第34話:最適解
「むう・・・・・・」
作戦結構前になって、モリヒトは唸っていた。
「どうしたの?」
それを見て、クルワが首をかしげる。
それに対し、モリヒトは真面目くさった顔で、
「作戦名を」
「いらんわ」
ウェブルストにばっさりと否定された。
「いやあ、俺が最終的に一番やばいことやるのに、俺のテンションが上がらんわー」
「頑張って」
「クリシャ。適当過ぎんぞ、それ」
くう、とモリヒトは肩を落とす。
モリヒトの役目は、面倒な上に危険だ。
バンダッタの伸ばした体へと魔術具を発動させたとして、バンダッタの中心。
本体とか、核、とでも言える場所は、完全に凍り付くかどうかは賭けだ。
バンダッタの再生力は、ミケイルの体の魔術を取り込んだもので、ほぼ性質は同じ、という見立てだ。
そして、ミケイルの再生は、心臓に近い部分ほど早く、逆に手足の末端部は遅いらしい。
あくまでも比較的、というレベルで、それほど大きな差はないらしいが、それはあくまでも、ミケイルが人間サイズだからだ。
また、
「体を分割しちまえば、本体じゃねえほうは、たぶん再生しない」
ミケイルも、腕を切り落とされたとき、腕は生えてくるが、腕からミケイルが生えてくることはない。
それと同じで、バンダッタの方も、再生はあくまでも本体側から、ということらしい。
ただ、バンダッタの場合、体を分断したとしても、分断した体を取り込まれれば、それは再生と変わらないらしい。
「だから凍らせるってのが有効なんだけどな」
「・・・・・・なんでよ?」
「とりあえず、動きを止める。それから、バンダッタに関しては、必ず核がある」
「それについては?」
「資料を調べてわかったことってやつよ。そっちの白チビの方はともかく・・・・・・」
フェリは、まだ眠っている。
そのフェリは、
「そっちのは、核っていうより、生きた人間を色々混ぜてとにかく強化していった結果だ。だけどバンダッタは、とにかく何でもかんでも材料にしてまとめたもんだから、まとめるための核がある」
「・・・・・・ふむ?」
「ただ、その核っていうのも、ハミルトンのやつが自分の命令を聞かせるために、いろいろやってた魔術式の塊だ」
「なるほど?」
「それで、えーーとな?」
ミケイルが、ちら、と手元の紙に目を落とす。
「・・・・・・どうでもいいが、なんだそのアンチョコ?」
ミケイルは、先ほどの説明の時から、どこからか取り出した紙を見ながらしゃべっているのが気になっている。
「おっさんから聞いた内容をまとめてある」
「むしろ先にそっち寄越せ」
モリヒトは、ミケイルの手からそれを取り上げ、内容に目を通す。
「あのおっさんこえーよ」
「それは同意する」
「なんでこんな知ってんの?」
「自明のことだろう、とか舐めたこと抜かしてたぞ」
「きもちわり」
「わかる」
「男二人で意気投合してないで、説明しなよ」
クリシャが、モリヒトとミケイルの掛け合いを中止させ、先を促す。
「ああ。そうな」
ふむ、と、一通り目を通して、
「字がきたねえ」
「そこはほっとけ」
さらに、もう一度目を通す。
そして、視線を上げたモリヒトは、ふむ、と考える。
「とりあえず、核ってのは、まああるっぽい。それから、核に俺の力が有効ってのも、あたり」
内容を読む限り、核は物質ではなく魔術式になっているらしい。
「つまるところ、バンダッタは、あれ自体がでかい魔術具の、それによって発生した魔術現象ってことらしい」
そして、核というのは、すなわち、その魔術具、ということで。
「魔術具の稼働を止めれば、それで止まる、と。なるほど。わかりやすい」
ふむふむ、とモリヒトは頷いていく。
「なんで使われた魔術式が書いてあるんですかねえ?」
「あのおっさんが、技術供与したらしいぞ?」
「やっぱ元凶じゃねえかあのマッド」
「間違えるな。最近の問題で、ミュグラ教団がらみの事件だったら、大体あのおっさんが原因だ」
「・・・・・・殺したら、世界がしばらく平和になる気がするー」
「わかるぜ」
冗談にもならないセリフを言うものの、モリヒトは、紙に書かれた内容を読み込んでいく。
書いてある内容自体は、理解できるかどうかぎりぎりのところだ。
これは、ミケイルにわかりやすいように、伝えているのだろう。
「・・・・・・魔術具に供給されている魔力を止める、か。・・・・・・むう」
そこまで読んだところで、モリヒトは顔をしかめた。
正直なところ、
「俺一人だと、出力が足りんかもしれん」
モリヒトの感覚だ。
だが、その可能性は高い。
ウェキアスを呼べれば、まだ可能性はある。
だが、今モリヒトのそばに、ウェキアス、アートリアであるミカゲはいない。
となると、少しでも成功確率を上げるなら、
「フェリを起こす」
** ++ **
フェリ。
フェリツェーラ・クル・ジェベリエータ、という長い名前があるらしいが、長いのでフェリと呼ぶ。
大事なことは、
「フェリは、魔獣じゃない」
モリヒトは、断言した。
フェリは、強化されまくってはいる。
だが、人間だ。
もっと言えば、
「・・・・・・フェリには、俺と同じ体質がある」
なんとなくで感じていたそれを、モリヒトは、言葉にした。
そして、それで確信した。
フェリが、人型の魔獣と認識されていた理由。
それは、周囲を破壊し、魔力を補給する力。
要は、魔力を吸収する力を持っていたからだ。
真龍の魔力の満ちているこの山では、フェリはあえて魔力を吸収する必要はない。
だが、街に降りても、フェリは特に魔力を求めての行動はとらなかった。
魔獣なら、確実に暴走している状態で、フェリはごく当たり前に魔力を補給していた。
その理由は、フェリには、魔力吸収体質がある、ということだ。
そして、
「ヤガルが言っていたことを含めれば、たぶん、フェリは真龍からそれを与えられているって可能性が高い」
となると、
「フェリを起こす。フェリと一緒に吸い上げれば、バンダッタの魔力を枯渇させられるはずだ」
モリヒトの考える、それが最適解となる。
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