第19話:情報交換
フェリが、思いの他周囲の人を集めてしまった。
日も傾き始めており、遺跡の周辺にあるキャンプ地では、何やら騒ぎ声や歓声、楽器を鳴らす音なども聞こえる。
今日は、フェリが物珍しさに目立ったためか、モリヒト達のキャンプ場所の近くにそういう場が出来上がってしまっていた。
あちらこちらで煮炊きのための火もある。
また、そういった冒険者や調査隊をあてこんだ屋台なども出ていた。
ほぼ漁りつくされた、とはいえ、この遺跡はまだまだ稼ぎのチャンスが眠っている。
モリヒトが事前に聞いていたより、訪れている人間の数は多いようだ。
「魔獣の核石があったか!?」
「・・・・・・あっちの商人に売った」
「まじかよ! ちょっと待ったぁ!!」
情報を教えたところで、冒険者の一人が叫びながら走り去っていった。
「・・・・・・何あれ?」
「魔獣の核石があると、高性能な魔術具を作れるのよ」
モリヒトが、きょとん、としていると、走っていった冒険者の仲間と思しき女戦士がいた。
冒険者、という存在について、モリヒトはここで少し認識を変えなければならない、と思っている。
この地に集まる冒険者は、片手剣やナイフなど、小回りの利く武器を持つ者が多く、大体が軽装だ。
テュールやオルクトで見かけた冒険者は、割と大型の武器を持っている者が多く、鎧も結構頑丈そうなものばかりだった。
これは、魔獣が比較的大型なことに由来する。
なぜなのか、といえば、魔獣になる前の獣が、比較的大型のものが多いからだ。
だから、肉体が強力な個体も多く、それらとやりあうためには、大型で破壊力のある武器の方が向いている。
一方で、この遺跡においては、魔獣になりえる生物は、ネズミや虫、あとは蝙蝠くらいである。
もともとが小型の獣では、それほど大きい魔獣は発生しない。
加えて、地下は狭い。
そんな環境では、大きな武器は振り回せないし、そもそも無駄が大きい。
それよりは、器用に立ち回れて、扱いやすい、小型で軽い武器の方がいいのだ。
「・・・・・・魔術具、ねえ?」
「ああ、いきなりでごめんなさい」
くす、とその女戦士は笑う。
「ノエミよ」
いでたちは、軽装の戦士、というところ。
厚手の布の服に、革製の鎧を身に着け、腰には短剣を差している。
「モリヒト」
モリヒトも名乗って、握手をする。
「あっちに、やかましくは知っていったのは、パーティーメンバーのバッドね」
先ほど、核石を売った商人を相手に、あれやこれやと交渉をしているのが遠目に見える。
クルワは、というと、その商人から買うべきものをさっさと買ってきて、今は食事の用意をしている。
うまい具合に買えたらしく、なかなか豪勢な夕食となりそうだ。
モリヒトは、というと、フェリの芸で集まった人を当て込んでやってきた売り子から、酒を一杯と干し肉を一切れ買って、ちびちびとやっているところだった。
酒は、大分水で薄められたものだが、ちびちびとやる分には申し分ない。
そうしながら、フェリがクリシャに指示されながら、あれこれ、と芸をしているのをぼんやりと眺めていたら、唐突に隣にバッドと呼ばれた冒険者の男が座ったのだ。
バッドは、酒の入った壺を持っていて、
「あんた、最近来た人だろ?」
とモリヒトになにくれとなく聞いてきた。
聞けば、地下でのやり方の情報交換がしたかったらしい。
「あんたらが、魔術師だって、バッドが言ってたけど」
「合ってる」
「・・・・・・へえ」
ノエミの疑問にモリヒトがうなづくと、ノエミは感嘆の声を上げた。
この大陸では数少ない魔術師、ということもあって、珍しいのだろう、と思ったが、
「実際、魔術師を名乗る奴で、戦闘ができるやつってのは初めてだわ」
「他の魔術師に会ったことがあるのか?」
「まあね。例えば、魔術具を作る職人とか」
魔術具を作るのに、必ずしも魔術師としての能力は必要ではない。
そもそも、魔術具は、個人の魔力によらずに魔術を使う道具だ。
作るときにも、魔術師でなくとも製作は可能だ。
ただ、魔術具のカスタマイズや、独自の魔術具の開発、となると、魔術師としての素養は必要である。
もっとも、そんなことができる魔術師は、大体が国が囲っていて、民間の冒険者が接点を持つことは滅多にない。
魔術具、というのは、国にやとわれた魔術師が研究して開発したものを、民間の職人が複製する、というやり方で普及するのが一般的だ。
「知り合いでもいるのか?」
「一応ね? もうおじいさんだけど」
「・・・・・・ふむ」
もしかすると、古いミュグラ教団の団員かもしれない。
「それで、俺たちのところに?」
「あっちの子たちは忙しそうだし、あっちは食事の用意してるしで、一番暇そうだったから」
「はっきりしてんなあ・・・・・・」
「言い出したのは、バッドだから」
バッドからは、地下二階以降で出やすい魔獣についての情報をもらった。
『瘤』から発生する魔獣は、犬や猫など、割と小型ですばしこい四足の魔獣。
または、蛇やトカゲにカエルなども多いという。
どちらにせよ、遺跡の狭さに呼応して、発生する『瘤』も小さくなるため、大型な魔獣はそうそう出現しないという。
「・・・・・・たまに、地下には広間みたいなところがある。そういうところで結構大きいのが出ることはあるかもしれない」
それで、こちらからは何が話せるだろうか、とモリヒトが地下二階で犬型の魔獣を倒して、魔石を手に入れた話をしたら、慌てて走って行ってしまった、というわけだ。
「もらったものに見合った情報だったのかね?」
ほとんど大した話はしていないと思うのだが、それでいいのだろうか、と首を傾げる。
「十分。魔獣の核石は、滅多に出ないから、出たって情報だけでも十分にいいわ。特に、地下二階ってのがいい」
「なんで?」
「地下深くほど、『瘤』から出てくる魔獣は強くなるから」
「強いやつほど、いいのが出る?」
「そういうこと。地下二階のあっさいところで出るんだったら、もっと深いところなら、なおのことってね?」
「・・・・・・別に、一回出たからって、他で出やすくなるとは限らんだろうに」
「それはそうなんだけど、なんとなく他が出たなら、自分も出そうじゃない?」
ノエミは、そう言って笑った。
「ふうむ。そういう、ものか?」
結局のところは、運次第、という話である。
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