第30話:未踏区域を進む
「モリヒト君」
「うん?」
地図で現在地を確かめたモリヒトに、クリシャは声をかけた。
「その魔術、正確性には自信ある?」
「ああ。たぶん問題ない」
魔術は、イメージの産物だ。
基本的に、モリヒトの魔術のイメージの元になっているのは、元の世界でのゲームやアニメ、漫画などである。
ああいうものは、ファンタジー的な力か、圧倒的に理不尽も成し遂げてくる。
あるいは、ゲームのシステムなんかは最たるものだろう。
キャラクターの現在地をなぜか完璧に把握しているミニマップなど、珍しくもなんともない。
そういうのを想定してやってみた。
そして、やったらできたのだ。
「まあ、あれだ。転移とかで吹っ飛ばされたならともかくとして、普通に地続きを歩いてきて、マップを見失うってのは、ちょっと想像しづらいな」
ふ、とモリヒトは笑う。
なんでここまで正確にできるのか、それはわからない。
仕組みはわからなくても、できるイメージができるならば、魔術は成立する。
「・・・・・・あと、この場所もいいな」
「ん?」
「周辺の魔力を思いっきり注いだら、大概の魔術は発動するから」
「ああ、それもあるのか・・・・・・」
モリヒトにとっては、周囲の魔力は少々使いづらいものだ。
真龍の魔力は、モリヒトにとっては、少々なじまない。
「・・・・・・前は、こんなに濃い魔力の中だと、気分悪くしてなかった?」
それでも、こちらに戻ってきてからは、真龍の魔力も利用できるようになってきた。
「クルワがいるからな」
クルワを通せば、真龍の魔力も使える。
「ともあれ、これで魔術を失敗するってのは、たぶんない」
「だとすると、本当にここは七階なのか・・・・・・」
「もしくは、それより下、ということは、あるかもしれない」
「ん?」
「一番下の地図がこれだから」
地下八階の地図は持っていない。
今のところ、地下七階までしか到達していないからだ。
だから、一番下、ということで、七階の地図に表示されている可能性はある。
とはいえ、ここが誰も到達したことのない未踏の区域であることは確実だろう。
「ともあれ、ここからは地形がわからない。慎重にいこうか」
「はいはい」
周りは、やはりそこそこ明るい。
とはいえ、明りの届かない死角も多い。
「人の気配は?」
「ないねえ。でも、足元見てごらん?」
「ん?」
モリヒトが足元を見ると、そこには、なにかを引きずった跡がある。
「俺らが追っかけたやつか」
「それだね。ここを通ったのは間違いなさそうだ」
「・・・・・・その割には、人の気配とかを感じないな」
それほど時間が経っている、という気はしないのだが、まるでいない。
「・・・・・・なんていうか、もうここで帰っちゃってもいい気がするよね」
「それはそれで心惹かれる提案ではあるんだけどなあ」
モリヒトもそうしたい気持ちはある。
ただ、気になっていることも確かだ。
ここで何が起こっているのか、確かめておく必要はあると思っている。
「なんだかなあ」
「どうしたんだい?」
「いや、こういうことがあると、とりあえず、疑う相手がいるじゃん?」
「ミュグラ教団?」
「生き残りがいたとして、何もおかしくないわけでさ」
「まあ、そうだね」
「だとして、ここで何をしているんだ、という話でもあるけれど」
「再起をかけて、隠れ潜んでいる、というのはあるだろうね」
この大陸でのミュグラ教団は、先の事件で大半のメンバーを喪失している。
勝男堂の再開は困難ではあるだろう。
とはいえ、まったくいなくなるものでもないだろうし、その生き残りが隠れているとしてもおかしいことは何もない。
だとして、
「ここで何をやっているのか。ロクなことではない」
「自分で疑問を言って、自分で答え出されちゃうとお、何もできないじゃん?」
「ははは」
笑ってごまかす。
ただ、
「それ以外にここに何かが潜んでいる可能性は?」
「ないとは言えないよ。それこそ、地脈の上でのことだもの。全部を知っているのは、真龍くらいじゃない?」
若紫色の真龍であるヤガルは、そういうことを聞いても教えてはくれないだろう。
「フェリ、なにか感じることはないか?」
「ない。…なんか、こっちのほうが空気汚い」
「ん?」
汚いか、とモリヒトは思った。
その感想は、わからなくもない。
先ほどから感じている死臭も、明らかに空気を悪くしている。
「ようし、奥へ進むぞ」
通路の奥をにらんで、モリヒトはできるだけ軽い口調を心がけた。
正直、やる気はでなかった。
** ++ **
探索の結果として、通路は何本か枝分かれをしていた。
枝分かれをした先を探すか、地面を引きずった跡を追うか。
考えた結果、引きずった跡を追うことにした。
そうすれば、引きずっている主の行先は、確実につかめる、とわかっているからだ。
他の通路へと言って、すれ違ってしまったら困る。
だから、前へ、前へ、と進んでいく。
明かりだけは心配しなくてもいいのが助かった。
「・・・・・・この先、なにかあるね」
「あ、それはわかる。なんか魔力の流れが変だ」
「わかるの?」
「わかるっつーか、変。こう、妙な流れが渦巻いてる」
ただ、気配はわかる。
「これ、あれだ。竜殺しやってた、岬に近い感じ」
「ということは、この先、界境域でもあるのかな?」
行く先に、扉が見えた。
それは、明らかに異常だった。
この遺跡では、扉らしい扉はない。
朽ちたのか、部屋の出入り口などは、ぽっかりと穴が開いたままになっている。
それだけに、あからさまに木で作られた扉は、異常なほどの違和感を持っていた。
「・・・・・・あの先か」
「そうだね」
うなづき合い、先へと踏み込んでいった。
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