第13話:遺跡の場所
調査隊の拠点、というものを見る。
石を組んで作られた、割と雑な小屋である。
それとその周辺には、テントがいくらか張られている。
「さて、あそこに、『赤熱の轟天団』のキャンプがありますね」
「なるほど」
テントの上に、『赤熱の轟天団』の団旗がある。
その下には、見慣れた筋肉がいる。
「・・・・・・遺跡は?」
「何が?」
「いや、調査隊の小屋とかテントとかはわかるけど、遺跡ってどこにあるんだ?」
ぱっと見渡す限り、岩場が少しあるくらいだ。
「地表部分は、あの岩場の裏の影ですな」
ユルゲンが指さした先は、小屋より大きい岩がいくつか並んでいて、その向こう側は見通せない。
「あの向こう側は、くぼ地になっていましてな。この位置からだと見通せない程度の深さがあるのです」
「ほうほう」
見に行ってみようか、とモリヒトは思うが、
「モリヒト君。調べるのは、明日からだから」
クリシャに止められて、モリヒトは、そうか、とうなづいた。
「そうねえ。もう夕方だし、遺跡の様子を見るのは、明日にした方がいいんじゃないかしら」
クルワからもそう言われた。
「そうか」
「我々は、先遣隊と情報を共有してきます」
ユルゲン達が離れていったのを見送って、モリヒトは持ってきたテントを張っていく。
「・・・・・・立てやすいテントで助かるよ」
棒を立てて、布を張って、ロープを張る。
それで簡単にできるものである。
割と雑に立ててもなんとかなるのは、この大陸の気候が温暖だからだ。
屋根になるような布さえ張ってあれば、それで特に困らないだろう。
モリヒトがそうやっている間に、クルワとクリシャはかまどを作って、食事の用意をしていた。
「フェリ。火。ぼーってやって」
「ぼー」
フェリが吹いた火で、煮炊きを始めていた。
そうしている間に、日が暮れてくる。
だが、調査拠点は、かなり明るい。
魔術具による明かりだ。
研究員たちが、夜の間も調査内容の研究をやっているため、いつも明るいのである。
「・・・・・・これは困る」
新たに棒を立て、その間に布を張って、明りを遮る幕を作っておく。
「・・・・・・明日から、調査開始、か」
** ++ **
翌日、岩場を越えて、くぼ地を覗き込む。
そこには、確かに遺跡があった。
四角い建物だ。
おそらく材質は石。
なんというか、サンドボックスのクラフトゲームで作られる、豆腐ハウスのようだ。
一方で、王都近郊にある遺跡は、遺跡、というイメージには似つかわしくない、とモリヒトは感じた。
外見を見る限り、それほど古さを感じない。
遺跡の外観より、これまでに通ってきた街の建物の方が、どちらかというと古さを感じるほどだ。
「・・・・・・妙な感じだ」
その壁に触れると、砂粒が指先について、線が残る。
「んー」
「妙なものでしょう?」
その様子を見ていたユルゲンが、モリヒトに向かってそう言った。
「特に保護のための何かをしているわけでもないのに、ふしぎと遺跡は新しさを保っている、と」
「・・・・・・魔術的な保護がかかっているわけでもないね」
クリシャも、壁に手を触れて、何かを確かめている。
「魔力自体は濃いけどな」
「地脈が近いからだね」
しかし、
「・・・・・・規模、小さくないか?」
モリヒトが周囲を見回す。
ぱっと見る限り、いくつかの建物が集合したくらいの大きさで、村ほどの大きさもない。
遺跡の中の魔獣の調査が依頼だったが、この規模では、全体を調査するのに、半日もかからない。
「ああ、この遺跡の本体は、地下部分です」
「地下」
足元を見下ろす。
「どこかから入るのか?」
「入口は、この建物の中に数か所。どれも同じ場所につながっています」
「ほうほう」
そして、
「地下は、そこから、かなり広く、広がっています」
アリの巣のようだ、とユルゲンは語る。
もはや、遺跡というより、ダンジョンだろう。
そして、地下にあるからか、地脈の影響をよく受ける。
「そのせいなのか、突然魔獣が発生することもあります」
「マジで?」
「小規模な『瘤』が発生している、と考えるのが妥当だね」
クリシャが補足した。
『瘤』というのは、地脈にできる魔力が蓄積したゆがみだ。
『瘤』は発生した後、時間が経つと魔獣を発生させる。
大概の『瘤』は、魔獣を発生させると消滅する。
とはいえ、『瘤』から発生する魔獣は、通常の魔獣に比べると、きわめて強大である。
「・・・・・・つまり、遺跡の中の魔獣って、もしかして強い?」
「一般の魔獣に比べると、やはり強い傾向がありますね」
ユルゲンは頷いた。
だから、調査隊以外にも、魔獣狙いの狩人も多いらしい。
「なるほどなあ・・・・・・」
モリヒトは、うーん、とうなる。
「しかも、地下ってことは、暗い?」
「ええ。かなり」
魔術具の効果が不安定になりやすい遺跡だ。
それだけに、明りの魔術具の効果もかなり微妙なものになる。
だから、遺跡に入る者達は、たいまつなどで明かりを用意する。
「・・・・・・俺らは?」
「魔術でいけるでしょ」
「なるほど」
クリシャの言う通りだ。
「そういうところも含めて、カシラはあなた方にご依頼したんでしょうな」
「なるほど」
モリヒトは、納得してうなづいた。
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