閑話:反省会
モリヒトは、ううむ、とうなっていた。
「どうかしたか?」
同道していたウェブルストに問われ、ふむ、と考える。
一行は、山を下りていた。
クリシャは、フェリを連れてちょっと離れたところにいて、モリヒトとウェブルストの会話は、クルワが聞いている。
「あんたは、あれだよな。傭兵団の頭だし、戦闘経験多いよな?」
「そりゃあなあ。魔獣に盗賊、そのほかもろもろ・・・・・・」
指折り数えるウェブルストに、ふむ、とさらに一つうなづき、
「ちょっとそこらへんを踏まえて、アドバイスを求む」
「なんだ?」
「俺さ。今までに何回かあぶない目にあっているわけだが」
「ほう。敵か」
「うむ。敵だ」
「それで?」
「どうにも、危なっかしいというか」
ふうむ、とモリヒトは腕を組んで悩む。
思い出すのは、今までの戦闘などの危地だ。
最初は、
「襲ってきたやつの攻撃を、自分の体で受け止めて、周辺全部雷でぶっ飛ばした」
「アホだろう」
ずばっと言われて、むう、とうなる。
自分でもそう思う。
「改めて言われると、まあ、そうなんだけどなあ」
その後も、
「改良のために自分の腕切り落としたしな」
「バカか?」
「言われるとは思った」
戦いを終わるごとに、ひどい大けがを負っている。
ルイホウがいなかったら、普通に死んでいる。
「あれか? つまり、アドバイスとは、戦ったときに怪我をしない方法か?」
「いや、そっちはもうあきらめてる」
「おい」
だが、モリヒトは、基本的に戦いの経験がある、という生き方はしていない。
もともとが運に恵まれないモリヒトである。
あちらの世界にいたときに、路上のケンカに巻き込まれたことがない、とは言わない。
実際、高校に入ってからは、よくケンカしたせいで、不良扱いされていた。
「なんだそれは? ケンカをよくしていたなら、多少は慣れるだろうに」
「・・・・・・むしろ、そのケンカの癖が悪いかもしらん」
「どういうことだ?」
「いや、街中のケンカだぞ? 刃傷沙汰になることなんか、むしろまれだし」
「そうか? 街中でケンカをするようなら・・・・・・。ああいや、チンピラややくざのやりあいでなし、民間人なら、刃物は出さんか」
「そうなるとさー。最終的に立ってる方が勝ちだから、別に多少殴られようとも、我慢すればいいわけで・・・・・・」
「なるほど。そちらに慣れてしまえば、たしかに多少攻撃を受けても、という判断もあり得るのか・・・・・・」
ふむ、とウェブルストは頷く。
結局のところ、ケンカによって勝負度胸はついていても、戦闘法のようなものは、あまり身についていない、ということだ。
「まあ、痛いものは痛いしな。最近は、あんまりケガしてないんだが」
セイヴと戦ったときはぶった切られたが、あれはもうセイヴが強すぎるから仕方ない。
「どっちかっていうとさ。戦闘をこう進めようって思ってるのに、そうはならない感じがなあ」
「そんなもの、当たり前だろうが。敵だって考えている」
「モリヒトは、予想外なことが起こっても、割とよく対応できていると思うわ」
クルワが、そんな風にフォローを入れてくれるが、
「あれは、ちょっとズルが入ってる」
「ん?」
モリヒトは、今までの戦闘を思い返す。
多少作戦を立てても、狙い通りの事態にならないことの方が多い。
それは当たり前ではあるが、ある程度は流れを予測できてもいいはずだ。
問題なのは、作戦通りに動いていても、モリヒト自身が、その作戦通りに動けていないことがあることだ。
「・・・・・・俺は、体質的に、魔術に後出しで干渉できるからな」
魔力吸収の体質を利用した、後付けの詠唱追加だ。
これによって、先に発動した魔術を、後から操作もできる。
「普通の魔術師が、敵の動き先を予測して石を投げているなら、俺は石を投げてから、敵の動きを見て、飛んでいる石の軌道を変えられるようなもんだ」
「それはズルだな」
「だけど、そのズルのおかげで、敵が変な動きをしても、ある程度対応できてる」
モリヒトの体質ありき、である。
「俺としては、もうちょっときれいに勝ちたい」
「勝てばよかろう」
「そういう問題でもなくてなあ」
なんと説明したものか、とモリヒトは思う。
「とにかく、俺は、戦い方に反省が多くてなあ」
「そうでない、ということがない戦士など、いないと思うが・・・・・・」
うーむ、とウェブルストは腕を組んで、うなった。
ウェブルストは、傭兵団の長として、それなりに戦果を挙げてきている。
だが、傭兵団を立ち上げた直後などは、指揮を誤って被害を出したことだってあった。
自分が前に出て、怪我をしそうになったこともある。
「オレの場合は、立場もあるんでな。下手にケガをするような危地に踏み込むと、部下を怪我させてしまう」
それもあって、ウェブルストは、自分で出ることは少なくなったという。
「まあ、オレが一番強いのは変わらんから、時と場合によるがな」
ふ、とウェブルストは笑う。
「いや、カシラも時々は反省してくだせえ」
「む」
「あっしら、カシラが前へ出るたんびに、ヒヤヒヤしてんですからね?」
「だったら、オレが出なくてもいいように強くなれ」
「へい」
部下とそんなやり取りをしている。
そんなウェブルスト達から視線を外し、モリヒトはクルワに目を向けた。
「なあ、クルワ」
「なあに?」
「どうやったら、間違いなく勝てるようになると思う?」
「・・・・・・」
そう聞いたら、クルワがすごく顔をしかめた。
「なんだよ?」
「・・・・・・モリヒト」
「おう」
ぐい、と顔を寄せられ、クルワがモリヒトをにらみつけた。
「アタシは、モリヒトのアートリア」
「おう」
「アンタが、アタシの力を完全に引き出して、使いこなしたなら、アタシはモリヒトのすべての敵を、余すことなく倒してあげる」
「・・・・・・なるほど」
つまりは、とモリヒトは苦笑した。
「もっとうまく使えってことか」
「もっと頼って。それこそ、アタシがいないと何もできないくらいまで」
「それは・・・・・・」
ううむ、とモリヒトは悩む。
情けなくはないだろうか、とも思うが、
「そのくらい、心を預けてくれるなら、真龍相手だって、アタシは勝ってみせるから」
「・・・・・・そうか」
それなら、
「頼もしいな」
「どんどん、頼りなさい」
にこ、とクルワは笑った。
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