第36話:火蛾美影夢郭
そうなのだ、と知れば、いくつかの疑問が解決する。
モリヒトの体質である、魔力の吸収体質は、真龍由来のものだ。
そんなものを、なぜ異世界生まれのモリヒトが持っているのか、と言えば、その理由を正確に知ることは難しいだろう。
ただの偶然、というのは、十分にあり得る。
ヤガル・ベルトラシュから聞いた情報で、モリヒトの中にあるのが、真龍の雛ともいえるものの一部、ということはわかっている。
真龍の雛は、地脈の中で生まれる。
地脈の流れは、界境域から世界の外に出て、一部が別世界に流れ着くことがある。
『竜に呑まれ』た者が、別世界で生まれることがあるし、テュール異王国の異王は、そうして異世界で生まれた子が召還された存在だ。
真龍の雛の一部が、偶然モリヒトの中へと流れ着いた、としてもおかしくはない。
そうなると不思議になるのは、『花香水景蓮花』というウェキアスのことだ。
現れたアートリアは、モリヒトに対し、もっと古い付き合いがある、とそう言った。
説明はあとで、と言われて、何も聞けていないわけだが。
だが、だとしたら、だ。
モリヒトが、この世界で手に入れたウェキアスは、セイヴとの戦いの中で生まれた。
戦いの中、そこに現れた『女神の種』が、レッドジャックに融合することで、モリヒトのウェキアスは生まれた。
だが、その時点で、おかしいのだ。
レッドジャックは、火属性を強める発動体だった。
基本的に、ウェキアスの性質は、女神の種と融合した道具のものに近くなる。
なのに、『花香水景蓮花』の性質は、水だ。
火属性、と考えるには、逆である。
それが、『花香水景蓮花』の言う、古い付き合いによるものとすれば、あの時は、新しく現れたウェキアスとアートリアの力を利用して、『花香水景蓮花』が出てきていた、と考えられる。
では、この世界で、あの戦いの中で、モリヒトの元に現れたウェキアス、アートリアの力とは、なんなのか。
ヒントはあった。
レッドジャックは、火属性の双剣だ。
そして、ウェキアスやアートリアは、持ち主と深く結びついている。
所有者の死んだ『アラキス』ならともかく、ウェキアスやアートリアは、主人の居場所を探知できるし、なんだったら、たとえ手放したとしても、主人が呼べば手元に戻ってくる。
離れようとしても、離れられないのだ。
モリヒトが目を覚ました時、一番近くにいたのは、クルワだった。
クルワが使うのは、火の力だ。
そして、クルワが使うのは、双剣だ。
ここまでヒントがそろっていて、クルワをそうだ、と思わなかったあたり、モリヒトが鈍いのか、それとも『花香水景蓮花』をアートリアと思い込んでいたが故に、気づかなかったのか。
ただ、今、モリヒトの手の中に、その双剣はある。
『火蛾美影夢郭』。
薄く火の粉の舞う双剣。
クルワが、モリヒトのそばに常にいた。
アートリアとして顕現したクルワが、だ。
だから、モリヒトがウェキアスを呼ぼうとするとき、いつも水ではなく、火が現れた。
それこそが、今モリヒトが振るうべきウェキアスなのだから、それが正しいのだ。
** ++ **
「やれやれだ。回り道したねえ」
モリヒトは苦笑しながら、構えを取る。
バンダッタが遠目に見える。
バンダッタが、此方をうかがっているのが見える。
「クルワ。焼き尽くすぞ」
踏み込んだ。
身体強化の魔術のおかげで、フェリの重さは感じなくても済んでいる。
だから、とにかく前へ出る。
バンダッタから、触手が伸びてくる。
それに対して、モリヒトが剣を振るうと、炎が噴き出した。
剣の形に伸びる炎の刃は、触手を切り裂き、その炎は触手へと燃え移って、焼き尽くす。
「・・・・・・なるほど。吸収は、ミカゲ、いや、蓮花だから、レンカとでも呼ぶべきか?」
む、とうなりつつも、モリヒトは『火蛾美影夢郭』の能力を把握する。
『花香水景蓮花』には、モリヒトの魔力吸収能力を強化する性質があった。
水を広げ、その水に触れたものすべてから、魔力を吸収する性質だ。
だが、『火蛾美影夢郭』が噴き出す炎の性質は、それではない。
これは、
「循環して燃えるのか」
炎が触れた対象に燃え移り、その魔力を吸収しながら、さらにその魔力を燃料にして燃える。
モリヒトへと吸収した魔力がわたることはないが、攻撃力なら各段に上だ。
「・・・・・・バンダッタも、これで焼けるか」
バンダッタの持っている魔力を焼き尽くせれば、それで終わる。
これで、フェリが目覚めれば、より完璧だろう。
「・・・・・・んー」
モリヒトの背中で、のんきに寝息を立てている。
ただ、魔力はやはり吸われている。
「・・・・・・もう少し、かね?」
そんな感覚を味わいながらも、モリヒトは、剣を振りぬいて、バンダッタを焼いていく。
そうしている間に、遠く離れた場所で、凍る気配が伝わってきた。
「・・・・・・行ける、か」
このままいけば、バンダッタを殺し尽くせるだろう。
モリヒトは、改めて、剣を握り、戦うのだった。
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