第25話:隠し部屋
遺跡の地下三階は、大きく円形に広がった作りになっているらしい。
地下二階から下りることのできる階段は、中央寄りに二か所。
東向きと西向きの二か所だ。
通路の形は複雑だが、途中に何か所か広間があり、ところどころの行き止まりに、『瘤』が発生しやすいことを示すマークがある。
「・・・・・・ふむ」
地下三階の地図を眺めつつ、モリヒトは頭をひねる。
「どうしたんだい?」
そんなモリヒトを見て、クリシャが声をかけた。
殺されている冒険者たちの一団を発見し、軽く状況を検分した後、身分の証明になりそうなものや、装備品などを拾っての帰り道だ。
荷物はそれほど多くなくとも、死人の荷物を持っている、と思うと、あまりいい気分がしない。
とはいえ、言っている場合でもない。
ともあれ、必要なことは、地図を読んで、迷わないようにすることだ。
しかし、
「・・・・・・うーむ?」
モリヒトは、やはり地図を見て悩んでいる。
「・・・・・・どうしたのよ?」
クルワまで、モリヒトの様子のおかしさに首を傾げた。
それに対し、モリヒトは、荷物から他の地図を出す。
地下二階と、地下四階だ。
どちらも、現在わかっている範囲はすべて網羅された、国家保存のものである。
「・・・・・・いや、なんていうか、地下っていうわりに、規模が違いすぎるよな、と」
「ん?」
「要は、階層ごとに広さに差があるんだよね」
地下一階の地図も出してみた。
地下一階に比べ、地下二階は規模が大きい。
だが、地下三階は、それに対して狭い。
そして、地下四階で、また大きくなる。
「・・・・・・統一性なさすぎ」
それを言うなら、
「この、迷路みたいな通路の形状も、変、といえば変なんだが」
遺跡、というのは、過去にあった何かしらの文明を示すものだ。
事実、この遺跡からは、そういった文明の痕跡のようなものがいくつも出土している。
だが、
「迷路にする意味って何?」
どうあがいても、利用する施設、と考えるなら、こういう構造にする利点はない。
敵の侵入に備えていた、と言うこともないだろう。
「まあ、ともあれとしてさ・・・・・・」
うーん、とモリヒトは考える。
そして、地下三階の地図における、円の外側に指を置く。
「・・・・・・この、地下二階と地下四階には空間があるのに、地下三階には地図上に記されていない場所。隠し部屋とかあるんじゃないかな、と」
「・・・・・・なるほど?」
かな、と推測の口調で話しているものの、モリヒトとしては、実際にある確率はそう高くないと思っていた。
実際のところは、あればいいなあ、くらいの願望レベルである。
「ただなあ。一応、今のところ、地下四階以下で、冒険者がやられたっていう情報は出てないんだよね」
正確には、現在この遺跡で起きている、冒険者や盗掘者のグループなどを目標とした、おそらくは同一犯による殺害。
これが、今のところ発見されているのは、地下三階までだ。
地下四階以降に潜っている冒険者もいるそうだが、そちらは、魔獣にやられた冒険者や盗掘者は見るらしいが、そういう場所には大体魔獣の死体もあるため、魔獣にやられた、とはっきりわかるらしい。
だが、今まで地下三階以上で発見されている殺害には、近隣で魔獣の死体は見つかっておらず、何かを引きずったような跡があるという。
「・・・・・・引きずった跡は、途中で消えるらしい。それも、通路の途中で、いきなり」
引きずっていたものを持ち上げたのかもしれないが、
「その消えた近辺に、隠し部屋への入り口がある、というのはどうだろう?」
「可能性、なくはないけど・・・・・・」
うーん、とクリシャは唸った。
可能性としてはありえる、とは思う。
ただ、
「そのくらいなら、もう調べられてるんじゃないかなあ?」
地図を見てわかるような話なら、もう誰かが気づいていてもおかしくない。
それでも、それがみつかっていないのは、実際には見つからなかったからだろう。
「・・・・・・まあ、そうなんだが・・・・・・」
うーむ、とモリヒトは唸った。
そして、地図の一点を指さす。
現在地の近くとなるその場所で、
「まあ、なんでこんな話をしているか、というと」
それから、壁の一つを指さす。
「割と怪しげなポイントが、そこにある」
「・・・・・・ここ、割と中心に近いよ?」
帰るために、中央付近の階段へと向かっていたため、モリヒト達の現在地は、中央部分に近い。
ただ、
「そこは、地図的に、あからさまな空白があるんだよ。・・・・・・ただ、何かがある、とは見つかってない」
「ふうん?」
クリシャは、モリヒトが指さしたところに近づいて、杖で軽くたたいたりしてみる。
「・・・・・・音が変な感じもしないし、この向こうに空洞があるようには見えないんだけど」
「・・・・・・やっぱ、ただの柱かねえ?」
うーん、とモリヒトは考える。
怪しい、というカンは、怪しくあってほしい、という願望のようでもある。
先入観的に怪しいと思い込んでいるだけ、という気もしてくる。
「・・・・・・ぶっ飛ばす?」
クルワが、剣を壁に向けるが、
「それで開くようなら、もっと前に誰かがやってるだろ。でも、そういう感じじゃなさそうだし・・・・・・」
モリヒトは、少し考える。
どうして、この場所に、そこまで違和感を感じるのか。
「・・・・・・んー?」
そうしている間に、フェリが前に出て、ぺたぺたと壁を触った。
「・・・・・・ここ、壁じゃない?」
そうつぶやいて、またぺたぺたと叩く。
その様子は、なにかを探しているようにも見えて、
「・・・・・・スイッチかなんかある?」
「そういうのはないわねえ」
クルワも、いろいろ触ってみるが、ないらしい。
しばらく考えて、
「見つからんなら、帰るか」
「いいの?」
「今は、帰る方が先だろう? どうせ、また来るし」
探索は、今日で終わりではない。
これからも、探索は続けていく。
「それに、今は、帰り道を早めにする方がいいと思うし」
「そうね。面倒に巻き込まれるのは嫌だわ」
ただ、
「地図に印だけつけておこう」
次に来た時に、改めてゆっくりと探そう、とモリヒトは決めた。
** ++ **
モリヒト達が立ち去ってしばらくして、
「・・・・・・」
しゅう、という空気が抜けるような音がする。
壁に亀裂が入り、そして、そこに人が一人通れそうな程度の隙間が空いた。
「・・・・・・」
ぬう、とその隙間から、太い腕が出て、壁の淵をつかむのだった。
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