エピローグ
どん、ばき、ぽい、ころころ・・・・・・
何もない地面が隆起する。
二メートルほどの高さの細い先端の丸い円錐だ。
表面はぼこぼことしているため、下から上へ鍾乳石が突然生えたようにも見える。
その結構な大きさの岩に向かい、拳を突きこむ。
岩を貫き、その内部へと突っ込まれた手が引き抜かれると、そこになめらかな石でできた球がある。
それを軽い調子で放ると、地面に落ちて、ころころとどこかへ転がっていった。
「・・・・・・何をしているんだ?」
「ふむ。いなくなった『守り手』を、もう一度作っているところだ」
バンダッタを倒した後、一晩を休んだ後に、モリヒト達は真龍ヤガルの元を訪れていた。
『守り手』を失った領域だったが、環境としては安定しているようにも見えた。
「周辺の魔力少なくないか?」
「減らしたとも」
正確には、地脈からあふれる魔力が減っているだけだろう。
地脈の中を流れている魔力量自体は、減っていない。
モリヒトは、なんとなくそれは感じていた。
「それで? 何をしに来たのかね?」
ヤガルは、また新しい石の塔を作り、その中から石球を取る。
それを転がすと、遠くへと消えていく。
「・・・・・・あれ、どうなるんだ?」
「適当なところで、アレを核として、また『守り手』となる。・・・・・・以前と、少し形は変わるだろうが」
「へえ?」
「幸い、材料は周辺に多く転がっている。いい具合のものができるだろう」
ヤガルは何でもないように言うが、その材料に心当たりのあるモリヒトしては、ちょっと引く。
ここに来るまでの間に、魔力切れで死んだと思しき魔獣の死体が、いくつも転がっていたからだ。
バンダッタの消滅後、封鎖されていた領域に踏み込んだ魔獣たちだろう。
魔力の多い領域では、魔獣というのは本来満たされるものだ。
だが、
「魔力を抜いたのか?」
「否。あれに吸われた分、地脈の通りが悪くなったので、先に流したのだよ。・・・・・・魔力を生む量は、一定故な」
それで、地表部分の魔力が薄くなったのか、とモリヒトは納得する。
魔獣、というのは、魔力の多い地域から魔力の少ない地域に移動することはできない。
魔力の多い状況に慣れた魔獣は、それより少ない状況では、酸欠のような状態になる。
そのまま、足りないところに居続ければ、待っているのは魔力切れによる死だ。
その結果、動けなくなっている、あるいは死んでいる魔獣が、そこかしこに転がっている。
よく見ていると、ヤガルが放った石球は、ころころと転がって、その死体の近くまで行くと、それを飲み込んだ。
拳大の石球に、そのまま吸い込まれるように消える。
そして、石球の方はそのまま転がっていく。
「・・・・・・材料、ねえ」
本当にそのままだな、とモリヒトは思う。
「・・・・・・あれで、『守り手』はまた生まれるわけか」
「あれで、なかなかに都合がいいものだ」
ふむ、とヤガルは、また新たに一つ石球を転がした。
「それで? 何か用かね?」
「様子を見に来ただけだ。何かが起こっている、とは思わんが、どうなったのか、ぐらいはね」
「そうか」
む、とヤガルは腕を組んだ。
その様子に、何か変わったことがあったようには見えない。
「しかし、こうしてみると、あのバンダッタってのは、『守り手』と似たようなもんなんだな」
「そうだな。特に違いがあるものではない。あれだけ『守り手』が食われたのだ。放っておいても、特に状況は変わるまい」
そんなことを言えるのは、真龍ゆえだろう、とモリヒトは思う。
もしもそんなことになっていれば、『守り手』以上に面倒なバンダッタという壁によって、真龍ヤガルの近くに行くことは金輪際不可能になっていただろう。
それでも、真龍であるヤガルにとっては、大差ないことではあるだろうが。
「・・・・・・ふん」
魔獣が山を登って暴走する現象も、バンダッタが真龍の領域をぐるりと取り囲んでしまっていれば、結局はおさまっていただろう。
バンダッタが魔力を吸う問題についても、
「どうせ、バンダッタは、魔力量が足りなくなれば、自壊して必要な魔力量減らしたろうしな」
「そうだな。そういう意味では、あれはよくできていた」
もっともらしくうなづくヤガルに、やれやれ、と思う。
「ともあれ、そろそろ俺も行こうと思うんでな」
「帰るのかね?」
「ああ。いろいろ整ったんで、本格的に帰る方法を探すつもりだ」
ウェブルストが、一度王都に帰還する、というので、それについていくつもりである。
王都の資料などで、せめて手がかりでも見つかればいい、というところだ。
それができなくても、定期的にオルクトから飛空艇が来ているらしいので、最長でも、それが来るのを待てば、何とかなるのではないか、と思っている。
「・・・・・・ま、そういうことだ。もう来ないかもしれん」
「よくあることだ」
ふ、とヤガルは笑った。
ただ、モリヒトが今日ここに来たことには、別れの挨拶の他に、もう一つ理由があった。
「俺とフェリの中から、あんたの魔力を抜いてほしいんだ」
「ふむ?」
バンダッタとやりあう際に、とにかく周囲から吸いまくった、若紫の真龍の魔力。
それについては、今もモリヒトとフェリの中に残留している。
放っておいても、いずれは消えるのかもしれないが、
「残っていると、なんか微妙に調子悪いのよ」
胃もたれの感覚に似ている。
モリヒトだけでなく、フェリの方もそれを感じているようで、
「あんたなら、俺らの中から影響を抜けるだろう?」
「可能だ。そうだな」
うむ、とヤガルは頷いた。
「新たな真龍は、やはり新たな色がふさわしかろう」
そう言って、モリヒトとフェリ。
それぞれへと手を向ける。
すう、と何かが抜けるような感覚で、モリヒトが感じていた不快感は消えていった。
「・・・・・・助かる」
「よい。帰る、というなら、それは邪魔だろうしな」
ふむ、とヤガルは手を当てる。
「モリヒトの中には、まだ漆黒の魔力も残留しているな。・・・・・・だが、これは取らないでおこう。かの大陸へ帰る、道しるべになるであろうしな」
「・・・・・・なるほど?」
そういうものか、とモリヒトは唸る。
ただ、ヤガルが言うならそうなんだろう、と思う。
「俺らは、真龍になるのか?」
「・・・・・・それは、選択次第だろう」
ヤガルは言った。
「お前たちの中には、真龍の雛の一部がある。それを、新たな真龍へと返し、人として生きるか。それともその一部とともに真龍へと融合し、真龍となるか」
どちらにせよ、
「選ぶ余地はある」
それが、ヤガルの言葉だった。
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