第33話:作戦
モリヒト達は、更に少し山を下りて、バンダッタの触手から距離を開けていた。
それでも、この場所も安全か、と言われると、完全にそうとも言えない。
「なんか、あれ伸びてきてるか?」
モリヒトが見る限りだと、じりじりとだが、体積を増しているように見えた。
「おそらく、下から上がってきている魔獣をつぶして食ってるね」
「それに、真龍の魔力を吸収しているから、魔獣としての成長もあるんじゃないかな」
クリシャとクルワが、それぞれに見立てを答えた。
バンダッタにとってみれば、山に満ちている真龍の魔力は十分に吸収できるものだ。
「ちなみに、あいつ今体を伸ばしているだろう?」
ミケイルが、伸びているバンダッタの体を指さす。
確かに、壁のようにバンダッタの体が少しずつ伸びている。
あれは、放っておくと、いずれは真龍の領域を一周するだろう。
「あのおっさんの話によると、あのままだと、この大陸で発生する真龍の魔力は、全部あれに食われることになる」
「で、どこまでも成長する、と?」
その結果、大陸全体を覆う、とでも言うのだろうか。
「それ以前の問題だな」
ミケイルは、腕を組んで、バンダッタをにらんだ。
「真龍からの魔力が、地脈の端まで通らなくなる。・・・・・・その結果、この大陸にどんな影響が出るかは、さっぱりわからんってことだ」
「それは・・・・・・」
「真龍の魔力は、この大陸上に存在する、すべての存在にとって利用できる魔力だ」
本来、魔力で生存を維持しているのは、魔獣だけだ。
人間だろうが、他の動物や植物程度なら、魔力がなくなっても生きていける。
体力さえ残っていれば、自分たちで使う魔力は、自分たちで生み出せるからだ。
もちろん、真龍の魔力を使えるなら、それで魔力消費を抑えることはできるし、得なことしかない。
だが、なくても困らない。
ただ、それは生きているものに限っての話らしい。
「前例がないから、推測になるが、大陸の地形は、真龍の魔力によって維持されている、ってことらしい」
どういうことか、と言えば、真龍の魔力が濃い領域では、地盤がしっかりする。
だが、それ以外の場所では地盤がゆるくなる、ということがあるらしい。
地脈を流れる真龍の魔力が薄くなる大陸端では、砂浜などの崩壊した地形が多くなるのも、そういう理由らしい。
また、界境域に接するテュール異王国のある土地が、突然に隆起したのも、界境域によって地脈が蓋をされた結果、テュール異王国のある土地を流れる真龍の魔力が極端に高まったことが原因であるらしい。
「つまり、バンダッタに地脈の魔力をがんがん吸われて、地脈を流れる魔力が少なくなった場合」
大陸各地で、地盤沈下をはじめとした、地形の崩壊が発生する可能性があるという。
「つまり、あのバンダッタの体でできた壁の外の土地は、海に沈むかもしれん」
「・・・・・・冗談ではないな」
む、とウェブルストがうなった。
ミケイルも肩をすくめる。
「そうなっちまったら、さすがに俺も死ぬからな。そうなる前になんとかしようってことで、モリヒトの前に出てきたってことよ」
ふっふっふ、とミケイルは笑っている。
「で? 出て来たんなら、アレの対策もわかってんのか?」
どうせ、ベリガルからの入れ知恵だろうが、とモリヒトは考える。
ただ、モリヒト達が持っている火力では、おそらくバンダッタを殺しきれない。
バンダッタの再生、増殖のスピードの方が速いからだ。
「ああ。アレを崩す」
「どうする気だ?」
バンダッタをどうにかする手段を、ミケイルは持っているようだ。
ミケイルは、それを取り出した。
それは、布に包まれた拳大の石だ。
「魔術具か?」
「そうなる。簡単に言っちまうと、魔力を流すとめちゃくちゃ冷たくなる」
「・・・・・・あ?」
どういうことだ? とモリヒトが疑問に思ったところで、ウェブルストがぽん、と手を打った。
「なるほどな。そういう手か」
「ん? わかるのか?」
ウェブルストは、自分の腕にはめたガントレットを見せる。
「魔術具の欠点を逆手に取ったものだろう」
「お。さすがにこの大陸の奴はわかってんね」
へ、とミケイルは笑う。
わかっていないのは、どうやらモリヒトだけのようだ。
それを察したか、クリシャが説明をしてくれる。
「魔術具っていうのは、魔力を流すと勝手に発動するものなんだ」
「そうなのか?」
「そうだ。だから、魔術具には通常、魔力を流すためのスイッチのようなものを取り付ける」
ウェブルストがガントレットを見せてくる。
それは、手の甲側の手首付近に、回す仕組みがあるようだ。
「こいつは、ここを回すと動くようになるな」
「あと、魔術具っていうのは、基本的に魔力が過剰に流れないように、上限を決めているものなんだけどね。あの石は、その上限を解除してあるみたい」
「つまり?」
「魔力を注ぎ込まれる限り、極端に冷える」
「・・・・・・で?」
「あの魔術具を、バンダッタの中に入れるなり、近くに置くなりすれば、そこにある真龍の魔力をがんがん吸収して、どこまでも冷えて、バンダッタを凍らせちゃうだろうね」
「ほうほう」
「凍っちゃえば、もう新しい餌をとることはできなくなるし、砕きやすくもなる。それに、真龍の魔力が魔術具に食われるようになるから、バンダッタの魔力吸収の速度も減る」
バンダッタの動きを止める作戦は、それで完遂できそうだ。
「で、その魔術具はどのくらいあるんだ?
「そこそこ。麓の街で作ってくれって言ったら、割とあっさり作ってくれたからな。ここにあるだけでも、まあ、ニ十個くらいはある」
「今動くなら、十分な数だな」
ウェブルストは、ふむ、とうなづいた。
「なるほど。とにかく、それで片っ端から砕いて細かくするってことか」
ふんふん、とモリヒトがうなづく。
だが、ミケイルは、いやいや、と首を振った。
「トドメは、モリヒト。お前の仕事だぜ?」
「あん? 俺が?」
何しろってんだ、とモリヒトは疑問に思うが、ミケイルは当然のことだろ、とうなづいた。
「あいつを殺し尽くすには、あいつが持ってる魔力をなくす必要がある。それは、お前の仕事」
「つまり?」
「俺らでバンダッタを凍らせて動きを止めるから、お前がトドメ」
げ、とモリヒトが顔を引きつらせるが、他にいい手はなかった。
作戦は、そう決まったのだった。
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