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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第8章:誘蛾の火、水景の蓮
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閑話:反省会

 モリヒトは、ううむ、とうなっていた。

「どうかしたか?」

 同道していたウェブルストに問われ、ふむ、と考える。

 一行は、山を下りていた。

 クリシャは、フェリを連れてちょっと離れたところにいて、モリヒトとウェブルストの会話は、クルワが聞いている。

「あんたは、あれだよな。傭兵団の頭だし、戦闘経験多いよな?」

「そりゃあなあ。魔獣に盗賊、そのほかもろもろ・・・・・・」

 指折り数えるウェブルストに、ふむ、とさらに一つうなづき、

「ちょっとそこらへんを踏まえて、アドバイスを求む」

「なんだ?」

「俺さ。今までに何回かあぶない目にあっているわけだが」

「ほう。敵か」

「うむ。敵だ」

「それで?」

「どうにも、危なっかしいというか」

 ふうむ、とモリヒトは腕を組んで悩む。

 思い出すのは、今までの戦闘などの危地だ。

 最初は、

「襲ってきたやつの攻撃を、自分の体で受け止めて、周辺全部雷でぶっ飛ばした」

「アホだろう」

 ずばっと言われて、むう、とうなる。

 自分でもそう思う。

「改めて言われると、まあ、そうなんだけどなあ」

 その後も、

「改良のために自分の腕切り落としたしな」

「バカか?」

「言われるとは思った」

 戦いを終わるごとに、ひどい大けがを負っている。

 ルイホウがいなかったら、普通に死んでいる。

「あれか? つまり、アドバイスとは、戦ったときに怪我をしない方法か?」

「いや、そっちはもうあきらめてる」

「おい」

 だが、モリヒトは、基本的に戦いの経験がある、という生き方はしていない。

 もともとが運に恵まれないモリヒトである。

 あちらの世界にいたときに、路上のケンカに巻き込まれたことがない、とは言わない。

 実際、高校に入ってからは、よくケンカしたせいで、不良扱いされていた。

「なんだそれは? ケンカをよくしていたなら、多少は慣れるだろうに」

「・・・・・・むしろ、そのケンカの癖が悪いかもしらん」

「どういうことだ?」

「いや、街中のケンカだぞ? 刃傷沙汰になることなんか、むしろまれだし」

「そうか? 街中でケンカをするようなら・・・・・・。ああいや、チンピラややくざのやりあいでなし、民間人なら、刃物は出さんか」

「そうなるとさー。最終的に立ってる方が勝ちだから、別に多少殴られようとも、我慢すればいいわけで・・・・・・」

「なるほど。そちらに慣れてしまえば、たしかに多少攻撃を受けても、という判断もあり得るのか・・・・・・」

 ふむ、とウェブルストは頷く。

 結局のところ、ケンカによって勝負度胸はついていても、戦闘法のようなものは、あまり身についていない、ということだ。

「まあ、痛いものは痛いしな。最近は、あんまりケガしてないんだが」

 セイヴと戦ったときはぶった切られたが、あれはもうセイヴが強すぎるから仕方ない。

「どっちかっていうとさ。戦闘をこう進めようって思ってるのに、そうはならない感じがなあ」

「そんなもの、当たり前だろうが。敵だって考えている」

「モリヒトは、予想外なことが起こっても、割とよく対応できていると思うわ」

 クルワが、そんな風にフォローを入れてくれるが、

「あれは、ちょっとズルが入ってる」

「ん?」

 モリヒトは、今までの戦闘を思い返す。

 多少作戦を立てても、狙い通りの事態にならないことの方が多い。

 それは当たり前ではあるが、ある程度は流れを予測できてもいいはずだ。

 問題なのは、作戦通りに動いていても、モリヒト自身が、その作戦通りに動けていないことがあることだ。

「・・・・・・俺は、体質的に、魔術に後出しで干渉できるからな」

 魔力吸収の体質を利用した、後付けの詠唱追加だ。

 これによって、先に発動した魔術を、後から操作もできる。

「普通の魔術師が、敵の動き先を予測して石を投げているなら、俺は石を投げてから、敵の動きを見て、飛んでいる石の軌道を変えられるようなもんだ」

「それはズルだな」

「だけど、そのズルのおかげで、敵が変な動きをしても、ある程度対応できてる」

 モリヒトの体質ありき、である。

「俺としては、もうちょっときれいに勝ちたい」

「勝てばよかろう」

「そういう問題でもなくてなあ」

 なんと説明したものか、とモリヒトは思う。

「とにかく、俺は、戦い方に反省が多くてなあ」

「そうでない、ということがない戦士など、いないと思うが・・・・・・」

 うーむ、とウェブルストは腕を組んで、うなった。

 ウェブルストは、傭兵団の長として、それなりに戦果を挙げてきている。

 だが、傭兵団を立ち上げた直後などは、指揮を誤って被害を出したことだってあった。

 自分が前に出て、怪我をしそうになったこともある。

「オレの場合は、立場もあるんでな。下手にケガをするような危地に踏み込むと、部下を怪我させてしまう」

 それもあって、ウェブルストは、自分で出ることは少なくなったという。

「まあ、オレが一番強いのは変わらんから、時と場合によるがな」

 ふ、とウェブルストは笑う。

「いや、カシラも時々は反省してくだせえ」

「む」

「あっしら、カシラが前へ出るたんびに、ヒヤヒヤしてんですからね?」

「だったら、オレが出なくてもいいように強くなれ」

「へい」

 部下とそんなやり取りをしている。

 そんなウェブルスト達から視線を外し、モリヒトはクルワに目を向けた。

「なあ、クルワ」

「なあに?」

「どうやったら、間違いなく勝てるようになると思う?」

「・・・・・・」

 そう聞いたら、クルワがすごく顔をしかめた。

「なんだよ?」

「・・・・・・モリヒト」

「おう」

 ぐい、と顔を寄せられ、クルワがモリヒトをにらみつけた。

「アタシは、モリヒトのアートリア」

「おう」

「アンタが、アタシの力を完全に引き出して、使いこなしたなら、アタシはモリヒトのすべての敵を、余すことなく倒してあげる」

「・・・・・・なるほど」

 つまりは、とモリヒトは苦笑した。

「もっとうまく使えってことか」

「もっと頼って。それこそ、アタシがいないと何もできないくらいまで」

「それは・・・・・・」

 ううむ、とモリヒトは悩む。

 情けなくはないだろうか、とも思うが、

「そのくらい、心を預けてくれるなら、真龍相手だって、アタシは勝ってみせるから」

「・・・・・・そうか」

 それなら、

「頼もしいな」

「どんどん、頼りなさい」

 にこ、とクルワは笑った。

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よろしくお願いします。


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