第28話:隠し扉の奥
考えても時間の無駄か、とモリヒトはあっさりと決断した。
「開けるか」
「開けられるの?」
言われて、血の手痕がついている場所を眺める。
「押す?」
「・・・・・・動かないわね」
クルワが言われた通りに力を込めたが、なにも起こらない。
「こする」
「つるつるざらざら」
フェリがこすこす、と触ってみたが、継ぎ目のようなものもなく、そもそもでっぱりすらない。
岩肌の感触はつるつるとしていて、血がついている場所はざらざら、と、そういう感じだろうか。
「・・・・・・たたく?」
「自信がなくなってきたね」
クリシャが、杖の先てつんつん、とつつくが、動きはない。
「・・・・・・まあ、魔力か」
結局、それ以外はないだろう、と思う。
扉の開閉の仕組みは、魔術具か何かを使用している可能性が高い。
ただ、そうとなると、かなり精密な魔術具だろう。
何せ、通路が暗いことを考慮しても、通路の壁には違和感はない。
切れ目などがあるわけでもなく、撫でてみても継ぎ目のがたつきは感じない。
「でも、ここに魔力を送っても、何も起こらないよ?」
クリシャが、血の手痕に触れながら言った。
クリシャが言うなら、モリヒトがやるよりも確実にうまくやっている。
そうであっても開かないなら、さらに別の仕掛けがあると見るべきだ。
「ふむ。だが、魔術具があるなら、と・・・・・・」
もう一つの仕掛けとして、なにか鍵になる魔術具が必要なパターンも考えた。
だが、それでも、モリヒトができることは変わらない。
「こういうセキュリティは、ぶっちゃけ俺には無関係よな」
手を触れる。
それから、集中する。
「よし」
「何がよし、なのかな?」
「ん?」
モリヒトは、たぶんここが扉だろう、という場所を、ぐっと押す。
「・・・・・・」
「それで動くのかい?」
「魔術具で鍵をしているなら、俺がその魔力を吸いこんでしまえば、無力化できる」
力を込めて押すが、びくともしない。
「・・・・・・モリヒト君?」
「いや、待て。この扉が、とても重いだけだ」
「何も言ってないよ?」
クリシャが、なんだか優しい顔をしている。
焦りを感じながら、モリヒトは体に力をこめつつ、魔力を使って身体強化を使った。
そうして、身体強化の出力を上げていくと、
「お?」
ず、と音を立てて、壁が内側へと沈んでいく。
「わ。本当にあったね」
ぱちぱち、とクリシャが手を叩くと、フェリも真似をした。
ともあれ、
「もう、少、し!」
ん、と力を込めて、押していく。
そして、人ひとりが通れる程度の隙間が開いた。
「・・・・・・ふう」
額の汗をぬぐい、中をのぞく。
「・・・・・・誰もいない」
「まあ、結構時間かかったしね」
ふうん、とクリシャが中を覗き込む。
「・・・・・・押して開くタイプでよかったね?」
「ん?」
「いや、引くタイプだったら、開けられなかったんじゃない?」
「一応、押して開ける、とは思ってたぞ?」
「そうなの?」
「だってほら、足元」
地面を見せる。
「引き戸だったら、通路の砂がこう、引きずられた痕が残るだろ? でも、砂のあとはきれいなもんだ」
だったら、押す方じゃないか、と考えた。
スライドの可能性もあったが、それでも、押してみれば何かあるだろう、と力いっぱい押して、開いた、というわけだ。
「考えなしではないのだ」
「はいはい。・・・・・・見て」
内部を見ると、
「明かりがあるな」
「誰かが、いるのかもね」
壁に、点々とあかりがついている。
灯っているのは、
「油と火?」
「いや、魔術具」
「ん? このあたりで魔術具って、結構ちゃんとしてないと、ひどいことになるんじゃなかったか?」
周囲の魔力を勝手に吸い込んで誤作動を起こす、と聞いた。
それの対策をしてあれば大丈夫、と聞くが、その対策をした魔術具は非常に高価らしい。
「それを利用した作りだね」
クリシャは、壁から明かりの一つを手に取った。
それは、皿に乗った石のようだ。
「ほら、ここ」
クリシャが示したのは、皿と石、それぞれに刻まれた魔術陣だ。
それは、二つがつながるように皿の上に石を置くと、石が光を放つ。
逆にずらすと、それで光は消えた。
「魔術具は、基本的に術者が魔力を通さないと発動しないの」
「ふむ?」
「でも、この魔術具は、稼働に必要な魔力量が極端に低くて、一方で許容量がすごく多い」
作りと効果が簡単なものだからだ。
そういうものは、周囲の魔力を吸い込んだだけで発動してしまうものもある。
暴走に近いため、普通はそうならないように対策をするものだ。
だが、あえてその対策をしないことで、周囲の魔力を吸うだけで、勝手に発動するようにしているのだろう。
「こういう作り方もあるのか」
「暴走したところで、何も困ることはないからね。多少明るさが増すくらいだし」
「なるほど」
しかし、
「こういうのが置いてある時点で、誰かが整備している可能性が高い、と」
置いてあるそれは極めて簡素なもので、皿とその上に置いてある石を固定もしていない。
簡単な衝撃だけで、ずれて光が消えるだろう。
簡単に消せるようになっている、と見ることもできる。
ともあれ、この近くで何か派手な衝撃を出しただけでも、この辺が暗くなることは間違いない。
それが、点々と、ではあるが、見る限り全部点灯している。
誰かが様子を見ていないと、こうはならないだろう。
「それに、この加工も、結構最近だね」
「・・・・・・キナ臭くない?」
「ボクも、そう思うよ」
ふう、とクリシャはため息を吐いて、厳しい顔で杖を抜く。
「ボクはね。このタイプの明かりは見たことがある」
「ん?」
「・・・・・・この大陸のミュグラ教団がね、この手の明かりをよく使うんだ」
「他では、使われないのか?」
「この明かりは、周囲が一定濃度以上の魔力で満たされていることが前提だもの。地表じゃあ、それぐらいの濃度があるのなんて、山くらいだよ」
つまりは、
「ここを、ミュグラ教団が使っている、と」
「可能性は高いね」
クリシャは、モリヒトを見た。
「どうする? 上に戻って、ここのことを知らせるっていう手もあるけど・・・・・・」
「・・・・・・調べよう。気になる」
「わかった」
そうして、奥に進んでいくことになった。
暗闇の中、先は、下へと続いている。
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