第16話:探索を進める
「ほう・・・・・・。ばらばらの死体が・・・・・・」
「ああ、さすがに、あそこまでばらばらだと持って帰れないんで、比較的無事なものだけ持って帰ってきた」
遺跡の入り口まで戻り、キャンプを張っているユルゲンへと持ち帰ったものを渡す。
それらを見て、ユルゲンはなるほど、とうなづいた。
「被害者は、盗掘者でしょう」
「・・・・・・わかるのか?」
モリヒトには、正直わからない。
冒険者だとしても、違和感はないのだが、
「装備品の種類と質での判断ですね」
ユルゲンは、持ち帰ってきた遺品を並べる。
「この遺跡に入る者は、冒険者、調査員、盗掘者におおまかに分けられます」
「ふむ」
「冒険者は、魔獣狙い。調査員は、遺跡調査狙い」
「じゃあ、盗掘者は?」
「そこですね」
ユルゲンは、盗掘者のところから回収してきた武器の一つを指さす。
それは、細い刃の短剣だ。
「これは、対人用。魔獣を相手にするには細すぎる」
魔獣というのは、総じて人間より肉体的に強い。
急所を狙えば一撃で殺すこともできないではないが、今ここにある剣の切れ味ではそもそも魔獣の外皮を貫けるかも怪しいし、たとえ貫けたとしてのもその内側の肉で止まる可能性が高い。
魔術を使える発動体や魔術具の刃ならともかく、魔獣の肉が持っている強力な身体強化作用は、そうそう簡単には破れない。
遺跡は、魔力が豊富な地脈の上だ。
地下部分は、特に魔力が多く溜まっている。
発生する魔獣は、総じて外の魔獣より強力な可能性が高い。
「魔獣を相手にする冒険者としては、この刃は質が悪い。内部でならず者を相手にするために、対人用の準備をすることはありますが、それにしたって、これはない」
次に取り出したのは、ピッケルだ。
片手で振れる程度の軽いものである。
だが、本格的な調査用、というわけでもない。
せいぜいで、小物をいくらかはがせる程度だろう。
「これも、盗掘用の装備ですね。遺跡の壁をはがすか何かを狙っているのでしょうが、調査員ならばこういうものは使わない」
この程度の大きさでは、はがすにしても遺跡を傷つけてしまう。
調査員なら、そんなことはしない。
問題ない範囲を大きく切り取るため、それなりに大がかりな器具を持ってくる。
それ以前に、できるだけ遺跡は破壊しないようにするものだ。
「要するに、冒険者としても、調査員としても装備が中途半端。それでいて、品質も悪い。こういうのは、盗掘者のものですな」
「なるほど」
ユルゲンの説明は、納得できる。
モリヒトは、ふーん、とうなづく。
とはいえ、
「盗掘者とはいえ、ばらばらになってたのは気になるな」
「そうだね。ばらばらになっちゃったのは、魔術具の暴走によるものだとは思うけど」
クリシャも、うーん、とうなりながら、補足をした。
「魔術具を使わないといけないほどの何かと出会った、っていうことだもんね」
「・・・・・・どうだろう? あそこで、相打ちになった可能性は?」
「盗掘者同士がかち合って、戦いになったっていうこと?」
モリヒトの推論に、クリシャとクルワは、ふむ、と考えながら、見た現場を思い出す。
「・・・・・・ない、んじゃないかしら?」
「ボクも、ないと思う」
「理由は?」
「盗掘者同士なら、争う理由がないんだよね」
「そもそも、遺跡の中で誰かと会ったからといって、争う理由ってないわよね」
何かしら、お宝でも持っていたなら、それを奪うため、というものも考えられるが、
「アタシたちが調べた限り、死体を漁った形跡はなかったわ」
「そうなると、あの場で全部死んでる?」
「そうなると、やっぱり相打ちっていう線はないかなあ?」
「なんでさ? 盗掘者なんてやってるなら、他の奴らが持ってる荷物を奪う、とか、あるだろ?」
「確かに、冒険者や調査員を襲うならず者はいますな」
ユルゲンが言うには、内部が暗いこともあって、強盗の類は出やすいらしい。
あるいは、死体を漁るものもいるという。
「確かに、片方が冒険者なら、そういうこともあると思うよ? でも、あそこに転がってたのは、たぶん全部盗掘者だ」
「盗掘者同士は、そういう争いをしないってことか?」
「そりゃそうだよ。盗掘なんてやってるやつが、値打ちものを持ち歩くと思う?」
「・・・・・・なるほど?」
仕事をしていない泥棒が、値打ちものなど持っているわけがない。
そうなれば、争うだけ無意味になる。
「不思議なもので、盗掘者は、同類はわかるらしいですな。変なにおいでもするのでしょうか?」
ユルゲンが、皮肉げな笑みで首を傾げた。
「・・・・・・結局、結論としては、なんかいる?」
「あるいは、冒険者の中の腕利きが、返り討ちにした、という可能性もあるかと」
「それだったら、平和だよねえ」
一番問題がないパターンだろう。
とはいえ、
「警戒必須」
「そうだね」
** ++ **
それから数日。
モリヒト達は、地図を頼りに、遺跡の地下を探索していた。
途中で出会った魔獣は、ネズミや虫などが魔獣化したものばかりだった。
時折、調査員や冒険者とすれ違うこともあったが、彼らとは友好的に挨拶をして終わった。
『赤熱の轟天団』のマークを借りてつけていたことも、理由としては大きいだろう。
一国の王子が率いる『きれい』な傭兵団として、『赤熱の轟天団』の名は知れているらしい。
行き会った冒険者と魔獣についての情報を交換しながら、モリヒトは端から順に地下遺跡の探索を進めていくのだった。
状況が変わったのは、そうして地下一階層の探索を終え、さらに下の階層に移った時だった。
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