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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第9章:遺跡
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第15話:むせ返るような

 少し、時間を巻き戻す。

 遺跡の地下通路を進む一行があった。

 彼らは、六人の盗掘者であった。

 この遺跡は、重要そうなことはあるが、出入りの制限まではされていない。

 王国は、そこまでこの遺跡を重要視していないからだ。

 かつては、この遺跡から得られる知識によって、魔術関連の技術が発展したこともある。

 だが、それも大分昔の話だ。

 近年では、趣味レベルの調査員くらいしか内部探査は行っていない。

 地下は広大で複雑だが、もうその大部分は捜索済みで、地図もできている。

 それもあって、近年では、封鎖は解いて、入りたいものは入れるようになっている。

 ごくごくまれに、未踏の区域が発見されることもあり、その場合は王国からかなりの額の報奨金が出るため、一攫千金を夢見て、遺跡に入る冒険者は後を絶たない。

 その中で、冒険者と区別をつけづらいのが、盗掘者だ。

 探索が終わっている地域でも、例えば遺跡の壁や、装飾の入った柱をはがして持っていくということをしたりする。

 他には、先に中に入った冒険者を襲って、その装備を奪うならず者や、途中で湧いた魔獣に殺された冒険者の装備を拾う死体漁りなど。

 犯罪者もそれなりにいるのだ。

 そして、今地下遺跡を進む一行も、そういう犯罪者の盗掘者の一団であった。

「なあ、ほんとうにあんのか?」

「見つかればな」

 一団の中で、ならず者たちがそんな会話をしている。

 実際、いまだこの遺跡の全容が解明されている、とは思われていない。

 ただ、この一団の狙いは、そういう未踏区域ではなかった。

「こんなぐっちゃぐちゃなところとはなあ」

「それはそうだけどな。一応、地図はあるから」

 地図に関しては、基本的に王国の管理下にあり、王国から認可を受けていないと閲覧はできない。

 とはいえ、内部で魔獣にやられて全滅する調査隊もいるし、そうでなくても自力でマッピングすることもできる。

 盗掘者であろうとも、いくらか金を積めば地図を手に入れることはできた。

 出来はお察しのレベルではあるが、あるとないでは大違いだ。

 自分たちで補足を入れながら、盗掘者たちは進んでいく。

「てか、本当にいんのか?」

「うるせえ。気を付けて探せ」

「でもよお。魔獣とかいるんじゃ・・・・・・?」

「いたとしても、すぐ逃げりゃ大丈夫だ。魔獣除けもあるしな」

 ちなみに、ここでいう魔獣除けとは、魔石のことである。

 魔獣は、魔力が強くこもったものがあれば、それを優先して追いかける。

 それを囮にして逃げるのは、よくある魔獣除けの手段である。

「・・・・・・あ?」

 だが、彼らの命運も、そう長くは続かなかった。

 カンテラの明かりに照らされる暗闇に、不意に遺跡の壁とは違う色が混じる。

 それは、人だった。

 白い色の長身の男だ。

「・・・・・・なんだあ? てめえ」

「おい、やめろ。同業だろ」

 その姿を見て、盗掘者たちはそう判断した。

 まっとうな人間には見えなかったからだ。

 だが、

「・・・・・・」

 はあ、とその男はため息を吐いた。

「ああ、うぜえ・・・・・・」

 男はぼやき、そして動いた。

 どごん、と強い衝撃と鈍い湿った音が鳴る。

「え・・・・・・?」

 盗掘者の男がふと振り返ると、隣にいたはずの仲間が消えていた。

 そして、目の前に立っていたはずの、白い男が通り過ぎて、後ろにいる。

 白い男は、壁に拳を打ち付けていて、その伸ばした腕の下に、ずるりと倒れるものがある。

 それは、先ほどまで話していた仲間の、首のない、正確には、首から上がはじけ飛んでつぶれた死体であった。

「あ、ああ?」

 明かりがカンテラのものしかないこともあって、今、目にしたものが何かわからず、盗掘者たちは混乱する。

 その中で、白い男はさらに動いた。

 続く動きで、二人目の頭をはじき飛ばし、さらに踏み込んで、三人目の胸部を拳が突き抜ける。

 そのまま腕を横に振ると、そこで三人目の死体が上下にちぎれてしまった。

「て、てめえ、よくも・・・・・・!」

 そこでようやく、盗掘者たちが武器に手をかけるが、わずかな抵抗にもならなかった。

 四人目は数発の拳で全身をバラバラにされ、五人目は剣を持って突き込んだ腕をつかまれて引きちぎられた上、蹴りで胴から割れた。

 最後に残った一人は、魔術具を使おうとして、

「あ・・・・・・!」

 魔術具の輝きが不安定となり、暴発した。

 周囲をめちゃくちゃにし、粉塵が沸き起こる。

 粉塵が収まるころ、そこには無傷の男が立っていた。

 ほんのわずかな時間で、六人の盗掘者は全滅した。

「ち」

 舌打ちを一つ。

 その後、白い男は振り返り、通路の奥へと消えていった。


** ++ **


 むせ返るような血の匂いがする。

 狭い閉所の中だ。

 こもった血の匂いが、とても濃い。

「・・・・・・なんだあ、こりゃあ」

「ひどいね、これは」

 血の匂いに鼻を押さえながら、モリヒトは足元を見る。

「爆弾でも使ったか? すげえばらばら」

 血肉があちらこちらに散っている。

「んー。いや、そうじゃなさそう」

「ん?」

「ほら、これ」

 クリシャが拾って見せたのは、ばらばらになった何かの破片だ。

「魔術具の欠片だね。たぶん、魔術具を使おうとして、暴走したんじゃないかな」

「ああ、この辺の魔力が濃いから、か?」

「それに、魔術具の質も悪いね。・・・・・・うーん」

 だが、それだけではないな、とクリシャは察する。

 壁にある打撃痕。

 死体のいくつかにある傷跡。

 それらを見て、

「なんでいうか、すごい力を持った何かにめちゃくちゃにされて、対抗のために魔術具を使おうとしたら、ぼん、て感じかな?」

「魔獣か?」

「違うわね。魔獣にしては、壊し方がきれいすぎる。魔術具にしろなんにしろ、魔獣だったら、もっと破壊は徹底的になるわよ」

 クルワの見立てを聞いて、モリヒトはさらにううん、とうなる。

「どういうこと?」

「わからないけど、でも・・・・・・」

 クリシャが、地面にある血をなぞる。

 ある程度は固まっているが、いくらかが手についた。

「これがされたのは、割と最近。そんなに昔じゃないね」

「ふむ・・・・・・」

 しばらく、周囲の見分をする。

「とりあえず、なんか手掛かりになりそうなものを持って、帰ろうか」

「そうだね。初日だし、今日はここまでってことで」

 その日は、引き上げることになった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


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