第6話:見送って仕事探し
一か月、とアレトは言うが、それは本当に最短の場合だ。
おそらく、普通にやったら、半年以上先になるだろう。
「一応、大陸間を移動するって、結構な手間すからね」
移動時間自体は、一週間程度だ。
だがそれも、大陸間移動用の飛空艇が、かなりの速度を持っているためだ。
実際、以前にウェルミオン大陸を訪れたカラジオル大陸からの船は、船旅に半年以上をかけている。
「まあ、ともあれ、俺は一旦帰るっすよ。それで、上に報告を上げるっす」
「モリヒトは、そちらの国の一番上と知り合いなんだろう? もっと早くはならんのか?」
ウェブルストは、アレトにそう聞いている。
確かに、オルクト魔帝国は、魔皇であるセイヴの権力は強い。
やる、と言えば、最速で準備をさせることは可能だろう。
「無理じゃね?」
だが、それに否、と言ったのはモリヒトだった。
「あいつなら、たぶん、俺が普通に元気にいるって知ったら、多少遅くなっても構わねえ、とか言い出す」
「冷たくないか?」
「あと、どさくさで流れたとはいえ、一回俺のことぶった切ってるからな。気まずいんで、延ばせる分は延ばすんじゃないかね?」
「そんな気の小さい男なのか?」
「いや? むしろ、茶目っ気?」
というよりは、
「んー。マジメな話をすると、俺がヴェルミオン大陸に戻った後の影響の方を気にするんじゃないかね?」
「なんすか? それ」
「俺は、ほら、いろいろ特殊じゃん?」
「ああ、そっか」
モリヒトの言葉に、クリシャがうなづいた。
「確かに、割とあの子たち子供だし」
「・・・・・・ルイホウとか、ユキオのことかな?」
「そう」
クリシャは、あー、と上を見ながら、考える。
「あの子たち、モリヒト君がいなくなった後、相当、荒れてたから」
ユキオは、自分の力不足でモリヒトがいなくなった、と自分を責めている。
ルイホウは、もっとひどい。
自分が守るべき相手を、一人でセイヴと向い合せ、おまけに救うことができていない。
その状態で、かなり自罰的な状態になって、一時精神的にまずい状態になっていたらしい。
「ルイホウがねえ・・・・・・」
モリヒトとしては、そこまでになるかなあ、というくらい。
「あれ? あの子たちのことじゃないの?」
「そっちじゃなくて、ミュグラ教団の方」
正確に言えば、
「ベリガル」
「・・・・・・あいつか」
モリヒトは、かなり特殊な存在だ。
真龍の力の欠片を持っているおかげで、魔力を吸収する体質がある。
その体質は、モリヒトにとっての強みでもあるが、厄介な特性、ともいえる。
モリヒト自身は、魔術を使うときに強みとして利用できるようになっているが、ベリガルなら、もっといろいろ使い道を思いつくだろう。
そこらにいる『混ざり髪』などとは、まったく格が違うからだ。
「あー。そういう意味では、フェリもやばいかもしれん」
「そうだね。正直、二人はボクなんかより、ずっとベリガルにとっての価値が高い」
だが、ベリガルを、オルクト魔帝国は捕捉できていない。
とてつもなく高額な賞金までかけている、というのに、事件を起こすまで一切足跡がつかめない。
セイヴは、それだけにベリガルを非常に警戒している。
「もともとは、エリシア様を守るため、だったんすけどね。『竜殺しの大祭』の事件以降は、警戒度がめっちゃ上がったっす」
「・・・・・・それで、か」
「俺が戻る。おまけに、俺と同じくらい希少性が高いのがおまけでくっついてる、となると、そりゃ慎重にもなるだろ」
それでも、連れ戻す、ということ自体は、遂行しようとするだろう。
「で? 結局どういうことなんだ?」
「俺をあっちの大陸に戻しても、大丈夫だろうって、そういう体制を整えられるまでは、セイヴはたぶん動かん」
「となると、最短はなさそうっすね。もしかすると、半年以上かかるかも」
「だろうな」
さて、とモリヒトは腕を組む。
「まあ、アレト。とりあえず、あっちに伝えてくれ。セイヴにだけ伝えてくれればいいさ」
「いいんすか? ルイホウさんとか・・・・・・」
「クリシャが言うんだから、そっちも心配じゃんか」
「ん?」
モリヒトにはなかった視点だが、クリシャのようにたくさんの子供を見ている者の意見なら、聞くべきはあるだろう。
モリヒトが戻った時、ルイホウがどう動くか。
喜んではくれるだろうが、クリシャの予想する問題が発生する、というのが怖い。
すぐに帰れるならともかく、
「ルイホウ達に知らせた場合、セイヴを急かすだろう? だが、セイヴとしては、それで急かされるのも困るだろうからな」
心配をかけるだけだ。
「帰れる算段がつくまでは、内緒で」
「了解っす」
** ++ **
アレトは、飛空艇に乗って帰っていった。
モリヒトはそれを見送り、さて、と考える。
「とりあえず、この国で仕事を探さないとな」
「仕事って?」
クルワは、首を傾げる。
「だって、迎えが来るまでは、この国にいなきゃ、だろう? だけど、その間の宿代とかねえ」
「ああ、そっか」
うーん、とクルワは唸った。
今のところ、完全な異邦人の塊であるモリヒト達は、この土地で仕事を得るにしても、安定した仕事は難しい。
日雇いか、魔獣か何かの討伐か。
「・・・・・・ウェブルスト。なんか仕事くれないか?」
「・・・・・・一応、オレは、この国の王子なんだがな」
「王子というより、傭兵団の団長のお前の方に頼む」
「む? そうだな・・・・・・」
しばらく、ウェブルストは考える。
それから、
「まあ、あいつらに仕事を与える必要もあるしな。ちょっと考えるか」
ぽりぽり、と頭をかいて、ウェブルストはため息を吐いた。
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