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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第9章:遺跡
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第11話:仕事前

 この世界で、海、というのは深い。

 大陸周辺でなければ、人間が海底にたどり着くことは、おそらく不可能だろう。

 だが、その海底で生きるものはいる。

 魚介類、あるいは、海獣だ。

 知っている人間は皆無と言っていいが、深海に近づくほど、海獣は小型化していく。

 水圧によって圧縮されるからだ。

 一方で、力は深海にいるものの方が圧倒的に上だ。

 ただ、深海にいるものは、基本的に動かない。


** ++ **


 カラジオル大陸近海。

 その深海には、一匹の蛇がいる。

 大陸すら囲えるのではないかと思えるほどに長い蛇が、海底にゆったりを身を横たえ、ゆっくりと呼吸をしている蛇だ。

 蛇のくせに、鰓呼吸をしているので、もしかしたらウナギかもしれない。

 それはともかく、横たわる蛇の体。

 小さな山のようなそれに挟まれた、谷、あるいは盆地、とでも表現するような場所に、明らかに自然物ではない地形が存在する。

 蛇の肉体は、それらの地形を器用に避けて横たわっていた。

 まるで、それらの地形を回避しているようであり、あるいは、懐に抱いて守っているようでもあった。

 蛇は、ゆるやかに横たわるだけで、動きはない。

 その周囲を、大小さまざまな深海魚が動いている。

「―――!」

 瞬間のことであった。

 不意に、海底が蠢動した。

 わずかに蛇が身じろいだのだ。

 ほんのわずかなこと。

 だが、蛇はその巨体をわずかに動かした。

 そして、その身じろぎは終わる。

 ほんの少し海底から巻き上がった砂塵は、海底を濁らせる。

 だが、それもやがては落ち着いていき、元の海底の静寂へと戻っていった。

 ただ、わずかに違っていたことがある。

 蛇の巨体が取り巻く、とある場所から、蛇の胴体が普段より離れていたことだ。


** ++ **


「さて、そういうわけで、仕事の時間だ」

 気分を盛り上げるべく、モリヒトはもらった情報を整理する。

「行先は、王都から少し離れたところにあるなんかの遺跡」

「なんかって・・・・・・」

「よくわからんし」

 モリヒトは、肩をすくめた。

 遺跡の正体はわかっていない。

 今回の件で重要なのは、

「その遺跡に魔獣の類がいないか。その調査をすること」

 可能なら、排除も含めるらしい。

「ボクたちだけでっていうのも、ちょっと無茶ではあるよね」

「遺跡あさりの冒険者が、大体いつもいるんだと」

 むしろ、そいつらには気をつけろ、とも言われた。

「『赤熱の轟天団』の中で、傭兵を続ける選択をしたやつらが、何人か先に派遣されてるらしいから、現地合流」

「要は、そういう傭兵業の一環として、報酬のある仕事をもらったってわけよね」

「そういうことだ」

 ぶっちゃけてしまうと、さほど危険度の高くない依頼で、報酬をくれよう、という話ではある。

 もっとも、モリヒト達の戦闘能力を高く見ている、というのも事実だろう。

 バンダッタとの戦闘でも、かなりの威力を発揮したのだから、それは当然といえる。

 加えて言えば、モリヒト達が魔術をメインの戦法としている、ということも大きいだろう。

 魔術具を使う者がおおいこの大陸で、魔術をメインとする、というのは大きい。

「遺跡のある場所は、地脈の上らしいからなあ」

 魔力の満ちた場所だ。

 魔術具は、誤作動を起こす可能性が高い。

 専用の調整を施していなければ、暴走する危険すらある。

 それだけに、魔術のみで戦闘が可能なモリヒト達は、うってつけですらあるのだという。

「ま、仕事があるのはいいことだ。それなりに時間をかけられる依頼だっていうのもありがたいね」

 なにせ、

「迎えが来るまでは暇だからなあ」

 ははは、とモリヒトは笑うのだった。


** ++ **


「・・・・・・あれか」

「あれね」

 夜の闇。

 その中で、星の光を受けて輝く三色の色が混じった白髪。

 ミケイルだ。

 となりにサラを連れた状態で、高台から下を見下ろしている。

 二人が見下ろしている先には、たむろっている獣の群れがあった。

「・・・・・・ただの獣だな」

「そうね。魔獣の類ではないわ」

 二人は、近隣の村であった魔獣の目撃情報から、討伐の依頼を受けて動いていた。

 暇つぶしと適度な戦闘訓練を兼ねる、日銭稼ぎである。

 先の事件以降、ベリガルからの連絡もなく、二人は流れの傭兵として生活をしていた。

 もっとも、今回は、外れだ。

 魔獣の目撃情報だったが、そこにいたのは、ただの獣である。

 特に魔力が濃い地帯でもないのに、魔獣が狂乱せず、のんきにしている。

 ただの獣だ。

「・・・・・・ま、とはいえ、肉食獣。狩っておくか」

「そう? わかったわ」

 サラは立ち上がる。

 それに対し、ミケイルはその場で、ぐい、ぐい、と屈伸をして、

「じゃ、行ってくる」

「あら」

 ミケイルは、跳んだ。

 まるで一瞬、姿が掻き消えたように見えるほどの速度で、ミケイルは獣の方へと跳躍する。

 それから、地面に着地し、駆け出す。

 獣が気づき、反応するまでの間に、ミケイルは近づき、ぶん殴った。

 首を撃ち抜かれた獣は、そのまま首の骨を折って、息絶えた。

「さて、と」

 そのまま、周囲に散った獣を追ってつぶしていく。

 やがて狩り終わり、死体を持って戻ってくると、サラが解体を始めていた。

「ほら、手伝ってよ」

「はいはい」

 ふう、とミケイルはため息を吐きながらも、手伝いに入った。

「ねえ?」

「なんだ?」

「これからどうするの?」

「別に、このままでもいいと思うがなあ」

「・・・・・・本当に、そう思ってる?」

「・・・・・・あのおっさんから、何かない限りは、な」

「・・・・・・あの人の言うこと、聞く必要あるのかしら」

「・・・・・・・・・・・・」

 ミケイルは、答えなかった。 

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


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