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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第8章:誘蛾の火、水景の蓮
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第32話:変形

 モリヒト達は、走っていた。

「後ろは?」

「なんか伸びてきてるわ! 走って!!」

 クルワが叫ぶように言った。

 モリヒトがちら、と後ろを一瞥すると、バンダッタ色の触手みたいなものが伸びて追ってきている。

「なんだありゃ!?」

「知らないわよ! とにかく急ぐの!!」

 後ろから追いかけてきているのは、一部だ。

 バンダッタは今、真龍の領域の周囲に沿うようにして、自分の体を伸ばしている。

 やがては、その領域を全部ぐるりと囲む、肉の壁になるだろう。

 逃げるモリヒト達からは見えないだろうが、モリヒト達の後を追いかける触手より、その壁の形成の方が早い。

 そして、壁ができれば、そこからさらにモリヒト達の方へと触手が伸びている。

 そのおかげで、モリヒト達が急いで走っても、触手との距離が空かない。

「山を下りたい」

「無理! 下からは、魔獣の群れ」

 山を登ってくる魔獣の波は、まだ続いている。

 今の状況では、途中どこかで魔獣とかち合ってしまい、そこで足止めを受ければ、後ろの触手に追い付かれることになる。

 いま、モリヒト達にできることは、下りる向きに対して、横向きに走ることだった。

「ダメ。追い付かれる!」

 クルワの声が、危機感を帯びている。

 壁から伸びる触手も加わるため、モリヒト達より、触手の方が速い。

 そのせいで、モリヒト達を追いかける触手は、時を追うごとに数を増やし、圧力を増していた。

 やがては、前からも回りこんでくるだろう。

「クリシャ! 先行け!!」

 モリヒトは、ゼイゲンを抜く。

「クルワ! 火!!」

「!」

 モリヒトは、剣を構える。

「―ゼイゲン―

 風よ/巻き込め/渦のうち/引き込み/千切る/柱風/」

 モリヒトの横で、クルワが手の平に火を浮かべた。

 触手の方へと飛ばすように、クルワへと手振りで合図を送る。

 クルワがそれに従って、触手側へと火を飛ばし、

「砂礫/舞い上げ/火は踊る/刻め/燃え上がれ!」

 周辺の魔力をこれでもかとつぎ込んで、魔術の規模自体を大きくする。

 モリヒトが持つ魔力吸収能力は、真龍の魔力は吸えないが、その能力を意図的に押さえ、人間の魔術師と同じように魔術を使えば、モリヒトでも真龍の魔力は使える。

 こういう使い分けの感覚は、この山で生活しているうちに自然と身についたものだ。

 モリヒトが放った魔術は、竜巻となる。

 それは、周辺の砂を吸いあげ、竜巻自体に破壊力を持つ。

 クルワの放った火がそこに巻き込まれ、火旋風として、その魔術は現象になった。

 伸びてきていた触手は、火旋風が吸い上げる空気の流れに巻き込まれ、その内側で勢いよく回る砂粒によって、微塵に刻まれて燃え上がる。

「いける」

 モリヒトは見た。

 下から登ってきていた魔獣の群れが、巻き込まれて火旋風へと吸い上げられていく。

「クリシャ! 下への道を探して! 今ならいける!!」

「わかった!」

 クリシャは、フェリを抱えたまま、走る。

 火旋風による空気の引き込みは、モリヒト達がいるところまで来ているが、あの火旋風はまだモリヒトの制御下だ。

 モリヒト達に対する吸い込みを弱めるくらいは、まだできる。

「こっちだ。ついてきて!!」

「よし!」

 モリヒト達は走った。


** ++ **


 バンダッタの肉の壁は、そこに飛び込んできた魔獣たちへと触手を伸ばし、ひねりつぶし、そしてその内側へと取り込んで、体積を増していく。

 ウェブルストは、拾い屋たちを避難させていた。

 伝令を飛ばし、とにかく情報を伝えさせる。

 下から来る魔獣の一部を排除し、避難路を作る。

 その繰り返しをしていたところで、

「む」

 天へと突き立つ炎の柱を見た。

 モリヒトが放った魔術だ。

 それを見たウェブルストは、副官にその場を任せて、そこへと急行した。

 そして、逃げているモリヒト達を見つける。

「おい! 何があった!?」

「知るか!」

 モリヒトとクルワと名乗った二人とで、後ろから来る触手の対処をしながら、先頭を行く二人を守っているようだ。

 よく見れば、片方は意識を失い、背負われている。

「助けられたのか?」

「助けられたけど。助けた直後からあれだ! もう、とにかく逃げるしかない!!}

「対策は?」

「わからん!! ただ、放置はできん!」

 モリヒトが魔術を振るい、触手を薙ぎ払う。

 それと同時に、クルワの方も、炎を宿した剣で切り落としている。

「ち! ふん!!」

 舌打ち一つ。

 ウェブルストは、手甲に仕込まれた魔術具を起動。

 身体魔術を発動しながら、自分へと伸びてきた触手へと拳を叩き込む。

 発動した魔術具の効果は、振動による破砕だ。

 叩き込まれた衝撃を増幅。対象の肉体内部ではじけさせる。

 体の大きい魔獣を相手にすることが多いために、その内側へと効果的にダメージを通すための魔術具だ。

 ただ、想定外に魔術具の効果が、触手を伝って広範囲に伝播した。

「・・・・・・結構効果的?」

「そうでもないな。内側から弾けはしたが、千切れるほどでもない。その箇所も、すぐ再生しているようだ」

 ウェブルストの見ている先で、バンダッタの触手は傷口部分も含めて他の触手に巻き込まれ、そのままより太い触手へと変わる。

「・・・・・・ん?」

 だが、ある一定の距離を置いたところで、触手の動きが急に鈍くなった。

「・・・・・・なんだ? これなら、逃げられる、か?」

 モリヒトが疑問を口にする。

 それに対する答えは、後ろからあった。

「真龍の魔力が薄くなってきたところまで来てんだよ。そのせいで、そこまでは伸ばす気がないんだろ」

「ミケイル?」

「よっす。さっきぶりだな。モリヒト」

「・・・・・・とっくにいなくなったもんと思ってたが」

「結果の観測って仕事が残っててな」

「あいつか」

「まあ、あのおっさんだ」

 ち、とモリヒトは舌打ちする。

「誰だ?」

「お。ウェブルストだっけか? この大陸で、たぶん一番強い格闘者って話だが、合ってるか?」

「一応、今までに負けたことはないな」

「いいねえ。もうちょい余裕があれば、一本仕合を頼みてえところだ」

 ミケイルは、かかか、と笑う。

 その笑いに毒気を抜かれたか、身構えていたウェブルストは体から力を抜く。

「今はそういう場合じゃないけどな」

「・・・・・・どういうことだ? 観測が役目なら、出てくることないだろ?」

「そういうわけにもいかねえのよ」

 ミケイルは、肩をすくめた。

「なんでも、あのおっさんが言うには、あれを放っておくと、大陸全体にどういう影響が出るかわからん、とかでよ」

「あ?」

「で、それに巻き込まれたら、いくら俺でも死ぬかもしれないって言われたら、動くしかねえだろ?」

 ミケイルは、あっけらかんと語るが、それを聞いた一同の顔は険しくなっていく。

「どういうことだ? 説明しろ」

「いいぜ。その代わり、この件が片付くまでは、休戦ってことでどうよ?」

「・・・・・・わかった。それでいいから、さっさと言え」

 モリヒトは、ウェブルストや、クリシャ達とも目を合わせ、頷き合ってから、ミケイルに先を促した。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


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