第10話:調査依頼
ウェブルストの呼び出しに応じて、城へと来たモリヒトとクルワは、そのまま城の一室へと通された。
「よう。来たか」
「お呼びだそうで。王子殿下」
「やめろ。めんどうくせえ」
け、と吐き捨てるウェブルストだが、その恰好は、以前のような半裸ではない。
きちんと仕立てられたできのいい服を着ている。
ただ、結構ぱつぱつだ。
「サイズが合ってないな」
「仕立て直しの最中だ」
「・・・・・・ああ、旅している間に筋肉が膨れたのか」
「膨れたんじゃない、鍛えたんだ」
ウェブルストは、憮然とした顔をした。
ぱつぱつ、とは言っても、きちんと着れているあたり、もともと筋肉だったのだろうとはわかる。
ただ、それ以上に鍛えてくる、とは思っていなかったのだろうか。
「普通は、やせるんですよ」
その隣には、普通にきれいな恰好をしたリーレイアがいる。
案内された先で、モリヒトは、この夫婦に出迎えられたのだ。
ちなみに、部屋にはクリシャとフェリもいる。
「そうなのか?」
「曲がりなりにも、王族ですから、かなり裕福な生活をしているのです。それが、旅の中では、食べる量が減りますから。普通は、ある程度やせるものなのです」
「なるほど」
とはいえ、若い時期に旅に出る。
場合によっては、十代で出ることもあるため、旅の間にある程度成長する。
だから、普通は衣服に関しては、伸びる方には余裕があるが、膨らむ方には余裕がないらしい。
「なんとかむりやり詰めてる状態なのです」
「ふん・・・・・・」
半裸ではない、とはいっても、胸元は開いているし、いろいろスリットが入った服に、上から余裕のある服を羽織ることで、ごまかしているようだ。
「急いで仕立て直し中。おかげで、立太子式も遅れそう・・・・・・」
リーレイアに横目で見られて、ふん、とウェブルストは顔を逸らす。
「旅を続けるにしても、どこかの国の王都によるなりしていれば、サイズを計っておくことはできたのに・・・・・・」
そのあたりは、ウェブルストの手落ちだろう。
四か国はどれも友好国である。
王族の巡礼も、どの国も共通の行事であるため、どの国でも王族は歓迎される。
その際には、その国でサイズを測り、その国の衣装を作る、というのは、当たり前の流れであるし、その際にサイズも共有される。
だが、ウェブルストの場合、三か国目の巡礼を終えた後、そこから『赤熱の轟天団』を率いての大暴れ期間が長い。
その間に、結構サイズが変わってしまったのだろう。
「ははあ、・・・・・・大変だなあ。この国の人」
「得たものは多い」
偉そうにウェブルストはふんぞり返った。
「何を得たんだ?」
「在野の人材だ。結構優秀なのを引き抜けてなあ・・・・・・」
「その大半が、かなり常識外れなので、城の中は大混乱しているのです」
「・・・・・・うーむ」
優秀でも取り立てられていない、そこにはきちんと理由があった、ということだろう。
「・・・・・・ほんと、この国の人大変だなあ」
ははは、とモリヒトは笑っておく。
「・・・・・・まあ、いい。それより、今日お前を呼んだ理由についてだ」
ウェブルストは、表情を引き締めた。
** ++ **
「遺跡?」
「そうだ」
ウェブルストが言うには、王都から数日離れた距離に、遺跡があるのだという。
「なんの遺跡だ?」
「わかっていない。昔から、よく調査隊は派遣されているんだがな」
「そうなのか?」
カラジオル大陸の連環国家を名乗る四国が成立する以前から、その遺跡はあるらしい。
記録も残らないほどの、大昔だという。
「・・・・・・真龍に聞けば?」
「知っていると思うか? 知っていたとして、教えてくれると思うか?」
ウェブルストにそう聞かれ、うーむ、とモリヒトは悩む。
知らない可能性がまずすごく高い。
下界のことなど知らん、と言われる可能性が高い。
よしんば知っていたとして、それを尋ねるために真龍のもとを訪れることが、この大陸ではかなり困難だ。
「・・・・・・まあ、そうか」
「それに、ぶっちゃけ、なんの生産性もない場所だからな。わざわざ力を入れて調べることでもない」
優先度が低い以上は、危険を冒す意味もない。
「それで、調査隊を送ったり、趣味人が自発的に調べたりしている」
「結果は?」
「・・・・・・よくわかっていない」
建築の様式が、この大陸にあるものとは全く異なっており、どういう遺跡なのかはわかっていない。
一応、かなり高い文明の遺跡、ということはわかっているが、それ以上はさっぱりだ。
「・・・・・・ん? 俺たちに、その遺跡の調査をしろってことか?」
「いや、お前たちにそんなことを調べてもらったところで、わかることは少ないだろう? 本題はそちらじゃない」
「ん?」
ウェブルストが言うには、その遺跡から、最近魔獣が出てきたのだという。
「魔獣は、さすがに見過ごせない」
周辺に、人の住む集落はない。
だから、人の被害はまずない。
だが、魔獣がいると調査隊が入れないし、なによりも、
「魔獣の破壊衝動で、遺跡が破壊されると厄介だ」
何のために存在しているのかわからない遺跡とはいえ、その遺跡を調べることで得られた技術もあるという。
魔術の技術や、地脈関連の技術などだ。
だから、調べ終わっていない今の状況で、何かが失われる可能性は見過ごせないのだ。
「というわけで、魔獣がいないかどうかの調査だな」
とはいえ、遺跡そのものはそれほど魔力が濃い領域、というわけでもないため、魔獣が住みつく可能性は低い。
「ただ、この間の事件で、魔獣が生息域を出て移動したものがいくらかいる」
それらが遺跡に入り込んでいる可能性がある、ということだ。
それで、そういう魔獣がいないかどうか、というのを調べてほしいらしい。
「別に、うちのメンバーに任せてもいいんだがな。仕事をやる」
「お。そういうことか。コネ万歳」
「は! まあ、クリシャの知識と、お前の感覚だよりだ。もし遺跡についてもっとわかることがあったら、追加報酬も出す」
「そいつは、いい条件だ」
モリヒトは、二つ返事で引き受けるのであった。
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