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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第9章:遺跡
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第27話:追跡

 この遺跡は、むやみに広い。

 遺跡周辺には、百人近い冒険者や調査隊がいたが、遺跡内部でそれらの人々とは遭遇しない。

 地下三階以上で殺される事件が起こっているため、さっさと地下四階に潜っていく者達が多いのはその通りだが、それにしても少ない。

「・・・・・・というか、あれか? 今の状況だと、俺らの場合は、むしろここら辺をうろつくべきなのか?」

 モリヒトの気づきに、クリシャも、あー、とうなづいた。

 モリヒト達が受けている依頼は、遺跡内部での魔獣調査だ。

 魔獣が発生していないか、それらが危険な状況を生んでいないか、という調査である。

 討伐はメインではないが、できるなら討伐した方がいい。

 そういう状況で、今地下三階以上に潜る冒険者が少ない場合、地下三階までで魔獣が現れても、討伐されない可能性がある。

 そういったものは逃せないだろう。

「フェリ。なんかいたら知らせてくれ。そっちの討伐優先だ」

「わかった」

 索敵は、フェリに任せる方が正しい。

 フェリの感覚は、普通の人間のそれよりはるかに高い。

 『瘤』の魔獣は、あまり生物的なにおいはしないが、それでもフェリには感覚的にはっきりとわかるらしい。

 モリヒトの方でも、近くまで来られると、ざわざわした感触がある。

 感触の理由は、おそらくはモリヒトの体質によるものだろう。

「そういえば、地下にいくほど、通路って広くなるらしいね?」

 クリシャの言葉に、モリヒトはへえ、と返す。

 遺跡の地下部分は、両手を広げれば指先がかろうじて触れるか触れないか、という程度の幅だ。

 天井はそれなりの広さがあるが、剣を持って伸ばせば、それで剣先が触れるくらい。

 そういう広さだから、武器を振り回すには向いていない。

 大概は、武器を抜いてもギリギリで振る。

 縦振り、あるいは突きだ。

 横振りは、短い武器でない限りは壁につかえてしまう。

「・・・・・・お? 来るぞー」

 フェリが、そんな警告を出してきた。

 クルワが構えたところで、モリヒトもざわざわとした感覚を得る。

 それと同時に、ん? とモリヒトは首を傾げる。

「・・・・・・あれ?」

「どうしたの?」

「いや、今、なんか遠くで・・・・・・」

 魔力の感じが、少し変わった。

 あるいは、風が吹いた、とでも言うべきか。

 こんな地下では、空気の流れなど感じられないはずだが、モリヒトは今そういう流れのようなものを感じた。

「・・・・・・クルワ。ちょっと下がろう。クリシャ、周りになんかいないか見てくれ」

 フェリの手を引いて、モリヒトはその場を離れる。

 向かう先は、自分が感じた流れから外れる方だ。

 もしかして、と思うことがあった。

 そして、静かに息をひそめて音を殺すと、わずかにごん、という衝撃音が聞こえて来た。

「お? 血の匂い」

 その後、フェリが言った。

「今、何か音は聞こえるか?」

「・・・・・・んー? ずるずる?」

 何かを引きずるような音、ということだろうか。

 だから、その場所へと向かう。

「・・・・・・血の跡だ」

 そこには、血の跡だけが残っている。

 そして、その血の跡は、通路の一つへと続いていた。

「・・・・・・これ、まだ新しいよ」

 触れると、べっとりと手に着く。

 それを見て、クリシャが通路の先をにらんだ。

「どういうこと?」

「追いかけてみればいい」

 足元の血は、すでに黒ずみ始めている。

 暗闇のなかでは、そろそろ見えにくくなっていくだろう。

 見えなくなってしまう前に、痕跡を追いかけていこうと思う。


** ++ **


 前を行くものに追い付かないように、と歩いていく。

 そうすると、モリヒトの感覚的には、歩いて行く先は、流れの先だ。

「・・・・・・やっぱりかー」

「どうしたの?」

「いや、なんか、ここら辺の魔力に流れが生まれてる」

「流れ?」

 クリシャは首を傾げたが、モリヒトととしてもちょっと説明しづらい感覚だ。

 この遺跡は、地脈を流れる魔力の吹き溜まり、とでも言うべき場所だ。

 だからか、内部では魔力の流れ、というのは感じづらい。

 だが、今ここに来て、魔力の流れのようなものを感じた。

「たぶん、どっかの入り口が開いたんだろう。それで、今までなかった流れが生まれた」

「ということは?」

「向かう先に、隠し扉があって、そこを出入りしているやつがいる」

 かもしれない、とモリヒトは付け足す。

 別の理由も考えられないではない。

 たとえば、『瘤』ができて、そこから魔獣が生まれた時に、魔力の流れが生まれる可能性もある。

 それに、階段もあるのだ。

 かすかな流れ、というのは、別の理由で発生するかもしれない。

 ただ、地面を何か血を流すものを引きずった跡がある、というのは、今までの一連の事件と同じ特徴だ。

「調査って名目もあるし、調べておかないと」

「そうね。・・・・・・待って」

「ん?」

「明かり消して」

 言われて、モリヒトが明かりを消すと、通路の向こう側がぼんやりと明るい。

「追い付いた。これ以上近づくと気づかれるかも」

「じゃあ、静かに追いかけよう」

 そうやりながら、しばらく追いかけたところで、モリヒトが感じていた魔力の流れが消えた。

 それとともに、ぼんやりと見えていた明かりも消えてしまう。

「・・・・・・止まったな」

「ちょっと待って」

 明かりをつけて、足元を照らす。

 引きずっていた痕跡は、途中で消えていた。

「・・・・・・この辺、ということか」

「探してみる?」

「地図にマークを入れて、と」

 さて、どういう仕掛けだ? とモリヒトは、周辺の壁の観察を始めた。


** ++ **


 結果として、それほど時間を置かずに、痕跡は見つかった。

 壁の一部に、血がついていたからだ。

 おそらくは、仕留めた魔獣の血だろう。

 それを持っていた手で、そこに触れたからだろう。

「・・・・・・スイッチか?」

「違うね。そういう感じじゃない」

「だとすると?」

「たぶん、魔術具」

 魔力を流すと開く、ということだ。

「・・・・・・開けたら、中にいるやつに気づかれるかもしれない」

「・・・・・・さて、どうしようか?」

 モリヒトは、顎を撫でながら考えた。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


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