第7話:王都
アレトが乗った飛空艇が、遠くの空に飛んでいく。
すぐに小さくなったそれから目を離し、モリヒトは、ふむ、とため息を吐いた。
「金を稼ごう」
「その日暮らしなら、一応できそうではあるけどね」
クルワは、そんなモリヒトのつぶやきに、肩をすくめながら答えた。
クルワはアートリアだから、その気になれば武器の姿になることで、金を使わずに生活することもできる。
だが、モリヒトはそうはいかない。
「まあ、ボクも付き合うよ」
クリシャの方は、いくらでも金の当てがあるらしい。
この大陸には定期的に来ている、ということもあり、あちこちに換金率の高いものを隠している場所があるという。
クリシャ自身とフェリの生活費をそこから出してもらうのは、まあいい。
だが、モリヒトとしては、自分の生活費をクリシャに出してもらうのは、避けたいと思っている。
「男の意地?」
「そういうわけじゃないさ」
クリシャの疑問に、モリヒトは肩をすくめる。
単純な話、
「仕事をしない男は、存在価値がない」
「真面目だねえ」
「個人的なもんだよ」
「じゃあ、やっぱり男の意地じゃないか」
「甲斐性って言ってくれや」
クリシャは、けらけらと笑った。
「それでも、クルワにおんぶにだっこになっちゃうのに」
「・・・・・・それを言われると弱いねえ」
結局のところ、モリヒトが戦うには、クルワを使うしかない。
「アタシは、モリヒトの武器だから」
ばつの悪そうな顔で頭をかくモリヒトの腕を取って、クルワは笑う。
「存分に頼ってもらっていいの。その方が、アタシの価値は上がるから」
「頼もしい」
ともあれ、
「ウェブルスト次第かなあ。もしかしたら、仕事を振ってもらえるかもしれんし?」
「場合によっては、『赤熱の轟天団』に合流するのもありかな?」
「しばらくは、一緒にいても問題なさそうではある」
** ++ **
「王都へ行くぞ」
「ん?」
見送りが終わり、宿に戻ったモリヒトに、ウェブルストは開口一番そう言った。
「オレの都合で悪いが、外遊が終わった王子として、一回王都に帰還しにゃならん」
「そうかい」
「あとは、今回の事件もな。オレの口で報告上げる必要もある」
「大変だねえ」
「他人事のように言ってんじゃねえよ。お前らも、いろいろ聞くことあるからな?」
「ん?」
モリヒトは首を傾げたが、そもそもそんな風に逃れられるわけもない。
ミュグラ教団の起こす事件、というのは、この大陸ではそれほど多くない。
だが、今回の事件は、下手をするともっと莫大な被害をもたらしていた可能性があった。
仮に、ハミルトンが、バンダッタを人の住む街などに向けていた場合、その被害はひどいものになっただろう。
バンダッタには、他者の魔力を吸収する性質があるため、そこらに生きているものを食ってどこまでも巨大化する。
都市部では、大きくなれる大きさには限界があるだろうが、それでも、あの不定形は殺しきれない。
何せ、人間が持っている、バンダッタの巨体を殺しうる力は、魔術のみだ。
だが、バンダッタには、魔術は効きが悪い。
悪い、というか、魔術を撃ち込めば撃ち込むだけ魔力を吸収されるため、最終的に強化することにつながる。
「そういうもんを生み出して、使われた。・・・・・・その後に起きた魔獣の大移動も含めて、事件が終わったっていうことを説明するためにも、王都にいかないとな」
「なるほど?」
「で、事件にかかわってたお前らだ」
「俺は解決に協力した、健気な一般市民だぜ?」
「言ってろ」
ともあれ、ウェブルストによって、モリヒト達は王都へ向かうことになった。
「どのくらいかかるんだ?」
「ここからなら、三日もかからん」
** ++ **
さすがに王都は、それなりに巨大だ。
オルクトの帝都に比べると、さすがに規模は小さい。
ただ、テュールと比べると大きい。
一方で、その壁や街並みから感じる、都市の歴史は、テュールやオルクトのそれより古く見える。
もっとも、テュールはまだ三百年ほど。
オルクトに至っては、技術革新が発生する都度、都市の施設が結構な頻度で建て直されているため、比較的都市は新しいのだ。
「・・・・・・ふーむ」
「ちなみに、この世界の街並みって、どこもかしこも大体こんな感じだよ?」
「そうなのか?」
クリシャが言うには、テュールやオルクトが特殊なのだという。
テュールは、異王の召還に伴い、異世界の知識や風習が流れ込むため、極めて独特な街並みを形成している。
また、オルクトのように、比較的高い頻度で都市を改造するような国家は、この世界には少ないそうだ。
基本的に、どの大陸にも、真龍に対する信仰のようなものがある。
そのためか、真龍の魔力の性質に沿った都市構造ができる。
「だけど、オルクトは、テュールからの影響もあって、そこらへんが結構ぶれてるんだよ」
「ん?」
「真龍のいない世界の文化の影響、ていうこと」
そういうものか、とモリヒトは思う。
当たり前にあるものがない世界。
それは、この世界の人間には想像がつかないのだろう。
「家の作りとかにも影響出るのか?」
「出るみたいだね。ボクも、いろいろ回っている果てにようやく気付いたことだけど」
昔のクリシャは、いろいろな大陸を回っていた間、それぞれの都市構造の違いに、それほど違和感を得なかったらしい。
だが、テュールやオルクトを見ていて、ふと気づいたらしい。
「オルクトやテュール以外は、根っこが似てる」
「根っこ?」
「・・・・・・見たら、気づくかもね」
くすくす、と笑って、クリシャは王都の街並みを見回す。
それに倣って、モリヒトが周囲を見回した。
石を使った建造物の多い都市だ。
オルクトにも似ているが、こちらは色が淡い印象を受ける。
それは、使われている石に若紫の色が鮮やかにあり、それを取り巻く装飾が、淡い色合いのものが多いからだろうか。
「うん?」
「建物の色とかだけ見ていてもだめだよ。もっと、都市構造全体を見ないとね」
「ん?」
モリヒトは、更に周囲を見まわす。
「・・・・・・よくわからん」
「だろうねえ」
ふはは、とクリシャは笑った。
その笑いに、モリヒトはむっとするが、どうやらクリシャには答えるつもりはないらしい。
「そのうち、わかったら教えてあげよう」
「へーへー」
「おら。行くぞー?」
遠く、ウェブルストがこちらを手招きしていた。
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