第15話:むせ返るような
少し、時間を巻き戻す。
遺跡の地下通路を進む一行があった。
彼らは、六人の盗掘者であった。
この遺跡は、重要そうなことはあるが、出入りの制限まではされていない。
王国は、そこまでこの遺跡を重要視していないからだ。
かつては、この遺跡から得られる知識によって、魔術関連の技術が発展したこともある。
だが、それも大分昔の話だ。
近年では、趣味レベルの調査員くらいしか内部探査は行っていない。
地下は広大で複雑だが、もうその大部分は捜索済みで、地図もできている。
それもあって、近年では、封鎖は解いて、入りたいものは入れるようになっている。
ごくごくまれに、未踏の区域が発見されることもあり、その場合は王国からかなりの額の報奨金が出るため、一攫千金を夢見て、遺跡に入る冒険者は後を絶たない。
その中で、冒険者と区別をつけづらいのが、盗掘者だ。
探索が終わっている地域でも、例えば遺跡の壁や、装飾の入った柱をはがして持っていくということをしたりする。
他には、先に中に入った冒険者を襲って、その装備を奪うならず者や、途中で湧いた魔獣に殺された冒険者の装備を拾う死体漁りなど。
犯罪者もそれなりにいるのだ。
そして、今地下遺跡を進む一行も、そういう犯罪者の盗掘者の一団であった。
「なあ、ほんとうにあんのか?」
「見つかればな」
一団の中で、ならず者たちがそんな会話をしている。
実際、いまだこの遺跡の全容が解明されている、とは思われていない。
ただ、この一団の狙いは、そういう未踏区域ではなかった。
「こんなぐっちゃぐちゃなところとはなあ」
「それはそうだけどな。一応、地図はあるから」
地図に関しては、基本的に王国の管理下にあり、王国から認可を受けていないと閲覧はできない。
とはいえ、内部で魔獣にやられて全滅する調査隊もいるし、そうでなくても自力でマッピングすることもできる。
盗掘者であろうとも、いくらか金を積めば地図を手に入れることはできた。
出来はお察しのレベルではあるが、あるとないでは大違いだ。
自分たちで補足を入れながら、盗掘者たちは進んでいく。
「てか、本当にいんのか?」
「うるせえ。気を付けて探せ」
「でもよお。魔獣とかいるんじゃ・・・・・・?」
「いたとしても、すぐ逃げりゃ大丈夫だ。魔獣除けもあるしな」
ちなみに、ここでいう魔獣除けとは、魔石のことである。
魔獣は、魔力が強くこもったものがあれば、それを優先して追いかける。
それを囮にして逃げるのは、よくある魔獣除けの手段である。
「・・・・・・あ?」
だが、彼らの命運も、そう長くは続かなかった。
カンテラの明かりに照らされる暗闇に、不意に遺跡の壁とは違う色が混じる。
それは、人だった。
白い色の長身の男だ。
「・・・・・・なんだあ? てめえ」
「おい、やめろ。同業だろ」
その姿を見て、盗掘者たちはそう判断した。
まっとうな人間には見えなかったからだ。
だが、
「・・・・・・」
はあ、とその男はため息を吐いた。
「ああ、うぜえ・・・・・・」
男はぼやき、そして動いた。
どごん、と強い衝撃と鈍い湿った音が鳴る。
「え・・・・・・?」
盗掘者の男がふと振り返ると、隣にいたはずの仲間が消えていた。
そして、目の前に立っていたはずの、白い男が通り過ぎて、後ろにいる。
白い男は、壁に拳を打ち付けていて、その伸ばした腕の下に、ずるりと倒れるものがある。
それは、先ほどまで話していた仲間の、首のない、正確には、首から上がはじけ飛んでつぶれた死体であった。
「あ、ああ?」
明かりがカンテラのものしかないこともあって、今、目にしたものが何かわからず、盗掘者たちは混乱する。
その中で、白い男はさらに動いた。
続く動きで、二人目の頭をはじき飛ばし、さらに踏み込んで、三人目の胸部を拳が突き抜ける。
そのまま腕を横に振ると、そこで三人目の死体が上下にちぎれてしまった。
「て、てめえ、よくも・・・・・・!」
そこでようやく、盗掘者たちが武器に手をかけるが、わずかな抵抗にもならなかった。
四人目は数発の拳で全身をバラバラにされ、五人目は剣を持って突き込んだ腕をつかまれて引きちぎられた上、蹴りで胴から割れた。
最後に残った一人は、魔術具を使おうとして、
「あ・・・・・・!」
魔術具の輝きが不安定となり、暴発した。
周囲をめちゃくちゃにし、粉塵が沸き起こる。
粉塵が収まるころ、そこには無傷の男が立っていた。
ほんのわずかな時間で、六人の盗掘者は全滅した。
「ち」
舌打ちを一つ。
その後、白い男は振り返り、通路の奥へと消えていった。
** ++ **
むせ返るような血の匂いがする。
狭い閉所の中だ。
こもった血の匂いが、とても濃い。
「・・・・・・なんだあ、こりゃあ」
「ひどいね、これは」
血の匂いに鼻を押さえながら、モリヒトは足元を見る。
「爆弾でも使ったか? すげえばらばら」
血肉があちらこちらに散っている。
「んー。いや、そうじゃなさそう」
「ん?」
「ほら、これ」
クリシャが拾って見せたのは、ばらばらになった何かの破片だ。
「魔術具の欠片だね。たぶん、魔術具を使おうとして、暴走したんじゃないかな」
「ああ、この辺の魔力が濃いから、か?」
「それに、魔術具の質も悪いね。・・・・・・うーん」
だが、それだけではないな、とクリシャは察する。
壁にある打撃痕。
死体のいくつかにある傷跡。
それらを見て、
「なんでいうか、すごい力を持った何かにめちゃくちゃにされて、対抗のために魔術具を使おうとしたら、ぼん、て感じかな?」
「魔獣か?」
「違うわね。魔獣にしては、壊し方がきれいすぎる。魔術具にしろなんにしろ、魔獣だったら、もっと破壊は徹底的になるわよ」
クルワの見立てを聞いて、モリヒトはさらにううん、とうなる。
「どういうこと?」
「わからないけど、でも・・・・・・」
クリシャが、地面にある血をなぞる。
ある程度は固まっているが、いくらかが手についた。
「これがされたのは、割と最近。そんなに昔じゃないね」
「ふむ・・・・・・」
しばらく、周囲の見分をする。
「とりあえず、なんか手掛かりになりそうなものを持って、帰ろうか」
「そうだね。初日だし、今日はここまでってことで」
その日は、引き上げることになった。
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