第12話:移動する
カラジオル大陸。
その街に来て、モリヒトが驚いたことがある。
夜が明るいことだ。
ヴェルミオン大陸で訪れた都市は、夜になれば暗くなるのが当たり前だった。
オルクト魔帝国帝都でならば、夜も明るいところはあったが、ごく一部、公共施設や、盛り場くらいであった。
夜中になれば、民家などは普通に明かりを決して眠ってしまう。
だが、こちらは違う。
ただの民家ですら、しっかりと明るい。
魔術具が発達しているこの大陸では、明りは魔術具で賄われる。
その明かりの燃料は、そこらに落ちている石で十分だ。
若紫色の石であれば、それを適当な大きさに削って魔術具にセットするだけで、光源となる程度の小さな魔術具であれば、それだけで稼働する。
ほぼ元手なしの明かりとなれば、広く普及しているのである。
そのためか、夜でも明るい家は多い。
その家々から漏れ出す光で、夜でもある程度明るいのだ。
その生活スタイルは、元の世界のモリヒトのそれに近い。
山の上では、日が暮れれば眠るスタイルだっただけに、街では夜も結構遅くまで起きているので、驚いた。
「・・・・・・つか、眠いな」
「生活スタイルがね」
ふふ、とクルワは苦笑した。
夜になると、周りが明るいので、感覚がおかしくなる。
眠いのに、なんだか眠れない状態だ。
「でも眠くない」
「酒いれる?」
「・・・・・・やめとくわ。余計に眠れなくなりそうだ」
街の宿で、窓から下を見下ろしながら、モリヒトはぼやく。
夕食はすでに終えていて、もう寝てもいい時間だ。
だが、外はまだ行き交う人も多い。
この時間でも働いている人は多いようだ。
開いている店も多い。
さすがに二十四時間営業の店はないようだが、酒場などでなくとも、日付が変わる時間くらいまで営業している店は、普通にあるらしい。
「・・・・・・俺の国だと、この時間働いている人って、結構普通だったからなあ」
「異常な国ね」
「・・・・・・よく言われてたなあ。それは」
ははは、とモリヒトは笑う。
仕事をしていなくとも、この時間まで起きている、というのは当たり前の社会だった。
それだけに、テュールにいたときは、かなり早く寝るなあ、と思ったものだ。
そのうち慣れたが。
「・・・・・・朝日とともに起きて、日が暮れたら眠るってのは、やってみると案外楽なのよな」
「そう?」
「なんかね?」
モリヒトは、そう感じる。
「ま、とはいえ。明日は早いから」
明日は、目的地である遺跡へと向かって出発する。
数人の同行者がいる、ということで、早朝からの出発、ということになっている。
「そうだな。寝てしまおう」
板戸を下ろして窓を閉めれば、外からの光は大体さえぎられる。
多少うるささはあるが、窓枠に布をかけてしまえば、その音もあまり気にならなくなる。
「・・・・・・おやすみ」
「ええ」
** ++ **
移動は、基本的に徒歩である。
馬車もあるが、今回は徒歩だ。
「歩きだと、どんなもん?」
「そうですな・・・・・・。まあ、十日ほどでしょうか」
同行者である『赤熱の轟天団』の団員に問う。
今回同行することになったのは、四人。
ユルゲン、シュテファン、マルクス、ハンス、とそれぞれに名乗った。
外見で見分けるのは難しい。
全員が同じような筋肉で、黒光りしている。
服装も、ほとんど同じである。
せいぜいで、ユルゲンがモヒカン、シュテファンがつるっぱげ、マルクスが坊ちゃん刈りで、ハンスがアフロ、というくらいだ。
リーダー格なのは、ユルゲンらしく、質問をするともっぱらユルゲンが答えてくれる。
他の三人は、大きな荷物を背負い、黙々と歩いていた。
もっとも、視線を向けると、白い歯をきらめかせて、謎のポージングを決めてくるが。
「馬車を借りた方が速かったかね?」
「先遣隊は、すでにそうしていますよ」
この派遣は、モリヒト達だけではないらしい。
件の遺跡には、普段から調査のための研究者たちが常駐している。
その保護のために、二十人ほど、先に現地入りしているという。
「・・・・・・ぶっちゃけ、俺らが行ったところで、仕事あるのかね?」
「我々は、魔術そのものは不得手ですから」
「ん?」
「正直な話、あの遺跡には、魔力が極端に濃い場所、というのが何か所かあるんですよ」
ユルゲンの言葉に、モリヒトはさらに首を傾げた。
ユルゲンは、何とも言い難い顔をしている。
「もしかして、行ったことあるのか?」
「ええ。なんだかんだ、あの場所は魔獣のたまり場になりやすいので、討伐依頼や、調査員の護衛依頼なども多くて。傭兵の出番が多いんですな」
「へえ・・・・・・」
だとすれば、
「余計に俺らの出番なくない?」
「ははは。言ったでしょう? 魔術を使える、というのは優位なのです」
「それは・・・・・・」
「魔力の濃い場所では、魔術具は誤作動を起こしやすい。安全のためには、魔力の濃い場所にいる魔獣を、魔力の薄い地帯へと引っ張り出す必要があるわけです」
だが、これはなかなかうまくいかない。
やりようとしては、狙いの場所の中で、魔力をひたすらに消費する魔術具をあえて起動させ、そうすることで魔力を薄くしたうえで、魔力のこもった魔石を餌に誘い出すという。
だが、魔力が希薄な地域へと誘い出された魔獣は、狂暴化する。
それまで、濃い魔力の中で力を蓄えていたものが、急に暴れ出すのだ。
周辺への被害が発生しかねない。
「ですが、魔術が使えれば、こちらから先手を取れるわけですな」
魔獣は、魔力の濃い地帯にいるなら、おとなしくなる。
近づいても敵対してこないこともあるくらいだ。
つまりは、魔術で狙い放題である。
「期待していますよ?」
「・・・・・・あんまり、荒事は期待しないでほしいぜ。こちとら、女子供が半数以上なんだから」
もっとも、その女子供の方が、男より圧倒的に強い一団ではあるのだが。
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