった。

 明りと明りの間にある、暗闇の死角に開いた通路の入り口。

 その入り口をくぐると、すぐに壁に行き当たる。

 左右へと分かれ道があり、そこをしばらく進むと、今度は逆向きに進むように通路がUの字に曲がっている。

 そして、また同じ距離を進むと、真ん中あたりで合流し、その先へと続いている。

 この構造のおかげで、互いに光が入らない作りになっている。

「・・・・・・こっちは、明るいな」

「明かりがしっかりとあるね」

 しかし、と見る。

 廊下の先だ。

 そこまでたどり着いて、明るさの正体、広く感じる理由を知る。

「・・・・・・たっか・・・・・・」

 天井が非常に高い。

 奥行もそれなりにあるが、何よりも天井が高いのだ。

「・・・・・・この高さ。目測だけど、地下一階くらいまで上がってないか?」

「・・・・・・どうだろう? 地下三階くらいまでだと思うけど」

 クリシャと二人、天井を見上げるが、遠すぎてかすかに見えるだけだ。

 その天井に、かなりの数の光源があるおかげで、かなり明るい。

「・・・・・・つまり、あれか。回廊で地下部分を囲っていて、その内側に魔力を溜める。さらに、その外側に円筒があって、そこで溜めた魔力を利用する、と」

 他の地下部分は、広さはあるものの、その大半が複雑な形状の通路で構成されている。

 だが、こちらには、そういう構造はないようだ。

 ところどころに、点々とドームのような構造物があるが、それ以外は平たい。

「・・・・・・明るい上に、遮蔽物がないわ。身を隠すところがないから、隠れていくのも、結構厳しいかも」

 クルワが、周囲を警戒しながら言った。

 たしかに、クルワの言う通り、ここから先は隠れる場所がない。

 敵に行き会った場合、確実に逃げられない。

「・・・・・・フェリ。匂いは?」

「あっちー」

 フェリが指さしたのは、ドーム状の構造物の一つだ。

 特に煙などは出ていないし、モリヒトには、においなど感じられない。

「・・・・・・行く?」

「なんかいるだろ。確実に」

「いるでしょうね」

「いなさそうなところから調べるってわけにはいかないかね?」

 モリヒトとしては、危険はできるだけ避けたい。

 本命となるのは間違いないが、それ以外を探る方を先にしたい。

 まるで、RPGで正規ルートをいったん無視して、脇道を探索しているような感じだな、とモリヒトは思う。

「さあて? できれば、楽をしたいが」

「寂しいことを言うものだな。どんとこいよ」

「!?」

 不意に、誰のものでもない声が聞こえた。

 そして、モリヒトは、声の方向を見る。

 通路を出て、広い場所になっている。

 その真ん中あたり、避けようもない場所に、人影があった。

「・・・・・・げ」

「挨拶だなあ、おい」

 は、と口の端を釣り上げて、ミュグラ・ミケイルがそこにいた。



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