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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第8章:誘蛾の火、水景の蓮
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第36話:火蛾美影夢郭

 そうなのだ、と知れば、いくつかの疑問が解決する。

 モリヒトの体質である、魔力の吸収体質は、真龍由来のものだ。

 そんなものを、なぜ異世界生まれのモリヒトが持っているのか、と言えば、その理由を正確に知ることは難しいだろう。

 ただの偶然、というのは、十分にあり得る。

 ヤガル・ベルトラシュから聞いた情報で、モリヒトの中にあるのが、真龍の雛ともいえるものの一部、ということはわかっている。

 真龍の雛は、地脈の中で生まれる。

 地脈の流れは、界境域から世界の外に出て、一部が別世界に流れ着くことがある。

 『竜に呑まれ』た者が、別世界で生まれることがあるし、テュール異王国の異王は、そうして異世界で生まれた子が召還された存在だ。

 真龍の雛の一部が、偶然モリヒトの中へと流れ着いた、としてもおかしくはない。

 そうなると不思議になるのは、『花香水景(かがみかげ)蓮花(はすはな)』というウェキアスのことだ。

 現れたアートリアは、モリヒトに対し、もっと古い付き合いがある、とそう言った。

 説明はあとで、と言われて、何も聞けていないわけだが。

 だが、だとしたら、だ。

 モリヒトが、この世界で手に入れたウェキアスは、セイヴとの戦いの中で生まれた。

 戦いの中、そこに現れた『女神の種』が、レッドジャックに融合することで、モリヒトのウェキアスは生まれた。

 だが、その時点で、おかしいのだ。

 レッドジャックは、火属性を強める発動体だった。

 基本的に、ウェキアスの性質は、女神の種と融合した道具のものに近くなる。

 なのに、『花香水景蓮花』の性質は、水だ。

 火属性、と考えるには、逆である。

 それが、『花香水景蓮花』の言う、古い付き合いによるものとすれば、あの時は、新しく現れたウェキアスとアートリアの力を利用して、『花香水景蓮花』が出てきていた、と考えられる。

 では、この世界で、あの戦いの中で、モリヒトの元に現れたウェキアス、アートリアの力とは、なんなのか。

 ヒントはあった。

 レッドジャックは、火属性の双剣だ。

 そして、ウェキアスやアートリアは、持ち主と深く結びついている。

 所有者の死んだ『アラキス』ならともかく、ウェキアスやアートリアは、主人の居場所を探知できるし、なんだったら、たとえ手放したとしても、主人が呼べば手元に戻ってくる。

 離れようとしても、離れられないのだ。

 モリヒトが目を覚ました時、一番近くにいたのは、クルワだった。

 クルワが使うのは、火の力だ。

 そして、クルワが使うのは、双剣だ。

 ここまでヒントがそろっていて、クルワをそうだ、と思わなかったあたり、モリヒトが鈍いのか、それとも『花香水景蓮花』をアートリアと思い込んでいたが故に、気づかなかったのか。

 ただ、今、モリヒトの手の中に、その双剣はある。


 『火蛾美影(かがみかげ)夢郭(ゆめくるわ)』。


 薄く火の粉の舞う双剣。

 クルワが、モリヒトのそばに常にいた。

 アートリアとして顕現したクルワが、だ。

 だから、モリヒトがウェキアスを呼ぼうとするとき、いつも水ではなく、火が現れた。

 それこそが、今モリヒトが振るうべきウェキアスなのだから、それが正しいのだ。


** ++ **


「やれやれだ。回り道したねえ」

 モリヒトは苦笑しながら、構えを取る。

 バンダッタが遠目に見える。

 バンダッタが、此方をうかがっているのが見える。

「クルワ。焼き尽くすぞ」

 踏み込んだ。

 身体強化の魔術のおかげで、フェリの重さは感じなくても済んでいる。

 だから、とにかく前へ出る。

 バンダッタから、触手が伸びてくる。

 それに対して、モリヒトが剣を振るうと、炎が噴き出した。

 剣の形に伸びる炎の刃は、触手を切り裂き、その炎は触手へと燃え移って、焼き尽くす。

「・・・・・・なるほど。吸収は、ミカゲ、いや、蓮花だから、レンカとでも呼ぶべきか?」

 む、とうなりつつも、モリヒトは『火蛾美影夢郭』の能力を把握する。

 『花香水景蓮花』には、モリヒトの魔力吸収能力を強化する性質があった。

 水を広げ、その水に触れたものすべてから、魔力を吸収する性質だ。

 だが、『火蛾美影夢郭』が噴き出す炎の性質は、それではない。

 これは、

「循環して燃えるのか」

 炎が触れた対象に燃え移り、その魔力を吸収しながら、さらにその魔力を燃料にして燃える。

 モリヒトへと吸収した魔力がわたることはないが、攻撃力なら各段に上だ。

「・・・・・・バンダッタも、これで焼けるか」

 バンダッタの持っている魔力を焼き尽くせれば、それで終わる。

 これで、フェリが目覚めれば、より完璧だろう。

「・・・・・・んー」

 モリヒトの背中で、のんきに寝息を立てている。

 ただ、魔力はやはり吸われている。

「・・・・・・もう少し、かね?」

 そんな感覚を味わいながらも、モリヒトは、剣を振りぬいて、バンダッタを焼いていく。

 そうしている間に、遠く離れた場所で、凍る気配が伝わってきた。

「・・・・・・行ける、か」

 このままいけば、バンダッタを殺し尽くせるだろう。

 モリヒトは、改めて、剣を握り、戦うのだった。

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よろしくお願いします。


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