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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第8章:誘蛾の火、水景の蓮
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閑話:たこわさ

「たこが食べたい」

「は?」

 ふいに、衝動が出てしまった。

 街に降りて来た時、モリヒトが、酒を一杯飲んだところで、ふと思ったことだ。

「たこだ。たこを食べたい」

「たこって?」

 クリシャが首を傾げた。

 その反応を見て、む、とモリヒトは思う。

「知らんか」

「知らないよ? 何かの野菜?」

「魚? だ」

「なんで疑問形なのよ」

 クルワに突っ込まれるが、

「魚介類ではある」

「じゃあ、魚じゃないの」

 うーん、と思ってしまったが、まあ、そこはいいだろう、とモリヒトはいったん棚上げすることにする。

 今は、そんなことより、衝動である。

「なんか、たこが食べたくなった。たこわさ食べたい」

「たこ、増えた。わさ? 何なんだい? それは」

「たこのぶつ切りと、辛い野菜を組み合わせた酒のつまみみたいなものだ」

「辛いのかい?」

「わさびっていう野菜が辛い」

 たこというと、刺身か寿司のネタで食べることが多い。

 あとは、煮物が多かった。

 ただ、食べたいときになかなかない。

「タコ焼きとかいいなあ」

「焼き魚かな?」

「違う違う」

 たこというのは、

「丸い頭があって、八本の足があって、足の間に口があり、足にはそれぞれ吸盤があって、周囲の色に合わせて体色を変化させて擬態することで、敵の目を逃れたり、獲物を捕まえたりする魚介類なのだ」

「・・・・・・・・・・・・ごめん。何を言っているのかまるでわからないわ」

「おや?」

 ふむ、と考えて、

「ああ、ゆでると赤くなる」

「もっと意味が分からなくなったよ?」

 言われてみると、知らない人にたこの説明ってしづらいな、と思う。

 これでたとえば、足の付け根にそれぞれ脳があって、個別に足を操作しているんだ、とか情報ぶっこんだらどうなるだろうか。

 そんなくだらないことを考えるも、クリシャの言葉に意識を戻す。

「どちらにしても、川で取れないなら、たぶんこっちにはないんじゃないかな」

「なんで?」

「海は、あぶないからねえ」

「・・・・・・海ならいると思うんだけどなあ」

 とはいえ、実際にどこでたこが捕れるかなんてことは、モリヒトはよく知らない。

 海行ったらなんとなくいそうな気もするし、この世界なら川にいるかもしれない。

「・・・・・・ああ、でも、割と魚食ってるテュールでも見なかったしな」

 うーん、と悩む。

 とりあえず、

「この辺だと、魚売ってないしな」

 山のふもとの街だと、魚介類の類はない。

 干物の類もないため、魚を食べる風習自体ないのかもしれない。

「・・・・・・まあ、気分だしな。なんか酒飲みたくなってきた」

「はいはい」


** ++ **


 カラジオル大陸での、山の近くで酒、というと、結構強い酒が多い。

 それも、蒸留酒以外のろ過酒、というやたら度数の高い酒がある。

 酒をいくらろ過したところで、度数が上がったりはしないと思うのだが、そこは異世界である。

 山から採取できる、若紫色の砂を使ったろ過で、酒の度数だけ上げることができるらしい。

「まず、壺に砂を詰める」

「ほうほう」

「で、ひたひたになるまで酒を注ぐ」

「おー・・・・・・」

「で、一月寝かせたのが、これだ」

「・・・・・・固まってんね?」

 モリヒトは、酒屋の中で、酒屋の店主から酒の作り方を聞いていた。

 壺で作った砂酒、という種類らしい。

「で、出来上がったこの砂の塊を取り出して、搾る」

 搾り機に入れ、店主が搾ると、下の管からぽたぽたと出てくる。

「おー、出てきたな」

「これが、砂酒だ。不思議なもんで、この山で取れた砂でやった時だけ、やたらと酒精が強くなるんだよ」

「へえ?」

 不思議だねえ、と首を傾げる。

 一口飲むと、

「元の酒の味わいが消えるってわけじゃないんだな・・・・・・」

「ほぼそのままだな。酒精だけ強くなってる分、冷やすとかなりよく飲める」

「冷やす?」

「これまた不思議なもんでな」

 こいつだ、と店主は漏斗を出してきた。

 そこに目の粗い布を置き、砂を乗せる。

 その上から、砂酒を流し、下の杯で受ける。

「ほれ」

「・・・・・・うわ。なんで冷えてんだ?」

「知るわけない」

 はっはっは、と酒屋の店主は気楽に笑っている。

 ともあれ、モリヒトは口をつけて、

「・・・・・・うわー。結構飲みやすいのに、かなりきついな」

「で? どうするよ?」

「砂酒だけ瓶でくれ」

「あいよ」

 金を払い、瓶を受け取った。


** ++ **


「・・・・・・酒飲み?」

「嫌いじゃないが、これはなんかね」

「なんか、つまみと酒、っていってたものね」

「まあね」

 宿にもどって、モリヒトは、酒を取り出す。

「飲むのかい?」

「もう一つ飲み方を聞いたんでな」

 さらに、もう一つの瓶を取り出す。

「それは?」

「石の出汁」

 味のある石をじっくりと煮だして、出汁を取ったものだそうだ。

「この辺だと、酒を飲むときに、この出汁で割る飲み方があるらしい」

 あと、と用意したものがある。

「これが、酒の実」

「・・・・・・ん? 酒の実?」

「干した果物に、酒を吸わせて戻したやつだと」

 さらに、その戻したものを熱して、保存食にしたものもあるらしい。

 そちらは、非常に甘いものだという。

「・・・・・・まあ、こっちは、一口かじると酔うぞ、と」

「よくまあ、そんなの見つけてきたねえ」

「つまみでいいのを探したかったのよ」

 ただ、やはり獣の肉が多く、それ以外があまりなかった。

 仕方ないので、

「脂身の少ない赤身と、薬味を買ってきた」

「たこわさ?」

「あれはない。魚介類って、獣みたいな脂を感じないところがいいんだが、というか、そういうのがほしいんだけどなあ」

 うーむ、とうなる。

 ともあれ、

「まあ、一杯どうよ?」

「やめておくよ。ボクは、フェリと一緒に寝てる」

「そうかい」

 宿を出ていくクリシャを見送り、モリヒトはクルワに目をやる。

「どう?」

「付き合うわよ」

 ふふ、と笑いながら、クルワは杯を受け取った。

 そこに軽く注いでやる。

「なんかなあ。たこわさ、とまではいわんが、魚食いたい・・・・・・」

「山の近くにいる間は、無理じゃないかしら」

「川がないとか、すごい土地だよな」

「水は、基本的に地下水な土地なのよね。この辺」

「聞いた話だと、海岸近くになってくると、湧き水と川ができるらしいぞ?」

 不思議なものだ、とモリヒトは思う。

 木々の生える林もいくらか見えるのに、地表を川が流れていることはない。

「まあ、だから、この辺だと魚自体が珍味だそうで」

 一応、魚の干物もありはしたが、

「かなり高かった。ぶっちゃけ、この酒の瓶があと五本買えるくらい高かった」

「買おうとはしたのね」

「塩漬けも、まあ、高かったわ」

 それはともかくとして、

「まあ、一杯やろうや」

「はいはい」

 二人で、のんびりと夜を過ごした。

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よろしくお願いします。


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