第23話:潜むもの
根本的な話として、
「魔獣の素材って、有用なのか?」
魔術具や発動体の素材として使われることがある、とは聞いたことがある。
ただ、ゲームなりなんなりならともかく、実際のところ、生物素材を使うのは困難が大きい気がする。
それに、角なり牙なりの素材を使った道具、というのも見たことがない気がする。
「ヴェルミオン大陸と、こっちの大陸だと、大体どう使うかは結構変わるけどね」
「そうなのか?」
「だって、魔術の発動体と、魔術具と、どちらに使うのか、っていうところで、結構素材の扱いって違うから」
発動体の場合、触媒と韻晶核と発動機の三種の組み合わせだ。
このうち、魔獣素材が主に使われるのは、触媒部分である。
一方で、魔術具の場合は、その利用方法は多岐にわたる。
魔術具など、魔力の伝導率のいい素材を二種類組み合わせるだけでも作ることはできる。
発動する魔術の種類に合わせて、魔術陣をどう刻むのか、が重要になる。
伝導率の違う素材で、魔術陣を作り上げれば、それで魔術具は出来上がる。
「大体の場合は、乾燥させて、砕いて、粉にして、鉄とかに混ぜ込んだり、にかわとかの接着剤と混ぜて塗料にしたり、とかかな?」
「なるほど?」
「とはいっても、それをやると素材の強度がかなり落ちるから、大体は芯になっている素材に、組み合わせるっていう感じ?」
魔術具ならば、多くの場合は、金属製の板に、魔物素材などの魔力伝導率が高い素材を混ぜ込んだ金属や塗料などで、魔術陣を描く。
そのうえで、魔術陣が壊れないように何かしらの保護用の被覆材をかけるのが普通だ。
発動体の場合は、触媒だと、そのままの形状で使うことも少なくない。
結局のところ、
「まあ、魔獣素材の中でも、そういう道具に使える素材って、ごく一部だけどね」
「そういうものか」
「加えて言うと、真龍素材。ああ、真龍の魔力の影響で発生する素材ね? あれらの方が性能高かったりするのよね」
「真龍素材って、こっちだと、石か」
「そうだね。若紫色の石。山で拾うやつ」
「いろいろあるのなあ・・・・・・」
ふうむ、とうなりながら、モリヒトは腰の剣を手に取った。
片方は、なた型のハチェーテ。
「そっちは、もろに持ち手が石だよね。皮を巻いてはあるけど」
「本当だ・・・・・・」
武器型の発動体の場合、大体は柄の中に発動体としての機能を詰め込むらしい。
そうしないと、武器としての性能に不備が出るからだ。
結果、仕込みができるサイズが小さくなるため、武器型の発動体は、発動体としての性能はあまり高くならないらしい。
それに対して、魔術具としての武器は、決してそうでもない。
例えば、剣を魔術具にする場合、刀身部分に魔術陣を刻むことができる。
比較的広い範囲に魔術陣を作成できるため、性能も高くすることができる、というわけだ。
「・・・・・・ちなみに、そっちのもう一つの方」
ゼイゲン、という黒針の剣。
「そっちは、刃部分がもろに魔獣素材」
「・・・・・・? そうは見えないんだが?」
こんなまっすぐな針みたいな部位を持つ生物などいるだろうか。
「『瘤』から出てくる魔獣には、既存の獣とは似ても似つかない異形もいるから。たぶん、そういう奴の素材だよ」
「・・・・・・レアモノ?」
「どうだろう? 針を持った生物、くらいなら居そうなものだし、もしかするとでっかい蜂とかかもだし」
ともあれ、魔獣素材、というのは、魔術に関する分野でよく使われる、ということらしい。
「・・・・・・金になるのかね?」
「なるよ。性能が高いのは、ごく限られた部分だけど、それ以外の部位も、まあ、使い道がないわけじゃないし」
燃やし終えた後の灰が、十分素材として使えるらしい。
もっとも、価値は微妙なので、持って帰るかどうかは荷物の量と相談らしいが。
「金にはなる、と」
「何か持って帰りたい?」
「・・・・・・今のところ、石しか拾ってないしなあ」
もっといろいろ出るか、と思ったが、意外と少ない。
冒険者たちによって、大部分が狩られている、というのは間違いないだろうが、それだけだろうか。
「なんだかな? なんか、この遺跡に入ってから、変な空気を感じているんだよな」
モリヒトの感覚では、肌をざわざわと撫でるような感覚だ。
「山にいた時とも、違うんだよなあ。これ」
山にいた時は、乾いた空気ではあったが、まるで水の中にいるかのようなまとわりつきを感じていた。
だが、この遺跡で感じるのは、どちらかというとねっとり、という感じだ。
「・・・・・・なんかいる?」
「いるのー」
モリヒトのつぶやきに、フェリがモリヒトの袖を引いた。
「ん? どうした?」
「モリヒト。ここ、なつかしい感じ」
「懐かしい・・・・・・?」
フェリの感想に、モリヒトは首を傾げるしかない。
「懐かしい? フェリは、ここに来たことがあるのか?」
「んーん。でも知ってる感じに似てる」
んん? と再度首を傾げる。
フェリは、生まれてからの経験が少ない。
だから、どこに行っても初めての場所、となるはずだ。
クリシャを見ると、クリシャも肩をすくめた。
「確かに、フェリが最初にいたところと、においが似ている気もするかな」
「地下か」
「そうだね」
フェリのいた場所は、ミュグラ教団の研究所だ。
隠れていたのなら、地下であまりいい空気ではなかっただろうし、この遺跡と似ていた、となっても、確かに、と思ってしまいそうだが、
「・・・・・・俺も、なんかこれと似た空気を知っている気がするんだよな・・・・・・」
その既視感の正体をつかめないままに、モリヒト達は奥へと進んでいった。
** ++ **
だだだだ、とあわただしく走る音がある。
「追いかけてきてるか!?」
「来てる来てる!!」
「よし、このまま連れてくぞ!!」
冒険者たちだ。
その後ろを数頭の魔獣が追ってきている。
暗闇で、明りも少ないが、先を走る冒険者の走り方に迷いはない。
彼らは、戦いづらい狭い通路から、広い場所へと魔獣をつり出している最中だった。
「見えた!」
彼らの前方に、淡く明かりが見える。
待ち構えている仲間たちが灯している明かりである。
そこまで駆け抜ければ、後ろを追いかけてきている魔獣を倒して、今日の稼ぎになる。
もしかすれば、核石でも取れれば、十分な見返りだ。
だから、走り抜けて、広場へと飛び込んだ。
「・・・・・・え?」
冒険者たちは、呆然と疑問の声を上げる。
そこに、仲間たちは待ってはいなかった。
ただ、
「ああ、終われ」
端的な一言とともに、逃げて来た二人の冒険者は、顔を殴りつぶされた。
** ++ **
「ふん・・・・・・」
冒険者をつぶした後、追いかけて来た魔獣もつぶす。
そして、その魔獣をまとめてひっつかむと、そのままずるずると通路の奥へと引きずっていった。
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