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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第9章:遺跡
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第22話:地下三階

 地下探索は、順調に進んでいる。

 地下二階は、一通り回ったものの、やはり魔獣の気配はほとんどなかった。

 床に散った砂を、結構な人数が踏み荒らした形跡があった。

 おそらくは、それなりの人数が歩き回ったのだろう。

 地図に記されている、『瘤』の発生しやすい地形周辺は、特に多かったため、魔獣狙いの冒険者たちによって見回りもされたのだろうと思う。

 それ以外に、一直線に進む一団の足跡もある。

「それは、調査隊と、その護衛の冒険者じゃないかな」

 クリシャの推論は、当たっているのだろう。

 現在、この遺跡は、地下七階まであることがわかっている。

 そして、そのうち、地下一階から地下三階までは、ほぼ網羅されているのだという。

 だから、調査隊が入るとしたら、地下四階より下なのだそうだ。

 地下三階以上で、何かしら未踏区域でも見つかれば、話は別になるだろうが。

「・・・・・・いまのところ、そういうのはなさそうよな」

 念のため、ということで、端から端まで、できるだけ広くモリヒトは歩き回っている。

 一日で歩き回れる範囲ではないが、遺跡の中に泊まることも挟みつつで、モリヒト達は遺跡の中を巡っていた。

 結果、地下二階の探索を終えて、今は地下三階への階段前である。

「・・・・・・広さ的には、一週間で見て回れたのは、早い方か?」

 二階部分を見て回るのに、大体そのくらいだった。

 途中で遺跡の中で寝泊まりをしたのは、都合三日。

 結果として、地図に記されている地下二階の、九割以上を歩いている。

「うーん? 途中の障害がほとんどなかったからねえ」

 地下の暗闇の中を、灯した明かりのみを頼りに進むのは、平地を進むよりも手間がかかる。

 それでも、小さな村程度の広さは歩き回った。

 結果、出会う魔獣はなし。

「・・・・・・今思ったんだが、この土地の魔力濃度で、魔獣との遭遇少なくないか?」

「どうだろう? 一階の方は、地上部分から入り込む蟲なり小動物なりいただろうけど、地下二階まで下りてくるかどうか・・・・・・」

「そういうものか?」

「体の小さい魔獣は、維持のために必要な魔力量も少ないから」

 遺跡は、地下に行くほど魔力が濃くなる。

 おそらくは、地中にある地脈に近くなるからだろう。

 だから、小動物や虫の魔獣なら、地下一階の魔力量でも十分、という意味だろう。

「でも、魔獣って、本能的に魔力の濃い場所へ向かいたがるものじゃなかったか?」

「そうだけどねえ・・・・・・」

 うーん、とクリシャは唸った。

「地下の方には、『瘤』から魔獣が出てる可能性があるから・・・・・・」

「それで?」

「『瘤』が発生するとね。周辺の魔力が『瘤』に集中するから、周辺の魔力量が一時的に薄くなるんだよ」

 階層が違えば、影響は少ないかもしれない。

 だが、同じ階層であれば、影響は出る。

「ボクたち、地下二階で魔獣の犬を倒したでしょ? あれ、たぶん『瘤』から出たやつだと思うから」

「それで、地下二階の魔力量が少なくなってる、と?」

「そうなると、地下二階の魔獣は、より濃い場所っていうことで、地下三階か、地下一階に向かうことになるから」

 逆に、地下二階は、魔獣の分布が薄くなる、と言うことなんだろう。

「だとすると、地下三階は、魔獣がいるかもしれないか?」

「いや、冒険者に狩られまくってるだろうから、やっぱり少ないんじゃないかな」

「・・・・・・・・・・・・退屈な仕事だ」

「いいことじゃないか。楽な仕事で、お金はあっち持ち」

 ふふ、とクリシャは笑った。

 モリヒトとしては、それでもいいのか、とも思わないでもないが、楽ならそれでもいいか、と思うことにした。


** ++ **


 地下三階。

 やはり、見た目は地下二階までと変わらない。

 ただ、こちらは、空気が重くなったように感じる。

 湿気や獣臭も、地下二階より濃い。

 それに、

「割と新鮮な血の跡がある」

「暴れている冒険者なり魔獣なりがいるってことだね」

 壁にてんてんと散った、赤黒い後だ。

 通路部分と違って、明らかに広く作られている部屋のような場所だ。

 いくらか、暴れたような形跡もある。

「ここでなんかを斬って、その血を剣を振ることで払った?」

「そういう感じね。あっちにもこっちにも、結構な血の跡があるから、ここで戦闘があって、何かが仕留められたのは、確実みたいよ?」

 クルワが、周辺の見分をした結果を教えてくれる。

「でも、死体の類はないな」

「運んだんじゃないかな? こっちの通路に引きずった跡があるよ」

 クリシャが立っている通路に向かうと、確かに、引きずった跡がある。

 壁や天井と似たような、奇妙につるつるした素材の床の上を、血の跡が続いている。

 引きずってこすったせいで、砂が取れて床が見えるようになっているようだ。

「・・・・・・これ、人の足跡が引きずって行ってるみたいだし、たぶん仕留めた魔獣をどっかに運んだのか?」

 なぜだろうか、とモリヒトは首を傾げる。

 魔獣の素材のうち、利用できる素材はそれほど多くない。

 肉類はやせていることが多いのであまりとれないし、味も優れていることはそう多くない。

 魔力が消えた後の革や骨は脆いことが多い。

 ごく一部の魔力が集中する部分や、核石くらいが、魔獣素材ではいい部分だ。

 そして、その一部を取るだけなら、その場ですぐにできる。

「・・・・・・狩場、じゃないかしら?」

 他の場所を見て回っていたクルワが、そういう風に口にした。

「狩場?」

「どこかに、『瘤』が発生しやすい場所があって、そこから一番近い広間がここってことじゃないかしら?」

「なんで?」

「通路だと、武器を振るうにも難があるからねえ。広い場所で武器を振れるように、ここを使っているっていうのは、確かにあるかもしれない」

「なるほど」

「『瘤』がそうそう発生するものではないし、一回狩ったら、次の狩場へ移動すると思うけど、次に使うときに備えて、邪魔にならないところに死体を移動した、とすると、うん。まあ、納得はできるかな」

 クリシャの推論に、へえ、とモリヒトは感心した。

 モリヒトの目では、そういうのを見極めることは難しい。

 経験の少なさ、というより、着眼点が身についていない、という感じだろうか。

「じゃあ、その床を引きずった跡をたどると、死体の山がある、と」

「可能性はあるね」

「じゃあ、そっちは近寄らない」

 誰が好き好んで、死体の山などみたいものか。

「そうだね。そうした方がいいと思うよ」

 ふふ、とクリシャは苦笑した。

 そのクリシャが見ている、床の上を引きずった先を見て、フェリが、ふんふん、とにおいを嗅いだ。

「あっちくさい」

「よし、クルワがいる方に行こう。『瘤』の発生が起こりやすい場所って話だし」

「はいはい」

 モリヒトが歩き出し、クリシャとフェリがその後に続く。

「・・・・・・おー」

 その中で、フェリがぼんやりと、引きずった跡のある先の通路の奥を見ていた。

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よろしくお願いします。


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