第18話:キャンプ地で
犬型魔獣。
地下二階で遭遇したそれの死体を引っ張って、一度地上に帰還する。
このまま探索を続けるのもいいが、せっかくこの遺跡で見つけた、初めてのそれなりに大型の魔獣である。
「どんなもん?」
「・・・・・・軽い。魔獣だわ」
犬の頭を持ち上げて、上下させるクルワが、モリヒトの疑問に簡単に答えた。
魔獣は、基本的に魔力で身体能力を強化している。
そのせいか、全体的に虚弱なものが多い。
特に、魔獣となってから長くなるほど、その傾向が強い。
魔獣となってから長いと、基本的には個としては強くなる。
一方で、魔獣、というのは、通常の食事をほとんど摂らなくなる。
魔力で生命を維持できるようになる反動か、食事を摂らず、魔力での生命維持を優先していくのだ。
結果、食事を摂らないために、肉体はやせ衰えていく。
加えて、魔力による強化は、肉体にかかる負荷の軽減を招くため、純粋に筋力なども落ちていく。
そして、最終的には、魔獣は消える。
「・・・・・・妙な話だ。倒さないと困るけど、魔獣自体は、放っておくといずれ消える、っていうのも」
「まあね。ごくまれに、体のほとんど魔力で補って、動く魔力みたいになった、かなり希少な魔獣もいるけどね」
そういうのは、妖魔、などと呼ばれるようになる。
実体のない、魔力のみ。
ほとんど、生きた魔術だ。
この領域に至ると、ほとんど倒す術はなくなってしまう。
そういった妖魔は、倒すためにはその体を構成している魔力より上の魔力で作られた魔術をぶつけるぐらいしか、対応策がない。
下手な魔術をぶつけても、吸収されて逆に強くなってしまうからだ。
「・・・・・・そういうのと、会ったことあるか?」
「ボクでもないよ」
一説には、そういった存在は、現れると同時に、どこからか光が降ってきて押しつぶすという。
「それが、真龍による攻撃だっていう人もいるね」
ともあれ、
「で、そういう魔獣っていうのは、大体自分の肉体を維持するため、核を持っている、と」
クリシャが、魔獣の死体にナイフを突き立て、その胸郭を開く。
すると、そこから血に濡れた石のようなものが出て来た。
「これも、魔石の一種」
「・・・・・・一種?」
「魔石の性質、知ってる?」
「魔力を吸収する」
「そう。正確には、容量がいっぱいになるまで魔力を吸って、次は空になるまで吐き出す。この繰り返しだね」
魔石の不思議な特徴だろう。
溜めることのできる魔力は、地脈を流れる魔力のみだ。
「ただ、この魔獣から取れる魔石は、ちょっと違うんだよね」
「ん?」
聞くところによると、採掘される通常の魔石は、吸収しているときは吸収しかしないし、放出するときは放出しかしない。
だが、魔獣の体内から採取できる魔石は、
「いつも吸収していて、いつも放出している」
「・・・・・・魔石じゃないんじゃないか?」
「ところが、研究してみると、魔石と同じ成分なんだよねえ」
面白いよね、とクリシャは笑う。
ともあれ、魔獣から採取できる魔石は、常に一定量の魔力を蓄えた電池となっている。
内包する量が少なくなると吸収の力が強くなり、多くなると放出量が多くなる。
だが、基本的には、吸収も放出も同時に行う状態になる。
「・・・・・・変なの」
「まあ、そういう性質を持っているから、魔獣の体内にあるんだと思うけどね」
ちなみに、これらの魔石は、『瘤』の魔獣か、相当長い時間を生きた魔獣の中からしか採れないらしい。
そのため、結構なレアものなのだとか。
「高く売れるよ」
「そいつはいいね」
** ++ **
「おお。魔獣の核石じゃねえか」
戻ったところで、近場にキャンプを張っていた行商人に魔石を見せると、そんな声が上がった。
「兄さん方、運がいいなあ」
「いいのか?」
「そりゃそうさ。狩場にしている冒険者ってのはいるがね。こういうもんをとれるような魔獣と遭うことは稀なんだ」
「なんでさ? ここって、そういうのが出やすい場所だって聞くぜ?」
「出たところで倒せるかどうかってのが一つ」
「ふむ」
「それから、確かにここの地下は『瘤』が発生しやすいがね。それでも、小物だと、核石がないことがあるんだわ」
「・・・・・・へえ」
小物すぎると、魔石を核としない場合があるらしい。
あるいは、
「学者先生の間じゃあ、『瘤』から出て来たばっかりの魔獣は、逆に石がねえ、って人もいるなあ」
「そういうものか・・・・・・」
「ま、こいつは、魔術具のいい素材になるんで、高く売れるぜ」
「金より、ある程度食料とか調味料とかほしいわ」
クルワが、商人と会話するモリヒトの横から顔を出した。
「足りてないのか?」
「あるけどね。魔獣の肉っておいしくないし」
「なるほど」
「あと、ネズミとか蟲とか、食べたい?」
「・・・・・・んー。食べ応えなさそうよな」
「それもあるわね」
単純に、不潔なので食品とするにはどうか、という問題もあるが。
「ああ、そういう需要は、それなりにあるからよ。商品としちゃあ、あるぜ? で? どのくらいほしい?」
「そうね・・・・・・」
交渉は、クルワに任せた方がよさそうだ、と判断して、モリヒトはその場を離れる。
キャンプに戻ると、フェリが何やら冒険者に囲まれて構われていた。
「ぼー」
「うわあ。面白い特技だなあ、嬢ちゃん」
火を噴いては、周囲の冒険者がはやし立てている。
フェリも、まんざらではない様子で、火を噴いている。
「・・・・・・ええっと、これは?」
「フェリみたいな小さい子がいるのはどうしてかって、気にしてた冒険者がいてね」
様子を見守っていたクリシャに聞いてみると、そういう答えが返ってきた。
「あの程度なら、かくし芸の一つで済むから」
「なるほど?」
体の形を変えるのは、さすがにやりすぎだが、火を噴いたり、手の平に雷を出す程度なら、魔術が使えるならできる。
特に、この大陸では、魔術師は少ないだけあって、魔術でできる、というと、不思議現象は受け入れられやすい傾向がある。
「・・・・・・いや、まあ、いいんだが」
「楽しんでるみたいだから」
「ふむ」
頭を撫でられて、何かもらっている。
「あれは?」
「飴でしょ」
「・・・・・・いいのか?」
「あっちがくれるっていうんだから」
そういうものか、とモリヒトは黙ってみておくことにした。
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