第30話:誕生
モリヒト達がバンダッタを見つけられたのは、半ば偶然だろう。
あとを追いかけ、真龍の魔力が満ちる領域へと入り込み、そして、バンダッタを探すためにヤガルに会いに行こう、と思って走り出した。
そして、風景の向こうに、歪む人型を見つけ、
「いたよ。おい」
拍子抜けするほどにあっさりと、バンダッタを見つけてしまった。
「で? 試すのかい?」
バンダッタは、近づいてきたモリヒト達に気づいているのか、いないのか。
まったく動きを見せない。
クルワによって焼かれた手足は、すでに形を取り戻している。
だが、まるで置物のように動かない。
不定形な表面を波打たせることもなく、ただ、じーっとしている。
「何をしているんだろうか? あれ」
「何を考えているか、なんてわかるものか」
ふと疑問に首をかしげるが、クリシャの反応はそっけない。
それより、内部にいるフェリのことが心配なのだろう。
「・・・・・・言われた通り、やってみるか?」
「・・・・・・本当に、大丈夫かな」
「とりあえず、だけどなあ・・・・・・」
んー、とモリヒトは、首を傾げつつも、だが確信を持ってうなづく。
「たぶん、フェリはまだ取り込まれてない」
「どうしてわかるんだい?」
「・・・・・・なんでだろう?」
どうしてそう思うのか、モリヒト自身にも言葉にしづらい感覚がある。
おそらくは、フェリに力を貸している、白いモノの影響ではないか、と思うが。
具体的に、バンダッタの体のどこにいるのか、というのは、わからないが、無事でいる、ということはわかる。
「・・・・・・よし、やるか」
ぐ、とサラヴェラスを握りしめる。
そして、モリヒトは、振りかぶり、金色の杖を投げた。
** ++ **
「一応、情報は伝えたが、はたしてどうなるかねぇ?」
遠目に、バンダッタとモリヒト達を監視しながら、ミケイルは独り言ちる。
「聞いているのではないの? ベリガルから」
隣に立つサラは、周囲を警戒しながら、ミケイルに聞いた。
ミケイルは、そんなサラを一瞥し、それからモリヒト達へと視線を戻す。
「聞いちゃいるが。果たしてどうかって感じよ。あいつ、適当なことは言わないけどよ」
ミケイルにとっては、ベリガルは雇い主であり、上司だ。
命を助けてもらったこともあるため、恩義がある、というのは確かだが、あんまりそれを認めたくない。
というか、その恩義分の仕事はとうにした、と思っている。
幸い、ベリガルは報酬をケチることはないため、問題なく仕事はできているが、これで適当にアゴで使われるようなことがあれば、真っ先に暗殺していると思う。
「あのおっさん、結果は知れてるって言ってたがなあ」
「サラヴェラスに、制御のための仕組みがあるの?」
「・・・・・・いや、そうじゃねえよ」
ベリガルの言葉は、一から十まで理解できているわけではない。
ただ、ミケイルなりの理解がある。
「サラヴェラスには、洗脳の魔術具としての機能がある」
「ええ」
「もともとの状態だと、ミュグラ教団員なら、魔術の制御能力が上がる程度だが、そうじゃなければミュグラ教団員になっちまうってものだ」
「・・・・・・あの男はなんで無事なの?」
「モリヒトか? あいつは、魔術具の効果が発動したところで、その効果を魔力として吸収して、無効化できる。そういう理屈で効いてねえんだろ」
そこまではベリガルの推測だ。
そして、
「ただ、あの宝石を付け替えると、効果が変わるんだと」
「どんな風に?」
「なんでも、狂信の向きが、ミュグラ教団じゃなくなるんだと」
「どういうこと?」
「・・・・・・俺もよくわからんのだが」
ベリガルは言っていた。
バンダッタは、意思を持っていない。
あれはただ、生きているだけ。
だから、命令に素直に従う。
ハミルトン達は、それこそ、自分たちの制御技術の確かさ、と驕っていたようだが、実際には、バンダッタ側にそれを拒む理由がなかっただけのこと。
だから、
「『守り手』っていう、明確に存在意義を定められた存在を多数取り込んだバンダッタには、存在意義、とでもいうものが発生し始めている」
それこそ、『守り手』の行動をなぞろうとしてもおかしくない。
だが、そうはしない。
それは、バンダッタの材料となった、人間たちや、そのほかの魔獣たちの原因だ。
「バンダッタは魔獣だが、魔獣じゃない」
「え?」
「あれは、人が合成したもの。いうなれば、死体の山を混ぜ合わせて、大量の魔力を注いだ結果発生した、なぜか動く肉の塊ってことらしい」
フェリの方は、明確に魔獣だ、とベリガルは言っていた。
あれは、魔力に濃く浸された結果、魔獣として発生する条件を満たしている。
だが、バンダッタの方は、
「どっちかっていうと、魔術現象に近い存在らしい」
それが、生き物のようにふるまっている。
そのこと自体は興味深いが、
「魔術ってのは、イメージの産物だろう? だから、バンダッタがああなのは、そうなるようにイメージが向けられているから。・・・・・・でも、魔獣やら『守り手』やら、取り込みまくったバンダッタの中じゃあ、そのイメージがめちゃくちゃになっている」
結果、身動きが取れなくなっているのだという。
「そこにサラヴェラスを投げ込むと、そのイメージを一本に統一することになるんだそうだ」
「・・・・・・それって」
「そうなったら、あれは純粋な魔術現象。もう、何かを取り込む意味はない」
そうなれば、モリヒトあたりなら根こそぎ魔力を吸収することで消してしまえるだろうが、
「そうなる前に、あれがどういう行動に出るか。それを見て来いってよ」
ミケイルは肩をすくめ、監視を続行した。
** ++ **
モリヒトの手から離れた金色の杖は、ゆるく回転しながら、バンダッタへと命中する。
そのまま、ずぷん、とその体の中へと取り込まれた。
「・・・・・・」
しばらく、動きはなかった。
だが、モリヒト達が監視しているその先で、不意にバンダッタの体が震え、
「・・・・・・! クリシャ!!」
「うん!」
クリシャが、跳躍し、飛翔する。
その先、バンダッタから吐き出されたフェリが宙を飛んでいる。
それを空中で受け止め、クリシャはモリヒト達のところへ戻ってきた。
「・・・・・・様子は?」
「・・・・・・大丈夫。眠っているだけみたいだ」
「・・・・・・うまくいったわね」
「拍子抜けするくらいにな」
三人で顔を見合わせ、それから、バンダッタの方へと目をやった。
かろうじて人型を保っていた不定形の怪物は、今、あちらこちらをぐにゃぐにゃと歪ませ、その形をいびつに変化させている。
「・・・・・・これは」
「どうなるかな」
「わからんが、逃げる準備をした方がいいんじゃないか?」
「そうだね」
三人が、フェリを抱えて、そろり、そろり、と後ろへと下がっていると、バンダッタの動きが止まる。
そして、
「・・・・・・ァ・・・・・・ァぁ」
そんなかすかな、うめき声のようなものが聞こえた。
「どうなる?」
様子を見守る三人の前で、バンダッタの体の上に突起が一つ伸び、そこに穴が開く。
それは、口だ。
そして、
「――――――!!!!!!」
絶叫が響いた。
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