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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第9章:遺跡
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第7話:王都

 アレトが乗った飛空艇が、遠くの空に飛んでいく。

 すぐに小さくなったそれから目を離し、モリヒトは、ふむ、とため息を吐いた。

「金を稼ごう」

「その日暮らしなら、一応できそうではあるけどね」

 クルワは、そんなモリヒトのつぶやきに、肩をすくめながら答えた。

 クルワはアートリアだから、その気になれば武器の姿になることで、金を使わずに生活することもできる。

 だが、モリヒトはそうはいかない。

「まあ、ボクも付き合うよ」

 クリシャの方は、いくらでも金の当てがあるらしい。

 この大陸には定期的に来ている、ということもあり、あちこちに換金率の高いものを隠している場所があるという。

 クリシャ自身とフェリの生活費をそこから出してもらうのは、まあいい。

 だが、モリヒトとしては、自分の生活費をクリシャに出してもらうのは、避けたいと思っている。

「男の意地?」

「そういうわけじゃないさ」

 クリシャの疑問に、モリヒトは肩をすくめる。

 単純な話、

「仕事をしない男は、存在価値がない」

「真面目だねえ」

「個人的なもんだよ」

「じゃあ、やっぱり男の意地じゃないか」

「甲斐性って言ってくれや」

 クリシャは、けらけらと笑った。

「それでも、クルワにおんぶにだっこになっちゃうのに」

「・・・・・・それを言われると弱いねえ」

 結局のところ、モリヒトが戦うには、クルワを使うしかない。

「アタシは、モリヒトの武器だから」

 ばつの悪そうな顔で頭をかくモリヒトの腕を取って、クルワは笑う。

「存分に頼ってもらっていいの。その方が、アタシの価値は上がるから」

「頼もしい」

 ともあれ、

「ウェブルスト次第かなあ。もしかしたら、仕事を振ってもらえるかもしれんし?」

「場合によっては、『赤熱の轟天団』に合流するのもありかな?」

「しばらくは、一緒にいても問題なさそうではある」


** ++ **


「王都へ行くぞ」

「ん?」

 見送りが終わり、宿に戻ったモリヒトに、ウェブルストは開口一番そう言った。

「オレの都合で悪いが、外遊が終わった王子として、一回王都に帰還しにゃならん」

「そうかい」

「あとは、今回の事件もな。オレの口で報告上げる必要もある」

「大変だねえ」

「他人事のように言ってんじゃねえよ。お前らも、いろいろ聞くことあるからな?」

「ん?」

 モリヒトは首を傾げたが、そもそもそんな風に逃れられるわけもない。

 ミュグラ教団の起こす事件、というのは、この大陸ではそれほど多くない。

 だが、今回の事件は、下手をするともっと莫大な被害をもたらしていた可能性があった。

 仮に、ハミルトンが、バンダッタを人の住む街などに向けていた場合、その被害はひどいものになっただろう。

 バンダッタには、他者の魔力を吸収する性質があるため、そこらに生きているものを食ってどこまでも巨大化する。

 都市部では、大きくなれる大きさには限界があるだろうが、それでも、あの不定形は殺しきれない。

 何せ、人間が持っている、バンダッタの巨体を殺しうる力は、魔術のみだ。

 だが、バンダッタには、魔術は効きが悪い。

 悪い、というか、魔術を撃ち込めば撃ち込むだけ魔力を吸収されるため、最終的に強化することにつながる。

「そういうもんを生み出して、使われた。・・・・・・その後に起きた魔獣の大移動も含めて、事件が終わったっていうことを説明するためにも、王都にいかないとな」

「なるほど?」

「で、事件にかかわってたお前らだ」

「俺は解決に協力した、健気な一般市民だぜ?」

「言ってろ」

 ともあれ、ウェブルストによって、モリヒト達は王都へ向かうことになった。

「どのくらいかかるんだ?」

「ここからなら、三日もかからん」


** ++ **


 さすがに王都は、それなりに巨大だ。

 オルクトの帝都に比べると、さすがに規模は小さい。

 ただ、テュールと比べると大きい。

 一方で、その壁や街並みから感じる、都市の歴史は、テュールやオルクトのそれより古く見える。

 もっとも、テュールはまだ三百年ほど。

 オルクトに至っては、技術革新が発生する都度、都市の施設が結構な頻度で建て直されているため、比較的都市は新しいのだ。

「・・・・・・ふーむ」

「ちなみに、この世界の街並みって、どこもかしこも大体こんな感じだよ?」

「そうなのか?」

 クリシャが言うには、テュールやオルクトが特殊なのだという。

 テュールは、異王の召還に伴い、異世界の知識や風習が流れ込むため、極めて独特な街並みを形成している。

 また、オルクトのように、比較的高い頻度で都市を改造するような国家は、この世界には少ないそうだ。

 基本的に、どの大陸にも、真龍に対する信仰のようなものがある。

 そのためか、真龍の魔力の性質に沿った都市構造ができる。

「だけど、オルクトは、テュールからの影響もあって、そこらへんが結構ぶれてるんだよ」

「ん?」

「真龍のいない世界の文化の影響、ていうこと」

 そういうものか、とモリヒトは思う。

 当たり前にあるものがない世界。

 それは、この世界の人間には想像がつかないのだろう。

「家の作りとかにも影響出るのか?」

「出るみたいだね。ボクも、いろいろ回っている果てにようやく気付いたことだけど」

 昔のクリシャは、いろいろな大陸を回っていた間、それぞれの都市構造の違いに、それほど違和感を得なかったらしい。

 だが、テュールやオルクトを見ていて、ふと気づいたらしい。

「オルクトやテュール以外は、根っこが似てる」

「根っこ?」

「・・・・・・見たら、気づくかもね」

 くすくす、と笑って、クリシャは王都の街並みを見回す。

 それに倣って、モリヒトが周囲を見回した。

 石を使った建造物の多い都市だ。

 オルクトにも似ているが、こちらは色が淡い印象を受ける。

 それは、使われている石に若紫の色が鮮やかにあり、それを取り巻く装飾が、淡い色合いのものが多いからだろうか。

「うん?」

「建物の色とかだけ見ていてもだめだよ。もっと、都市構造全体を見ないとね」

「ん?」

 モリヒトは、更に周囲を見まわす。

「・・・・・・よくわからん」

「だろうねえ」

 ふはは、とクリシャは笑った。

 その笑いに、モリヒトはむっとするが、どうやらクリシャには答えるつもりはないらしい。

「そのうち、わかったら教えてあげよう」

「へーへー」

「おら。行くぞー?」

 遠く、ウェブルストがこちらを手招きしていた。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


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